第十六話 探索者連合
後半、視点が変わります。
「成程、三階層でモンスターハウス、確かに珍しいわね。―――ていうか、あなた達、もう三階層まで行ったの!?」
アルエに今回の探索で起きた事を説明すると、初日に三階層まで突破した探索者は今まで殆どいないという事で激しく驚かれた。
「おいおい、そんな派手に驚く事か?」
俺の言葉にアルエは当たり前よと声を荒げそうになるが、フェリスがアルエの脇をつつき、カイさんは迷宮の事も知らなかったくらいなのでと告げる。
「そ、そうだったわね。けど、本当に凄い事なのよ? 初日に三階層まで行くなんて【青龍の息吹】の人達くらいしか聞いた事がないわ」
「ほお、【青龍の息吹】ねえ。【青の騎士団】と同じようなもんか?」
「ええ、二つは同じ探索者連合よ。けど、実力と知名度は天と地ほども離れているわ。【青龍の息吹】はここの組合のトップだから――」
アルエが【青龍の息吹】について説明を聞いていると、急に横から数人の男女が俺達に近づき、俺の事を少し睨みながら言った。
「アルエ君の言う通り【青の騎士団】のような野蛮な連中と同類と見られるのは少々不快だ。どうやら君は知識に乏しいようだね?」
「あ˝~、誰だお前は?」
俺の事を知識に乏しいと称した男は俺の言葉を受け眉間にしわをよせ、その横にいた女性は大声を上げ俺に向け叫び出した。
「貴様! ユリウス団長に何と失礼な態度を!!」
「ケケ、先に失礼な態度をとったのはお前らの団長さんじゃねえのか? 人の事を知識に乏しいだの、本当の事を言いやがってよ~」
俺の言葉に女性は顔を怒りで赤く染め、フェリスは知識に乏しいのは素直に認めるんですね~と呑気に呟いた。
「ユリウス団長、私にこの男に罰を与える許可を!!」
女性の言葉にユリウスと呼ばれる男は少し悩む素振りを見せた後。
「よし、許可を与え―――」
「ユリウス、それは悪手じゃろう」
ユリウスの言葉を遮ったのは眼帯を付けた初老の男性。
自分の言葉が遮られた事に少々イラついた様子のユリウスは。
「……ウィル、悪手とはどういう事かな? もし下らない理由なら」
「ふん、理由も糞もないわい。ただ、アケノがこの男に戦いを挑んだところで勝つ確率はない、そう判断したまでじゃのう」
「……ほう」
ウィルの言葉に少し興味を持ったのかユリウスは詳しく話を聞こうとするが、横からアケノと呼ばれている女性がウィルに食って掛かる。
「副団長! 私がこの男に負けると言うのですか!?」
「そうじゃが? 何か文句でもあるか?」
「そんなのあるに決まっています! 私がこんな魔力も持たない男に負けるなど有りえません! 先程の言葉は撤回してもらいます!!」
「この男がわしより強者だとしてもか?」
「―――なっ!?」
ウィルの言葉に目の前のアケノだけでなく、ユリウスや【青龍の息吹】の団員と思わしき者達は驚愕に表情を固まらせ、その隙に更にウィルは言葉を重ねた。
「お主達は迷宮に行っておったから知らんだろうが、先程この者は【青の騎士団】のゲイルと決闘を行い、ゲイルは殆ど何もできず敗れた」
「……馬鹿な、ゲイルは私と互角の実力者だぞ」
ほう、このアケノという女はゲイルと互角なのか。
ケケ、少しだけ見直したわ。
「成程、それが本当なら彼は強者だ。しかし、ゲイル君を彼が倒したところで、ウィルより彼が強いと言う話にはならないのではないか?」
ユリウスの言葉に【青龍の息吹】の団員は確かにと一気に頷き、俺もそりゃそうだよな~と同じように頷くが、ウィルは首を横に振り言った。
「確かに最初決闘を見ていた時は魔力がないわりに頑張るなという印象じゃった。しかし、この男が剣を抜いた瞬間、わしは悟った。もし、わしが命を懸けこの男に戦いを挑んだとしても、傷一つ付ける事無く敗れるだろうと。それ程に、剣を抜いたこの男は圧倒的強者じゃった」
ユリウスはウィルの言葉に目を見開き驚き。
「……俄かには、信じがたい話だ」
「ユリウス様の言う通り、ウィル様の勘違いですよきっと! この男がそんなに強い訳がないじゃないですか! 所詮は魔力なしですよ!?」
ユリウスは半信半疑といった様子だが、アケノはウィルが間違っていると言い張り、絶対に自分の方が強いと叫び続ける。
あ˝~、流石の俺もそろそろこの女がウザくなってきたわ~。とっとと大人しくなってどっか行ってくれねえかな~。
「カイさん、カイさん」
「ん、どしたフェリス?」
「これ、抜いちゃってくださいよ~」
あ˝~、こんな場所で剣を抜いてどうするん――。
ああ、そう言う事か。
ケケ、フェリスも面白れえ事考えるじゃねえか~。
「ふふ、私もカイさんが馬鹿にされて悔しいですから!!」
派手にやっちゃってください~!!
フェリスの言葉と共に、俺は腰の剣を抜いた。
「――何っ!?」
「……こ、この感覚はあの時の!?」
「――ヒッ!?」
側にいたユリウス、ウィル、アケノが最初に俺の気配が変わった事を感じ取り、三人がそれぞれ驚きの言葉を口から漏らす。
その後、俺の気配は周囲に散らばり、【青龍の息吹】の面々は勿論の事、組合広場にいる殆どの探索者が驚き、酷い者は既に腰を抜かしてしまっている。
「ウ、ウィル、これが君の言っていた……」
「――そうじゃ。殺気、いや剣気とでも言えばいいか。それでも、あの時の感じた剣気よりは幾分かましに感じるがのう」
「……これでも、ましなのか?」
「うむ。あの時は戦いの途中じゃった。今回はおそらくわし達を黙らせる為に剣を抜いただけ。あの時に感じた剣気に比べたら半分程度じゃ」
「……凄まじいな」
そう言いつつ普通に立ち会話する二人を見て、俺は流石だなと素直に感心した。やはり、ゲイルとは別格の実力者か。
(ああ。特にウィルという者は相当な実力者だ)
確かに、な~んで副団長なのか不思議なくらいだな。
しかし、この二人以外は微妙そうだ。
先程から俺に色々言っていたアケノという女性は至近距離で俺の剣気を受けたからか膝が折れ、地面に手を付き言葉を発せずにいる。
アケノ以外の団員もみな同様に地面に手を付き、俺と視線を合わせるのも怖がるように顔を俯かせそのまま動けずにいる。
「あの~、カイさんそろそろ」
「ああ、これ以上やったら俺が悪者になっちまうな~」
そう考え俺が剣を鞘にしまうと、剣気から解放された団員や探索者達はほっと一息つき、ユリウスやウィルも同様に一息つき俺に一言。
「いやはや、凄まじい剣気だった。ウィルの言う通り君は私達よりも数段上の実力者のようだ。悪いが、名前を教えて貰ってもいいかな?」
「名前はカイだ。宜しく頼むぜ~」
「カイ君か。私の名前はユリウス。【青龍の息吹】の団長だ。まずは、君に対する団員および私の無礼を詫びよう。済まなかった」
「あ˝~、別に対して気にしてねえさ」
「それは何より。ではここからが本題だ。カイ君、もし君が四十五階層まで到達したら我々に――」
「ユリウス、その話はまた今度にしておけ」
ユリウスは再び自分の言葉が遮られた事にウィルを睨むが、ウィルの俄然とした態度に何を言っても無駄だと思ったのかため息を付き。
「カイ君、今日はここまでのようだ。失礼するよ」
そう言い残しユリウスは【青龍の息吹】の団員と共に俺の前から立ち去った。
俺はあ~面倒だった~と呑気に言葉を漏らし、フェリスはユリウスさん、最後にカイさんに何を言おうとしたんでしょうかね~と呟いていた。
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【青龍の息吹】の面々がカイの目の前から去ったのち、団長ユリウスは副団長ウィルに先ほどの事について問いかけを行っていた。
「ウィル、先程は何故止めたのかな?」
「ああ、お主がカイを赤竜討伐に誘おうとした事か?」
「その通り。赤竜レッドサルヴァトーレを倒すのに、カイ君は大きな力となる。それは一番に実力を見極めたウィルが分かっているだろう?」
ユリウスの言葉にウィルは確かにのう~と顎髭を撫で、しかし、カイを討伐隊に加えるにはいくつかの問題もあるのじゃよと告げる。
「まず一つ目じゃが、奴は魔力なしじゃ。倒せるかどうかも不確かなこの話に乗って来るとも限らん。そして二つ目じゃが、凄まじい程の奴の剣気が原因じゃ」
おそらく、わしとお主以外の団員は戦いの最中に奴の剣気を受けていてはまともに戦えんじゃろう。そうなれば巨大な戦力も邪魔になりうる。
ウィルの言葉にユリウスも納得したように頷く。
「成程。確かに私も彼の剣気に慣れるのは苦労した。更にウィルの話では戦闘中は更に強烈な剣気と聞く。ふむ、厄介なものだな」
「うむ、今はカイよりも他の連中を誘った方がいいじゃろう。ユリウス、今のところ他の探索者連合は赤竜討伐にどのような反応を?」
「【狩人の庭】と【聖者の祈り】からは是非参加させてほしいと返事を貰っている。残りは交渉中といったところだね」
「ふむ、【聖者の祈り】が参加してくれるのは大きい。後は連合に与していない有名な個人、ギルザ―ドやアプリが手を貸してくれればのう」
「戦闘狂なギルザ―ド君は場合によっては参加するかもしれないけど、アプリ君は無理だろうね。彼女は友達を助けるのに必死な様子だ」
ユリウスの言葉にウィルは必死に友達を助ける為に手を尽くしていたアプリの姿を思い出す。昔から知っているだけに助けになってやりたいとウィルは考えているが、残念ながら魔術師がいくら集ったところで、アプリの助けにはなれない。
(いや、もしかしたら奴ならば、アプリの力に……)
「ん、どうかしたかいウィル?」
「―――いや、何でもない。ユリウス、今はとにかく仲間を集めろ。赤竜は必ず倒す。何があろうともだ」
「ああ、犠牲になった団員達の為にも、必ず……」
ユリウスとウィルは最初に四十五階層で赤竜に挑んだ時、転移結晶を使う間もなく殺されてしまった団員達の為に、必ず赤竜を倒すと誓うのだった……。
無事に咳が止まりました。
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