第十九話 トライデント
【三叉の矛】、マギウス家で働く騎士隊とは別に動く三名の強者による部隊。
その実力はたった三人で騎士隊の戦力を凌ぐと言われ、自分以外を見下しがちなバルザがその実力に絶対の信頼を置いていたことからも重要性が分かる。
しかし、彼らもほんの数年前は騎士隊の末席、バルザからも弱者と扱われ騎士隊から追い出される寸前であった。そんな状況の彼らを救ったのが、何を隠そう数年前のカイとデシウスなのである。
「兄者、そろそろ我らも限界かもしれぬなぁ」
「何を言うドス、我々はまだ――」
「いや、ドス兄上の言う通りじゃないっすかね。俺達、もう何年も修行してるけど全然強くなれねえし、限界だと思うっすよ」
カイが屋敷を追い出される数年前、屋敷の裏庭でそう会話をしているのは未来では【三叉の矛】と称される三人の兄弟。
長男、ウノ。次男、ドス。三男、トゥレス。
「言い訳に聞こえるかもしれないっすけど、俺らの術式って時代にあってないと思うんすよね~。どう思うっすかウノ兄上」
「――確かに、トゥレスの言う事も一理あるが」
長兄、ウノも認める通り、代々この三兄弟の家に伝わる術式は近接戦闘に魔術を加え戦えるように作られた物だ。それ故に三人は伸び悩んでいた。
一応補足しておくが、カイが戦ったゲイルという男も近接戦闘主体の魔術だが、彼も何だかんだ長年の努力の結果、あの腕にまで上り詰めた男だ。
「あ~あ、カイ様みたいに初めから魔力がなかったら諦めがつくんすけどね~」
何気なく呟いたトゥレスの一言にウノは厳しく言った。
「トゥレス、気軽にそんな事を口走るな。お前も魔力がないせいでカイ様が家族にどんな扱いをされているか、分かっているだろう?」
「――あ、うん、確かに俺の失言だったっす」
ウノの言葉にトゥレスも普段のカイの扱いを思い出したのか、指で頬を掻き、自分の失言だったと素直に認める。
「しかし兄上、実際どうするでござるか? このままでは我らは騎士隊を追われ、ゆくゆくは屋敷を追い出されるでござるよ?」
次男ドスの言葉にウノも確かにドスの言う通り、近い未来確実に我らは屋敷を追い出される、どうするかと頭を抱える。
そんな時だった。
屋敷の裏庭で話をしていた三兄弟の元へ、剣を振る音が聞こえてきたのは。
(誰だ? この屋敷の住人で剣を扱う人間は我ら以外にいないはず……)
この屋敷には騎士隊も含めて剣を扱う人間は三兄弟以外に存在しなく、ウノは興味を引かれ音がした場所へ歩いて向かう。
(――カイ、様?)
目にしたのは裏庭で一心不乱に剣を振るうカイの姿。
ウノの目の前でカイは何度も何度も剣を振るう。
カイの足元には雨など降ってないにも関わらず、水分がしたっている。おそらく、あれはカイの汗なのだろうとウノは推測した。
一体、何時間――いや、それよりも……。
(恐ろしい程に無駄がない。何と美しい……)
そう思わず見とれてしまう程に、カイの剣を振る姿は恐ろしく無駄がなく、一種の芸術のような美しさもあり、ウノの脳裏にこぶりつく。
「……うわ~、何すかこれ」
「いやはや、驚嘆でござるな――」
遅れて到着したドスとトゥレスもカイの姿に見惚れ、気付いた時には三兄弟全員で剣を振るうカイの前に跪き、カイに言葉を掛ける。
「カイ様、我々三人に剣を教えてくれませんか?」
「――は? いきなり何言ってんだお前ら?」
存在は知っていたが今まで特に話した事もなかった人物にこんな事を言われ、流石のカイも困惑を隠し切れず頭を傾げる。
そんなカイに三人を代表してウノが自分たちが剣を扱う事、最近伸び悩んでいた事、カイの剣の扱いに感動を覚えた事、それらを丁寧に話していく。
「あ˝~、つまりお前らは俺と訓練をしたいわけか?」
「その通りですカイ様」
この時、三兄弟は密かにカイ様、普段の様子と違うなと疑問を抱えていたが、そんな疑問など目の前の剣技に比べれば些細な物と捨て置いた。
「あ˝~、どうするよデシウス?」
(ふむ、いいのではないか。この三人の目は純粋にお前の剣に心酔している)
「へえ、んじゃまあ、別に構わねえぜ~」
「――ッありがとうございます!!」
カイの言葉にウノは喜びを露わに笑顔で頭を下げ、ドスやトゥレスも同様に頭を下げ、カイの元で剣を学べる事に確かな幸運を感じた。
「んじゃ、とりあえず倒れるまで素振りだ。いくぜ~」
「……え、倒れるまでですか?」
「そそ。何でも人間ってのは疲労が限界に達した時こそ理想的な姿勢を感じ取れるらしいからな~。それを感じ取る訓練てわけだ~」
「――ッ成程! 流石はカイ様です!!」
ケケ、俺の考えじゃねえけどな~とカイのよく分からない言葉は置いておき、ウノはやる気満々で素振りを始めドスとトゥレスもそれに続いた。
この日を境にカイの訓練に三兄弟も参加するようになり、共に血反吐を吐く内にカイの剣だけでなくカイ本人にも心酔していき、我々は生涯、マギウス家ではなくこのお方の味方になろうと三兄弟全員で心に誓うのだった……。
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