第二十一話 モンスタートレイン
後半、視点変わります。
少しだけ長めです。
……まあ、今はデシウスの事は置いておくか。
とりあえず金稼ぎだと、アルエに迷宮へ潜って来ると告げる。
すると、アルエは俺に一つ注意事を。
「カイさん、一般的に迷宮は五階層毎に強力なボスが配置されていると言われています。心配は不要かもしれませんが、お気を付けて」
「……あっ、それ言うの忘れてました!!」
思い出したように言うフェリスに俺はため息を付きつつ、有益な情報を教えてくれたアルエに感謝するぜと告げ、俺とフェリスは迷宮へ潜っていく。
まずは四階層の攻略だ。
俺とフェリスは転移門を使い四階層へ移動した。
「さてと。カイさん、私の記憶が正しければ四階層から通常種のゴブリンだけでなく、ゴブリンメイジも出現するはずなので注意してくださいね」
「へえ、メイジって事は魔術でも使うのか?」
「その通りです。とは言え、ゴブリンメイジの使う魔術は威力も規模もそこまでなので、油断しなければ問題ないとは思います」
「あ˝~、了解だ」
俺はゴブリンメイジの情報を頭に入れ四階層を進んでいく。
現れる魔物は殆どがゴブリン、偶にコボルトなどが混ざるくらいで特に苦戦もなく、俺達は特に足を止める事無く順調に進んでいく。
そしてもう少しでボス部屋、といったところで。
「カイさん! あれがゴブリンメイジです!!」
フェリスが声を荒げ指を差したその先に、ゴブリンらしからぬ知性を持った目をして、片手に杖のような木の棒を持ったゴブリンメイジが姿を現す。
ゴブリンメイジは俺達の姿を視認し、すぐに敵だと判断したのか手に持った杖を俺達に向け、小さな魔法陣を展開し魔術を詠唱していく。
「遅せえな。殺るか――いや、待てよ」
魔術の発動前に斬り伏せてしまってもいいのだが、これはいい機会ではないか。
そう考え俺は魔断剣ネビウスを抜き、ゴブリンメイジの魔術が発動するのをゆるりと待つ。
そんな俺の様子にフェリスは焦った様子で叫ぶ。
「カイさん! 何を呑気に構えてるんですか!?」
「ケケ、焦るな、ただの実験だ」
俺の言葉にフェリスはこんな状況で何の実験ですか!!と更に取り乱すが、俺はそれを無視してゴブリンメイジの魔術を黙って待つ。そして――。
「ギィイギギィイイイイ!!」
ゴブリンメイジの魔術が完成し俺達に向け手の平の二倍ほどのサイズの火球が繰り出され、フェリスは俺に当たると思ったのか目を閉じ顔を逸らす。
そして俺は火球に向け魔断剣ネビウスを振り下ろし、火球とネビウスが接触したと思った次の瞬間、火球は跡形もなく霧散した。
「―――はっ、こりゃ凄げえな」
魔術を斬った、いや、斬ったという感覚さえ残らない。本当に魔断剣に触れた瞬間、奴の魔術は何の抵抗もなく霧散した。
俺は魔断剣の余りの効果に高揚しながら、自分の魔術が掻き消された事に呆然としているゴブリンメイジの懐に潜り込み、その細い首を断ち切った。
「……あ、あれ、今何が?」
顔を背け目を閉じていたフェリスは何が起こったか理解していないようで、俺は魔断剣ネビウスの効果をフェリスに伝えていく。
「――いやいや、おかしいですよその効果は!! 聖光剣ユミルといい、何でカイさんはそんな馬鹿げた性能の武器を持ってるんですか!?」
「ケケ、まあ先代剣神様の遺産ってやつだな~。しかし、俺もこれ程の性能とは思ってなかった。魔断剣、名前負けしてねえな~」
(フフ、当たり前だぞカイ。私が魔王と互角に戦えたのもこの魔断剣のお陰だ。これがなければ魔王の圧倒的な魔術を防ぐことは難しかった)
俺とフェリスは魔断剣の性能に驚き驚愕した後、フェリスからの提案で魔断剣も出来る限り人前では使わず、性能は秘密にする事を決めた。
「魔断剣の性能はどう考えても争いの種にしかなりませんからね~」
「つっても、魔術師がこの剣を欲しがるもんかね。俺の知る限り、魔術師で剣を使う奴なんか――いや、いるか」
剣を使う魔術師、俺は実家の屋敷にいた三人組の兄弟を思い出した。
ケケ、懐かしい、昔は四人で修行したりもしたな~。
もっとも、奴らがトライデントと呼ばれるようになる頃には親父からの命令で屋敷を留守にすることが多くなり、関わりも減っていったが。
まあ、もう会う事もねえだろうがな~……。
「どうかしましたかカイさん、何か寂しそうですけど……?」
「――あ˝~、何でもねえよ、昔の事だ。それより、さっさとボスを倒しに行くとしようぜ~。俺は早く五階層に進みてえんだ~」
俺の言葉にカイさんがそう言うならいいですけど、何かあれば相談してくださいね、私達三人は仲間なんですからと絶壁の胸を張り言った。
俺はああ、そうだなとフェリスの頭を撫で、自分も仲間に数えられたデシウスは嬉しさの余り霊体の癖に涙を流し喜んでいた。
その後、四階層のボス、ハイゴブリンを難なく倒した俺達はそのままの足で五階層へ転移し、今までとは違う周りの風景に少し驚く。
「何か洞窟みてえな場所だな~」
「カイさんの言う通り、五階層は別名、コウモリ洞窟と呼ばれていて、ブラドバットという厄介な魔物が多く生息しています」
「ほう、そいつは強ええのか?」
「強いと言うよりは厄介と言った方が適切でしょうか。ブラドバッドは一匹だけなら下級に属する魔物なので余り脅威にはならないのですが、奴らは集団で狩りをする習性があります。しかも奴らは襲う相手の血を吸いとっていくので、じわじわと嬲り殺しにされるわけです」
「ケケ、確かに厄介だ、注意して進むとするか~」
そう決め俺達は五階層をじっくり慎重に進んでいく。
少し進むと、確かにフェリスの言う通り、ブラドバッドが多数生息していた。というより、ブラドバッド以外の魔物を殆ど見かけない。
「おそらく、ブラドバッドの群れに他の魔物は殺し尽されたのでしょう」
「ケケ、物騒なこった。てか、魔物が魔物を襲う事もあるんだな」
「勿論です。迷宮に住む魔物にとって一番の餌は人間ですが、人間の次は同じ魔物同士になります。ゴブリンの共食いも報告されているくらいです」
「へえ、魔物も色々と大変なんだな。――と、噂をしてたらブラドバッドだ」
「またですか、数はどれ程で?」
「あ˝~、聞かない方がいいかもだぜ~?」
俺の耳に聞こえて来るブラドバッドの羽音の数は、およそ百を軽く超えており、五百程度はあると予想できた。
「五百!? それが本当なら五階層に潜むブラドバッドの殆どがこちらに向かっている事に――はっ! カイさん、もしかしてブラドバッドの羽音と一緒に人の足音も聞こえたりしますか!?」
「ん、ああ、人間が二人、同じようにこっちへ向かって来てるぜ~」
俺の言葉にやっぱりとフェリスは唇を強く噛み、俺にこの状況の説明をした。
「カイさん、おそらくこれはモンスタートレインです!!」
「あ˝? なんだそりゃ?」
「魔物を引き連れ他の探索者に魔物を押し付ける迷宮における禁止行為の一つです! まさか、こんな低階層でする人達がいるなんて!!」
「へえ、そんなことする奴らがいるんだな。けどよ、俺達の方に向かってくる探索者、割と必死だからわざとじゃねえと思うぜ?」
俺の言葉にフェリスは同じ考えと頷き。
「私もそう思いますが、この際、故意かどうかは問題ではありません。私達が今考えるべき事は、五百ものブラドバッドを押し付けられそうになっている事です!! カイさん、今すぐ逃げ――」
「フェ~リ~ス。お前、確か転移結晶持ってるよな?」
「――え、はい、カイさんの言う通り迷宮へ入る前に買っておきましたが」
「ケケ、ならいい~。もしも、俺がブラドバッドを殺り逃して危なくなったら、それを使って組合へ逃げろ。俺はここで迎え撃つからよ~」
俺の言葉にフェリスは暫し呆然と立ち尽くし、やがて言葉の意味を理解したのかイヤイヤと首を横に振り俺に言った。
「無理、無理に決まってます!! 五百ですよ!?」
「安心しろ、俺の技の中には対多数用のもある」
「――ッ、それでも!!」
「残念ながら呑気に話をするのはこれまでだ。団体さんがご到着だぜ~」
俺の言葉を受けフェリスが正面を見ると、五百を超えるブラドバッドが探索者の二人を追いかけ俺達の前に姿を現した。
「ケケ、これだけいると気味悪りいなァ~」
俺がそう呑気に感想を口にする間に、ブラドバッドを連れて来た探索者は俺に小さく済まないと言い残し、そのまま走り去っていった。
ケケ、顔は覚えた。後で話を聞かせてもらうぜ~。
「あ……ああ……」
余りの数のブラドバッドにフェリスは完全に腰を抜かし、転移結晶を使える状態ではない。まあいい、最初から、一匹たりとも逃がすつもりはねえ。
「始めるぜェ~【剣撃斬雨】」
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「アルス、私達このまま逃げていいのかな……?」
カイ達の元へブラドバッドを連れてきた二人組の探索者の一人、クリスは隣を走る男、アルスへこのままでいいのかなと尋ねる。
「……僕達は、一刻も早く助けを呼びに行かないといけない」
アルスは苦しそうな表情でそう告げる。
迷宮の奥に残された仲間に為に、一刻も早く組合に戻り応援を呼ばないといけない、その考えで死にもの狂いで迷宮の奥から走って来た。
仲間の為に。それを免罪符として彼らにブラドバッドを押し付けた。
しかし、果たしてそれでいいのか。
僕は探索者になったのは誰かを守る強さを……。
「―――クリス、応援は君が呼びに行ってくれ」
そう告げアルスはその場で立ち止まり、後ろを振り向く。
アルスの行動にクリスは驚き。
「アルスッ!?」
「僕は、彼らを助けに行く。もっとも、ブラドバッドを押し付けたのは僕らだから助けに行くなんて言い方は正しくはないかもしれないけどね」
それでも、やはり彼らを残していくのは駄目だ。
せめて、僕も死ぬまで戦おう。
たとえ、無駄な足掻きだとしても。
そうアルスは決意を固めた。
このアルスの行動に対して、クリスは私も一緒に戦う、と言い出しそうになるが、アルスの心を誰よりも知る者として、アルスの決意を尊重した。
「……分かったわ。絶対に助けを呼んでくる。ガイやカノンの為にも必ず。だからアルス、あなたもそれまで持ち堪えて!!」
クリスはそう言い残し涙を流しながら転移門へ走っていく。
それを見届けたアルスはきっともうクリスとは会えない、ああ、もっと色々な事をクリスとしたかったな~と思いながら、カイ達の元へ向かった。
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「――何だ、これ」
アルスがカイ達の居る場所へ戻って呆然と呟く。
もっとも、それも無理はない。
何故なら、五百以上いたブラドバッドが既にその数を半分以下に減らされていたからだ。驚くなと言う方が無理である。
(……剣撃、なのか?)
アルスの目にカイが何をしているのかは一切見えない。
しかし、ブラドバッドが切り刻まれていくのを見て、剣を持ったカイが攻撃をしているをいうのは理解できる。だが、もしそうだとするならば……。
(速い、速すぎる……)
アルスがカイの手元に目をやると、カイの肘から先が消えているように見える。
余りの速さにそう見えてしまうのだ。
アルスはもう少し近くで見ようとカイに近づく。
すると、カイの前方に壁のような空間があるように見えた。
(剣撃の、壁?)
アルスの読み通り、カイは一秒の間に数百を超える剣撃を繰り出し、自らの前方に剣撃の壁を作り出しているのだ。
そして剣撃の壁に触れてしまったブラドバッドは一瞬で細切れにされ、塵も残さずこの世から消滅していく。
ブラドバッドが集団で生息する魔物と言えど、所詮は知能の薄い魔物。
どうして自分の仲間が次々と死んでいくか理解できず、ブラドバッドはカイの血を吸おうと突っ込んでいき、数を瞬く間に減らしていく。
「何という……」
余りに人間離れしたその技にアルスはそれ以上言葉を発する事はできない。
しかし、アルスが固まっている間にもブラドバッドの数は減っていき、ついに最後のブラドバッドの体が細切れにされ、消滅した。
「――ふぅ~」
ブラドバッドの群れを撃退したのを確認し、カイは静かに息を吐く。
その表情には汗の一欠けらもない。
その事実にアルスは再び驚愕した。
(あの神業もこの人にしてみればその程度なのか!? 何と言う、圧倒的な力。ガイ、カノン、クリス、僕は目指す人を見つけたかもしれない)
アルスの得意とする魔術は身体能力強化、故にどれだけ魔術の腕を磨こうとも重要となるのは本人の能力、アルスで言えば剣術だった。
そのアルスの目の前で圧倒的な剣術を披露したカイ。
今のアルスにはカイが神のように思えた。
アルスは早速カイ達に声を掛けようとするが……。
「まずった。細切れにしたから素材回収ができねえ」
「嘘!? 折角お金持ちになるチャンスだったのに!?」
「ケケ、ま~焦るな。こうなったら、俺達にブラドバッドを押し付けた奴らから少しお礼を貰うだけだ。奴らも俺らの頼みを断る事はできねえだろうぜ~」
「うわ、ゲスいな~。まあ、確かに私達はブラッドバッドを押し付けられた側、多少お礼を貰ってもいいはず――ぐふふ~~!!」
すぐ後ろで二人の会話を聞いているアルスは名乗り出るのが怖くなり、少しの間、カイ達の後ろで震えているのだった。
体調、少し良くなりました。
後は咳だけなので気合い入れて治します。
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