第二十二話 アルス
「――で、お前はいつまでそうしてるんだ?」
俺の言葉を受け、俺達にブラドバッドの大群を押し付けた張本人、探索者と思わしき男は俺とフェリスへまず最初に土下座をかました。
「僕の名前はアルス。神様、先程は大変失礼な事をして申し訳ありませんでした! 言い訳になってしまいますが、仲間を助ける為には仕方なく――」
「あ˝~、待て待て、落ち着け」
俺の落ち着けという言葉を受けアルスと名乗る男は黙って俺を見つめる。
その目は命令を待つ犬のように従順。
俺はこの目を見てトライデントを思い出す。
あ˝~、この目をする奴は面倒なんだよな~……。
「まさか、神様ってのは俺の事か?」
「はっ、勿論です! ブラドバッド五百体を圧倒するあの剣術、まさしく神の所業! このアルス、今でも目に焼き付いています!!」
「……はあ、とりあえず神様と呼ぶのは止めろ」
「ププ、カイさんが神様、ププ~~!!」
横で面白おかしく俺の事を指さし笑うフェリスの頭を軽く小突き、アルスに俺の名前はカイだ、神様なんて二度と呼ぶなと告げた。
「了解しましたカイ様。では先程の話に戻りますが、ブラドバッドを引き連れてしまったのは仲間を助ける為なのです。勿論、仲間の為とは言え許される事ではありません。落ち着き次第、お礼の方は必ずさせて頂きます」
「あ˝~、最初からお前らがわざとモンスタートレインだっけ、あれを仕掛けたとは思ってねえよ。それと、お礼に金を要求するのだのは冗談だから気にしなくていいぜ~。勝手に俺らが助けただけだからな~」
俺の言葉に横のフェリスは、え、あれ冗談だったんですかと本気で驚いていた。
こいつ、まじで金を取る気だったのか……。
いや、まあ貰っても文句は出ねえとは思うけどな~。
「……何と、慈悲深いお方だ」
金を貰う気満々だったフェリスを後目に、アルスは俺の気にしてねえという言葉に感動を受け、涙を流し両手を合わせ俺を拝む。
その視線は怖い程に真剣。
いや、ガチ過ぎて少し引くんだが……。
「うわ~、カイさん凄い慕われてますね。というか、先程仲間の為にと言っていましたが、そのお仲間さんは大丈夫なんですか?」
「――ハッ! そうでした! カイ様、貴方の実力を見込んで一つ頼みがあります! 迷宮の奥でブラドバッドに襲われている仲間を助けて頂けませんか!?」
勿論、今回は正式な僕達からの依頼と言う事で、後で必ずお礼はします。だから、仲間をお願いしますと告げるアルスに俺は……。
「迷宮の奥って事は、ボス部屋付近か?」
「はい、ボス部屋の正面の広場です!!」
「おお、いいね~。そんなら別に礼はいらねえわ。その代わり、それまでの道案内を頼むぜ~」
「おお、感謝しますカイ様!!」
ケケ、これでボス部屋まで直行だぜ~。
丁度、五階層は道なりが複雑でボス部屋まで行くのが面倒だなと思ってたところだ、俺らにとっても悪い話じゃねえ。
「では、早速仲間の元へ案内します!!」
そう言い走り出すアルスに俺とフェリスは付いていく。
ちなみに、途中でフェリスは走るのが辛くなり、俺が背負って進むことになった。まあフェリスは素材も持ってるし仕方ねえわな。
ていうか、こいつ本当に胸ねえな。
ケケ、背中に何の感触も感じねえわ~。
「……カイさん、何か失礼な事を考えてません?」
「いや? 単にお前の胸がねえのを再確認しただけだ」
「いやいや、それ十分に失礼ですからね!! ふんだ、私もこれからきっと成長するんです! まだ十五歳、希望は捨てませんよ~!!」
「ちなみに、お前の母親はどうだったんだ?」
「……私と同じくらいでした」
「――ケケ、ご愁傷さまァ~~!!」
俺の言葉にフェリスはカイさんの馬鹿馬鹿と俺の背中をポンポンと叩き、このやり取りを見ていたアルスは何故か目を輝かせ呟く。
「剣術だけでなく女性の扱いまでも一流。流石はカイ様です!!」
……はあ、面倒な奴に好かれちまったな。
しかし、これでトライデントの奴らまでいたらまじもんの地獄だったな。あいつらから俺に対しての忠誠はこいつに負けねえもんがあった。
特に長兄のウノ、あいつはヤバかった……。
何せ、俺の着替えまで任せてくださいと言い放った男だ。
正直、少し関わるのを躊躇しそうになった時期もある。
それくらいガチな奴だった。
(ウノか。確かに奴のカイに対する気持ちは狂気に感じた事もある。しかし、カイの事を慕っていたのもまた事実。余り嫌ってやるな)
ケケ、別に嫌いな訳じゃねえけどな。
苦手な部分もある、それだけの話だ~。
そうして俺が昔の事を思い出している内に、俺達は五階層の最深部へと到着し、アルスの仲間と思われる人間を二人発見した。
「ガイ、カノン、無事か!?」
アルスの叫びに反応し、数十匹のブラドバッドに襲われ傷だらけになっている二人は助けが来たのだろう振り向く、しかし、アルスと一緒にいるのが俺とフェリスの二人だけと確認すると、俺達にこっちへ来るな、巻き添えを食らうぞとか細い声で必死に叫ぶ。
(ほう、自分たちの事より我々の事を心配か)
「――ケケ、良い奴らだね~。さてと。アルス、少しの間フェリスを頼む。俺は奴らを掃除してくるとするぜ~」
俺はアルスにフェリスを預け数十匹のブラドバッドへ駆ける。これを見たアルスの仲間の魔術師らしき女性が叫んだ。
「……駄目……貴方まで巻き添えに」
「ケケ、少し黙ってな。すぐ終わる。【点々斬首】」
前回の失敗を糧に、俺はブラドバッドの小さな小さな首を丁寧に素早く刈り取っていく。これで素材も回収出来るだろう。
「……え、なに、が」
女性がそう困惑の声を上げる頃には全てが終わり、辺り一面に首のなくなったブラドバッドの死体が散乱する。
「な、何て繊細な技なんだ!! 流石はカイ様!」
興奮した様子のアルスの声を聞き、アルスの仲間の二人は危機は去ったのだと感じ取り、その場に崩れ落ちた。
「――だ、大丈夫か二人とも!?」
先程まで俺の技に興奮していたアルスも倒れた仲間を心配しすぐに駆け寄る。そして、二人の傷の様子を確認し顔を青ざめる。
「……駄目だ、このままだと二人は、死ぬ」
アルスの言葉に驚き俺とフェリスが近づくと、二人は体中傷だらけで、アルスの言う通りこのまま放置すれば出血多量で遠からず死ぬ、そう確信した。
「アルス、転移結晶は?」
「――今回の探索は節約と考え、転移結晶は」
まあ、だろうな。
持ってるなら襲われた時点で使うわな~。
しかし、どうしたもんかね。
フェリスの持っている転移結晶を譲ってもいいのだが、持っているのは一つだけ。つまり、二人の内のどちらかは確実に見殺しにする羽目になる。
となると、アレしか方法はねえな。
人前で使うのは控えるって決めたばかりだが、仕方ねえ。
フェリスに視線を向けると黙って頷く。
どうやら俺と同意見のようだ。
「アルス、俺にはこの二人を助ける術がある。が、少々特殊な方法だ」
「――つまり、助けて貰いたければその方法を黙っておけと?」
「あ˝~、話が早えのは良い事だ。んで、どうする?」
俺の言葉にアルスは一瞬も迷うことなく即答した。
「元よりこのアルス、カイ様が黙っていろと仰るなら命にかけても秘密はお守りします! カイ様、どうか二人をお助けください!!」
「ケケ、別に命をかける必要はねえがな~」
そう言い俺は聖光剣ユミルを抜き、二人の体を斬りつける。
アルスは俺の行為に一瞬だけ目を見開き驚いたものの、俺を信じたのかすぐに落ち着き、二人の傷が治っていくのを呆然と眺める。
「――これが、神の所業か」
「違げえ、剣の力だ」
アルスの言葉に突っ込みを入れている間に二人の傷はほぼ完治し、アルスは良かった良かったと涙を流し二人に抱き着いた。
「――アルス? 私達は、一体」
「傷が、消えている……?」
自分の体の傷が消えている事に呆然とする二人に、アルスは事の顛末を二人に話していく。
「モンスタートレインを起こしてしまった僕達を、カイ様が助けてくれたんだ。あの時の剣術は本当に神業だった。本当に本当にカイ様は―――」
「あ˝~、まあそっから色々あってあんたら二人を助けたって話だ~」
アルスの話を途中で遮り結果を話す。
長くなりそうだったからな~。
「成程、貴方は私達の恩人という事か。しかし、あの傷をどうやって……」
「カノン、それには言及しちゃいけない。何故なら、君達を助けた方法は僕達三人だけの秘密。そうですよねカイ様!!」
「言い方は少しきめえが、まあその通りだ」
俺の言葉にカノンと呼ばれる女性は分かったわと頷く。
次にガイと呼ばれる男性がアルスに気になった事を聞く。
「なあアルス、お前普段と様子が違わないか?」
「何も変わらないと思うけど?」
「いや、カイさんと話している時だけ妙にテンションが高い気が」
「ん~、気のせいじゃないか?」
三人が元気に話す姿を見てもう大丈夫だなと考え、辺りに散らばるブラドバッドの素材だけ回収し、五階層のボスへ挑む準備をする。
これを伝えるとアルスは興奮した様子で。
「ブラドバッドをあれだけ倒した後に更にボスを倒しに行くなんて、流石はカイ様です! 無事にボスを倒せる事を僕も祈っています!!」
「ああ、お前らもちゃんと帰れよ~」
「勿論です! カイ様に助けられたこの命、簡単には散らせません!!」
「――ア、アルス!?」
「ん、どうかした?」
「……いや、何でもねえ」
「そうか―――ではカイ様、お気を付けて!!」
二重人格、と思える程の俺への態度に、ガイはアルスがおかしくなったと頭を抱え、カノンは恩人だもの仕方ないわと慰めた。
咳が長引いてます。
皆様も体調にはお気を付けを。
4月16日追記、申し訳ありません、風邪のぶり返しか体調が結構悪いので、次の更新は結構間が空くかもしれません。
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