第十八話 その頃のマギウス家2
カイとフェリスが出会い迷宮都市クエイクに向け村を出発した頃、マギウス家の屋敷で再び激しい怒号が響き渡る。
「どういう事だ!! 何故、今だに兄様は見つからない!?」
声を荒げているのはカイの弟、リク。
怒鳴り声を浴びせている相手は私兵の騎士隊団長、アレン。
長年マギウス家に仕える重鎮の彼は、リクの言葉に対して冷静に状況を分析した結果、首を横に振りリクに告げる。
「リク様、我々は命令通りアルステルの出入りに使用する門を全て監視していました。それでもカイ様を発見する事は叶いませんでした。つまり、おそらくカイ様は既にこのアルステルを後にしていると私は推測します」
「馬鹿な!? ならば兄様はいつアルステルを出たと言うのだ!?」
「リク様の言う通りバルザ様を斬ったのがカイ様であると言うならば、バルザ様を斬ったそのすぐ後にアルステルを後にしたのだと考えられます。おそらく、我々の報復を恐れての行動でしょう」
カイがマギウス家の報復を恐れていたのかは別として、アレンの推測はほぼ正解していた。団長まで上り詰めただけあり頭も切れる男だ。
「――まさか、兄様がそんな素早い行動を。しかし、この状況を見るにそれしかないか。アレン、兄様が向かう先に心辺りはないか?」
「あくまで私の推測になりますが、おそらくカイ様は迷宮都市クエイクに向かったと考えます」
「迷宮都市か。理由は?」
「まず、アルステルから向かう街の候補として迷宮都市クエイク、城塞都市クラリス、王都アンセムが挙げられますが、この内、クラリスとアンセムは距離的にほぼ向かうのは不可能だと考えられます。確実に食料も水も足りません。向かおうとすれば確実に途中で力尽きる事でしょう」
「成程。残るは迷宮都市に限られるというわけか」
「その通りです。ただ、迷宮都市も他に比べ近いというだけで、アルステルからそれなりに距離が離れています。カイ様が無事に迷宮都市に辿り着く可能性は、五分五分といったところでしょうか」
「―――いや、兄様はきっと無事に辿り着いているさ」
そうとも、旅の途中で死ぬなんて絶対に駄目だ。
何せ、兄様には僕や父様の目の前で惨たらしい死に様を見せてもらわなければならない。それまでに死んでもらっては困る。
そう考え頭の中でカイの死に様を想像しながらリクは笑い、目の前にいるアレンは何と邪悪な顔をするのかと密かにリクを恐れていた。
「――さて、兄様が迷宮都市へ向かったのなら、僕達も黙っているわけにはいかないな。ライク、【三叉の矛】を迷宮都市へ送れ」
リクはアレンとの話を側で聞いていたライクにそう告げる。
【三叉の矛】、マギウス家が誇る戦闘に特化した三名の強者。
その実力はアルステル最強とも謳われ、普段はアルステルの防衛などに尽力させている三名である。
「リク様!! 【三叉の矛】を迷宮都市へ送ればこの街の防衛が!!」
「そんな事は知らん。街の人間が何とかするだろう」
実際、アルステルは街の戦力の殆どがマギウス家が頼りで、【三叉の矛】がいなくなれば、魔物による犠牲は間違いなく増える。
ライクはそれを危惧しリクに忠告するのだが、リクはカイを捕らえる事だけを考え、アルステルの事は全く考えてなく冷たく言い放った。
「リク様!!」
「――ライク、しつこいぞ。前にも言ったが今の当主は僕だ。これ以上僕に逆らうようなら、お前だけでなく家族も苦しむ羽目になるぞ?」
「――ッ!!」
リクの言葉にライクの表情は分かりやすく青ざめる。
家族が全員マギウス家で働いているライクにとってリクの脅しは非常に効果的であり、ライクは悔しそうに項垂れるしか選択肢はなかった。
(リク様、これ程に腐っていたとは)
項垂れたライクに同情の視線を向けるアレン。
元々の根は善良、カイを捕縛する事も余り気乗りしなかった騎士団長アレンは余りのリクの横暴に心の中でリクへ毒を吐いた。
この日を境にアレンは信頼する部下達にある提案を行うのだが、提案の内容が分かるのはもう少し先の話になる。
「……畏まりました」
ライクは部下に【三叉の矛】へ迷宮都市へ向かうよう伝えろと指示を送り、指示を受けた【三叉の矛】は早速、迷宮都市へ向かう。
そして窓からやる気十分の【三叉の矛】を見たリクはニヤリと笑い、彼らならカイを捕らえられると確信を持ち、誰にも聞こえない小声で呟く。
「クク、兄様、あなたの悪運もここまでだ。精々彼らが迷宮都市へ着くまでの間、平和を楽しんでおく事だ。そこから先は地獄なのだから」
リクは口元を手で隠し残虐に微笑む。
しかし、この時リクは気付いてはいなかった。
カイを捕らえろと命令された【三叉の矛】が何処か楽しそうに、カイ様と久々に会えるでござるなと嬉しそうに話していたことに……。
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