第三話 決別
屋敷を出た俺は街中をのんびり歩き、背後のデシウスは何千年ぶりかに見る街中の景色に目を奪われていた。
(成程。やはり私が生きていた頃とは街並みが違うな)
「ケケ、そりゃそうだろ。あんたが生きてたの何千年前って話だ」
(ふ、確かにな。そう言えばカイ、お前はこれからどうするか予定はあるのか?)
「いや、特に考えてねえが、金は稼ごうと思ってるぜ。なんせ、今の俺は一文無しの状態だからな。とはいえ、この街で金を稼ごうとすれば面倒な事になりそうだから、別の街に行こうと思ってる」
(む、この街では何か不都合があるのか?)
「ああ。この街は親父の縄張りみてえなもんだからな。俺が金を稼ごうとしたら必ず親父は邪魔してくるぜ~。絶対にな」
俺の言葉にデシウスはそこまでやるかと少し驚く。
ケケ、そこまでやるんだよあの親父は。
なんせ、元々の性格が終わっちまってるからな。
俺としては無事に屋敷を出して貰えただけ意外だったぜ~。
(成程。ならば、あれもお前の父の差し金か?)
「あ˝?―――へえ、付けられてるな」
俺が一歩進むごとに背後の人物も一歩進む。
確実に俺の事を付けている。
しかし、下手な尾行だねぇ。
バレねえとでも思ってんのか?
(それにしても、この足音は……)
「ケケ、だから言ったろ? 終わってるってよ~」
足音で付けている人間の正体を悟った俺は大通りから外れ、わざと人通りの少ない狭い脇道へ移動する。おら、ここなら出て来れるだろ?
「クク、馬鹿な奴め。自ら死地へ向かうとは」
そう言葉を発し現れたのは、俺の予想通り親父だった。
あ˝~、凶悪なツラしてるね~。
俺を殺る気満々だこりゃ。
「何の用だ親父。俺はもう家を出た、俺とあんたはもう関わりないはずだが?」
俺の言葉に親父は表情を強張らせ言った。
「クク、お前のような我が家の汚点をのこのこ逃がすわけなかろう。ここでお前を完全に消去してこそ我が家は完全に安泰となる。しかし、カイ。お前はいつから私にそんな口を聞けるようになった。この無能なクソガキめが!!」
そう言い親父は腰にある杖を抜き放つ。
魔術師にとって杖を抜く事は戦闘を開始すると同意。
(ふむ、確かにこの者は終わっている)
「だろ~?」
「貴様、何を呑気に独り言を喋っている! これから貴様は死ぬのだぞ!」
ああ、そういやそうだった。
俺がデシウスと喋ってる時、周りからはそう見えるのか。
これは失敗、今度から出来るだけ小声で話すか。
「親切に教えてくれて感謝するぜ親父。お礼に、あんたが必死に開けようとしても開かなかったあの箱の中にあった宝、見せてやるぜ~?」
そう言い俺はわざと親父からよく見えるように魔断剣と聖光剣を抜き放つ。
これを見た親父は目を見開き、口が醜く歪む。
「貴様、まさかあの箱を! それを今すぐ私に渡せ!」
「ケケッ、嫌に決まってんじゃねえか。てか、親父たち魔術師にこの剣は不要だろ? それを俺が貰ってやるんだから感謝してほしいくらいだけどな?」
(煽るじゃないかカイ)
「ああ、今までは猫被ってたからな。ケケッ、爽快感ぱね~」
目の前の憤怒の表情でこちらを睨む親父を目の前にして、俺は人生で最高の気分になり、顔の笑みを抑えるので必死だった。
「殺す、今すぐ殺してやる!!」
「――おっと、親父、最後の警告だ。詠唱を開始したら、俺は容赦なく親父を斬るぜ? それが嫌なら、今すぐ逃げ帰ってリクと仲良くしてな」
「ゴミの分際で偉そうな事を! 今すぐその口を閉じろ!」
激昂して親父は魔術陣を展開し詠唱を開始する。
あ~あ、一応忠告してやったのにな~。
残念、いや、別にいいか。
「一瞬で塵にしてくれる! ボルケ――――」
「遅せえ」
親父が魔術陣を展開して魔術が発動する前に、約数十メートル程の距離を縮地を使い一瞬で縮め、親父が杖を持っている右手を切り落とした。
「ガ、ガァあああああああ!!」
「ケケ、甘めえんだよ親父。まさか、俺が魔術が発動するまで呑気に待っててくれるなんて妄想してたんじゃねえだろうな? お前の目の前にいるのは魔術師でも何でもねえ、剣神だぜ?」
「け、剣神だと? 何故、お前がそんな……」
「さてな。それより親父、大事な利き腕、なくなっちまったなァ~!」
基本的に魔術師は利き腕を使い魔術を行使する。
故に利き腕をなくした魔術師は死んだも同然。
熟練の魔術師なら利き腕でなくても魔術を使う事が出来るだろうが、貴族の立場にあぐらをかき訓練を怠っていた親父にそんな事が出来るはずもない。
親父は俺の言葉にやっと自分の状態を思い出したのか、切り落とされた自分の腕を見て、声にならない叫び声を上げた。
そんな親父を見て俺は同情の欠片もなく笑う。
「クク、最高の気分だねぇ~」
(随分と恨みが溜まっていたようだな)
「当然だろ? 何年我慢したと思ってんだよ」
そうデシウスと会話をしながら俺は膝を付き絶望の表情の親父へ近づく。
親父は俺が近づいてくるのを恐怖に染まった目で見ながら、必死に少しでも俺から離れようと体を強引に後ろに引きずるが。
「残念、もう逃げ場はねえよ。だがまあ、安心していいぜ。ここで親父を殺すような非道な真似はしねえよ。例えゴミのような扱いだったとしても、育ててくれた恩は忘れねえ。だから、頑張って生きてくれよな。自慢の魔術が使えなくなったその体でよ~~!」
「あ、あァあああああああ!!」
魔術だけが全てと考えて来た親父にとって俺の言葉は余程応えたのか、体をガクブル震わせ目は白目を向き、無様に気絶してしまった。
(カイ、満足したか?)
「――ああ、最高の気分だった。さて、そろそろ止血してやらないと本当に親父が死ぬな。確か、思いを込めて斬るんだっけか?」
聖光剣で親父の傷口を斬り付けると、おびただしい量の血がピタリと止まり、最初から腕など生えていなかったと錯覚するほど、完璧に傷口は塞がっていた。
「へ~、凄げえ効き目じゃねえか」
(聖光剣は思いの強さで治癒力も大きく変わる。お前は余程その者を死なせたくなかったようだな)
「あ˝~、確かに死なせたくはなかったな。だって楽しみじゃねえか。あれだけ魔術魔術言ってた親父が魔術を使えなくなってどう生きていくか。ケケ、想像しただけで笑えて来るぜ」
(ふむ、ところで、先程の悲鳴で人が集まって来ているようだが大丈夫か?)
「――っと、流石にこんなとこ見られるわけにはいかねえか。じゃあな親父、精々魔術が使えないその体で楽しく生きてくれよな~」
そう最後に言い残し、俺は脇道を抜け街の出口へ向かう。
(さて、どこへ向かうかは決めているのか?)
「ああ、とりあえずはここから北になる街へ向かおうと思う。流石に距離が離れすぎてるから、途中で村か何かあれば助かるんだがな」
手持ちの食料は持って三~四日分。
もし途中に村などがなければ、野生の動物や魔物を狩って進むことになる。
まあ、それでも構わねえがな。
そう考え俺とデシウスは生まれ育った街を後にした。
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