プロローグ 始まりの日
新作です。ストックとか無いので投稿ペースは遅い筈です。
あらすじ変えました。
「エル。大丈夫?」
「あぁ、僕はまだ大丈夫だよ」
隣に居る白い少女に聞かれて、僕は笑顔で応える。
これから始まるのは最後の戦い。
それならば、思い出しておこう。
僕の、今までの物語を…
いつも不思議に思っていた。
僕はずっと、魔法使いになりたかった。
絵本の中で、色々な怪物に勇気を持って挑む。
そんなカッコいい存在に、僕もそんな存在になりたかった。
でも、そのことをお父さんやお母さんに言うと、何故か悲しそうな顔をした。
僕が7歳の時のある日、それは起こった。
僕は、人間の国の中心[王都]の近くの街[ポワル]に住んでいた。
お父さんはほぼ毎日、昼は外で人に害を与える存在[魔物]を倒す仕事をしている。
お母さんは家で、僕の面倒を見ながら家事をしている。僕も、よく手伝うことがある。
その日も僕は、洗濯物を畳んでいるお母さんの手伝いをしながら、絵本で見た魔法使いの話をしていた。
お母さんは僕が話している時は、ずっと顔は笑っていたが、目が悲しそうだった。
僕は今までずっと気になっていた。何故、その日だったのかは今でも分からない。
僕は聞いた。
「お母さんは、何で僕が魔法使いのことを話すと、悲しそうな顔をするの?」
お母さんはとても驚いた顔していた。
少し目を逸らしていたが、やがて口を開いた。
「エル、貴方はどんなに頑張っても魔法を使えないの」
僕はそれを聞いて、言葉を失ってしまった。
「人はね、自分の持っている属性の魔法しか使えないの。貴方には、その属性が一つも無かったの。普通なら、一つは持ってる筈なんだけど」
信じられなかった。
信じたくなかった。
「嘘だっ!そんなのっ、そんなの嘘だぁ!」
僕は持っていた洗濯物を放り投げて、家を飛び出した。
「っ⁈エル!待って!」
後ろからお母さんの声が聞こえるけれど、僕はそれを無視して走り続けた。
僕は、お父さんに会いたかった。
会って、僕は魔法を使えるということを言って貰いたかった。
だから、昔お父さんが仕事をしていると聞いたことのある森に向かった。
走って
走って
ただ我武者羅に走って
森に着いた。
僕は少し違和感を覚えたが、とにかくお父さんに会いたいばかりに躊躇なく森に入っていく。
森の中は色々な草が生い茂っていて、少しジメジメしている。
陽の光が木の葉の隙間から入ってくるので、割と明るい。
僕は走って疲れていたので、最初は歩いて進む事にした。
それから少し歩いたが、お父さんどころか生き物の気配すら無い。
僕は一刻も早く、お母さんの言葉が嘘だということを確かめたかったので、明らかにおかしいことだが気にしないようにした。
少し疲れたので、僕は木の根元に座って休むことにした。
「はぁ、はぁ、僕は魔法を使える、使える筈なんだ。あれ?そう言えば、昔確か」
僕は、昔近所のおじさんと遊んでいた時のこと思い出した。
それは僕とおじさんが家の近くにあった空き地で、追いかけっこをしていた時のことだった。
「エル、魔法が好きなお前に、少し魔法のことを教えてやろう」
突然、おじさんはそんなことを言い出した。
僕は急いでおじさんの近くに座る。
おじさんも地面に座り話し出す。
「魔法というのはな、属性への適性さえあれば詠唱をするだけで使える様になるんだぞ」
「そんなに簡単に使えるの⁈」
「あぁ、例えば…この魔法とか。『我が力よ、我が魔をもって解放せし』っと。こんなもんで発動出来るぜ」
見た所、おじさんには何の変化も無い。
「おじさん、本当に発動し「よっ!」え?」
僕が疑問に思い聞こうとした瞬間、おじさんは10メートル程ジャンプした。
そして着地して、口角を上げてこう言った。
「どうだ、凄いだろ?」
「凄い!凄いよ、おじさん!」
「そうだろ?俺が今使った、『フィジカルブースト』っつう魔法は自分の魔力を使って、力を強くする魔法なんだぞ。どんなに魔力が少なくても、2倍くらい力が上がるから結構便利な上にほとんどの人が持っておる属性、無属性の魔法だからな」
「僕も使ってみたいけど、お母さんに街の中では魔法は習っても使わないようにって言われてるから、いつかお母さんが使ってもいいって言ったら使ってみるよ!」
「おう、そうか!ハッハッハッ!いつか立派な魔法使いになれるといいな、エル」
「うん!」
おじさんから教えて貰った魔法『フィジカルブースト』。
これなら詠唱も知ってるし、早くお父さんを見つけるのにはうってつけだ。
そして、魔法を使えるのか確かめることにも。
僕は、走ったことで乱れた呼吸を整えて詠唱する。
「我が力よ、我が魔をもって解放せし」
何も変化は感じられないけど、これで僕の力は強くなった筈。
「これで、速く走ることも出来るはず!そうしたら、お父さんも早く見つけられる筈!」
それから、僕は走った。
この時、既に気が付いていた。
もしも魔法が発動しているなら、お父さんに会わなくてもお母さんに、自分は魔法を使えるんだと言う事が出来るから。
僕は認めたくなかった。
認めたくないからこそ、ひたすらに走る。
体力も既に無いにも等しいのに走る。
走る速度は今までよりもずっと遅い。
だけど、あれだけ今まで使いたいと思っていた魔法が使えないなんて認められる訳がない。
僕は、いつしかお父さんを見つけるという目的まで忘れていた。
少し経ち、遂に僕の体力も限界が訪れる。
疲れで足がもつれ、地面に倒れ込む。
僕の目からは涙が溢れる。
それから、どれくらい経っただろうか?
僕の体力はある程度回復したけれど、疲れは残っている。
辺りは月明かりで照らされ真っ暗ではないが、それでもハッキリと見ることは出来ない。
「暗く、なってきちゃった。こんな時間だったら、もうお父さんは家に居るよね。帰らないと。怒ってるかな…帰ったら、謝らないと。あれ?どうやって帰ればいいんだろう」
ただ我武者羅に走って来たので、帰り道なんて全く分からない。
段々と不安になる。
お腹も空いてきた、喉も渇いた。
しかも、一人ぼっち。
僕の目から涙が溢れてくる。
僕は、歩き始める。
どの方向へ迎えばいいかなんて、分からない。
でも、止まっていたら不安感に押し潰されてしまいそうで。
さっきと同じように。ただ自分を誤魔化すことしか出来ない。
ガサガサと後ろの草むらから音がした。
始めは人かと思った。
「グルルルルゥ!」
でも、声が違う。人間なんかじゃない。
僕の体が一気に強張る。
振り向きたくなかった。
見たくないものが見えてしまうから。
けれど、どうしても振り向きたくなる。
怖いからこそ、その存在を確かめたくなる。
僕は、振り向く。
そこに居たのは、歯を剥き出しにして血のような赤い瞳で僕を睨む三体の存在。
まるで狼のような見た目だけれども、その禍々しさから狼とは全く別の生き物だと分かる。
僕は理解する。これが、お父さんが何時も戦っている[魔物]なのだと。
「う、うわぁぁぁ!」
僕は悲鳴を上げながら逃げた。
けれど
「グルァァァ!」
僕は知らなかった、魔物の力を。
逃げて、少しは距離を離せたと思った。
確認をしようと、後ろを見る。
まだ、赤く光る一対の瞳は遠くに見える。
「一対?」
そうだ、魔物は三体居た筈。他の二体は?
そう思った瞬間、右から一体の魔物が飛び出して来る。
「うわぁぁ!っつ!」
偶々、地面から出た木の根に足が引っ掛かり転んだお陰で難を逃れることが出来た。
早く逃げようと、直ぐに体勢を立て直そうとした。
けれど、その瞬間もう一体の魔物が飛び掛かって来ているのに気が付いた。
「ひぃっ!」
僕は反射的に身を引いて躱そうとしたが、魔物の爪は僕の胸に傷を付けた。
「あぁぁぁあ!」
いたい、痛い、痛い!傷はそこまで深く無さそうだが胸からはかなりの血が出ていた。
出血のショックで気を失いそうになったが、何故か僕は自分の血から目が離せなくなった。
すると、今まで無かった感情が僕の心を満たしていく。
それは殺意。ただ敵を殺すという純粋な殺意。
いつの間にか、三体の魔物が僕を取り囲んでいる。
その内の一体が僕に飛び掛かって来る。
しかし、その攻撃が僕に届くことは無かった。
何故なら、魔物の体は半分以上消し飛ばされていたからだ。
取り敢えず、他の作品は今もそうですが凍結します。