第一話 追放
「カイ、我がマギウス家に魔力を持たないお前は相応しくない。今すぐ家を出ろ。さもなくば、ここでわしがお前が殺してやろうぞ」
俺の実父、バルザはまるでゴミを見るような目で俺を蔑み言った。
普段通り家の庭で掃除をしていた最中、突然言われた言葉だったので俺はしばし言葉を失ったが、すぐに冷静になり父に言葉を返す。
「父上、理由を聞かせて頂けませんか?」
「は、理由だと? そんなものはお前は魔力を持っていないからに決まってるだろう」
父の想像通りの言葉に俺は苦笑しかける。
が、そんな事をすれば本当に殺されかねないので我慢した。
「お前には何度も言ったと思うがこの国は魔術至高主義だ。特に、我々貴族は魔術をどれだけ上手く扱えるかで価値が変わる。お前の弟、リクは私にも匹敵するほどの素晴らしい魔力の持ち主。反面、お前は魔力を持たずに生まれて来た。どれだけ私が恥ずかしい思いをしたか、お前に分かるか?」
父の言葉に追随するように隣にいる俺の弟、リクは笑みを浮かべ言った。
「ほんと、父さんが可哀想だったよ。社交界に出ても兄様の話になるといつも父さんは肩身の狭い思いをしてた。そこをこれまでは僕が上手くフォローしてたけど、もうそれも限界ってわけ。だからさ、大人しく家を出ていってよ兄様」
口調は丁寧だがリクの俺を見る目は兄弟を見る目ではない。
道端に落ちているゴミを見る目。
いや、もしかしたらそれ以下かもしれない。
「……魔力がない事は、それほど悪い事でしょうか?」
俺の言葉に父と弟は何の迷いもなく頷き。
「この国、いやこの世界に生まれて魔力を持っていない人間などゴミ以下の存在だ。むしろ無能なお前を今まで育ててやった事に感謝してほしいくらいだ」
今まで育てたねぇ。
随分といい感じに言うじゃねえか。
実際は使われていないゴミ部屋に押し込まれ、毎日犬の残飯のような飯を与えられ、家畜同然の扱いをしてきたくせにな~。
「どうした。まさか何か文句でもあるのでははないだろうな?」
「――いえ、何も文句などありません」
「ふん、ならばとっとと家を出ていけ。お前のような無能は家にいるだけで邪魔なのだ」
あ˝~、これは何を言っても無駄だな。
「分かりました。父上の言う通り今日家を出ます。ただ、荷を纏めるのに数時間の猶予だけでも頂けないのでしょうか?」
「ふん、グズめ。とっととしろ」
父の許しが出たので俺は自分の部屋へ戻る。
背後で弟がじゃあね~兄様などと言っているが振り向きはしない。
どう考えても俺を馬鹿にしてる声色だからな。
悲しいねぇ、昔はもう少し仲が良かったはずなんだが。
俺はまだ仲の良かった頃、兄弟で遊んでいた時を思い出しながら自分の部屋へ戻り、ベッドに横になり現状を嘆いた。
「あ˝~、親父もリクも何であそこまで腐っちまったのかね。確かに魔力を持たないで生まれて来た俺も多少悪いとは思うけどよ~。なあ、あんたはどう思う?」
ベッドに横になったまま俺は誰かに問いかける。
もしこの場に俺以外の人間がいれば俺は異常者に見えるだろう。
何故ならこの部屋には俺一人しかいないから。
正確には生きている人間は一人しかいない、だが。
(うむ、あれが私の子孫だとは思いたくないな。時にカイ、よく我慢できていたものだな。お前の性格ならすぐに爆発してしまいそうなものだが)
「ケケッ、俺だって我慢くらいはするさ。下手にキレて家を追い出されたら行き場ねえからな。実際、魔力のない俺が一人で生きていくには厳しい世界さ。最も、それも今日までの話だがな」
(ああ、お前の言う通りだ。今のお前は私が生前に残した全ての技を会得した。剣神と呼ばれた私の技の全てを。そして、今日ようやくそれを扱える体も完成した)
「あ˝~、やっとあの地獄の訓練も終わりだと思えると済々するね~。しかし、長かったな。確かあんたが現れたのは五年くらい前だったか?」
(ああ、もうそんなになるのか。懐かしいな…)
俺と剣神デシウスは昔の事を思い出していた。
あれは、父に怒鳴られベッドでふて寝していた時だった。
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「ここはどこだ。俺はベッドで寝たはずだよな?」
辺りを見渡しても何もないただ真っ白な空間。
この空間に俺一人だけが立っている。
夢か?、いや、それにしてはリアルがある。
あ˝~くそだりぃ。何だってんだよ。
(ふむ、成功か。ようやく話せるな我が子孫よ)
声がした方向に目を向けるとそこには俺と瓜二つの男。
いや、似ているのは顔だけか。
明らかに体つきなどは俺と比べ物にならない。
一目で分かる、この男は強者だと。
「……誰だあんたは?」
(――ん、随分あの男達と話していた時と雰囲気が違うな?)
「あ˝~、親父と弟の事か? あんなもん、猫被ってたに決まってんじゃねえか。てか、質問に質問で返してんじゃねえ。あんたは誰だって聞いてんだよ」
(ほう、猫を被っていたか。知らない言葉だ。――と、申し遅れたな。私の名前は剣神デシウス。君達家族の先祖なわけだが、聞いた事はないか?)
「へ~、先祖様ねぇ。悪りいな、聞いたことねえわ」
(そ、そうか。自分ではそれなりに有名だと思っていたのだがな……。まあいい、今回私がお前の夢に現れたのは謝りたい事があったからだ)
「あ˝、初めて話したあんたが俺に謝りたい事だァ?」
(そう。今から話す事はあくまで私の憶測なのだが、おそらく君が魔力を持たずに生まれて来た原因は私にあると思う)
「……へえ、興味深えな。詳しく話を聞かせろよ」
俺の言葉を受け剣神と名乗る男は過去について話始めた。
何でも目の前の剣神さんは今から数千年前、魔王と呼ばれる存在と戦っていたらしく、その戦闘の最中、何らかの呪いを受けてしまい魔術が一切使えない体になってしまったとか。その呪いの影響が子孫である俺にまで及んでいると剣神は予想しているらしい。
(君の父や弟に呪いの影響が出ていない事を考えると、おそらく君が最も濃く私の血を継いでしまったのだろう。私の受けた呪いで迷惑を掛けてしまい、本当に申し訳なく思っている)
そのまま土下座しそうな勢いの剣神さんに向け、俺は首を振り言った。
「いや、別に謝る事じゃねえだろ。あんたは世界の為に魔王と戦ったんだろ? そんなあんたの事を責める事は出来ねえよ。確かに魔術が使えねえ事は不便ではあるが、あんたが気にする事じゃねえ。だからまあ、あんま気にすんじゃねえよ」
俺の言葉に剣神は何故か驚き固まる。
やがて固まった表情に笑みを浮かべ剣神は言った。
(言葉は少々乱暴だが、君は良い奴だな)
「あ˝? 俺がいい奴とか目が腐ってるんじゃねえか?」
(ふふ、残念ながら私の目は正常さ。そして、決めたよ。君を私の後継者、次期剣神に育てあげると)
「―――はっ? 俺を剣神に育てるだと?」
(そう、君に私が持つ全ての技を教えよう。秘伝の技も全てだ。私の血を濃く引く君ならきっとなれる。新たな剣神に)
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