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005.『この先どうなるか』

「お、俺は」

「ーー大丈夫、マコトは平気」


 声を震わせながらも答えようとした俺の言葉を遮るように、リィンの声が届いた。気付けばあれ程煩かった唸り声も止み、戦闘は終わりを告げていた。


「リィンちゃん、もう終わったんだー?」

「うん、おしまい」


 リィンは細剣を徐に振るう。鋭い風切り音と共に刀身に付いた血が払われ、地面へと染み込んだ。


「どうしてこんな所にいるのか分からない。ただマコトは敵では無い、と思う」


 まさか、リィンに庇って貰えるとは思わなかった。初対面で、助けても何の利益も無い筈の俺だというのに。

 記憶が無いみたい、とリィンが告げるとアリスは不思議そうな顔で此方を見た。


「……ああ、俺も、何でこんな危ない森にいるのか分からない。けどリィンが居なかったら、この森の化け物に襲われてたかもしれない。恩人だ。そんなリィンに何かするだなんて、考えられないよ」

「魔力の有無は分からないけど、体捌きは素人。何かあっても二人なら対処出来る。」

「んー……そっかー。敵では無いんだねー?」


 敵対する気はないし、敵対したとしても相手にもならない。そういう意味での「敵では無い」という俺とリィンの言葉のどちらに納得したのかは分からないが、アリスから威圧感が消えた。どうやら、助かったらしい。


「あはは、ごめんねー、マコトくん。私も、リィンちゃんも色々あったから、少し過剰になってたんだー」

「いや、知らない人が居たら警戒するのは当たり前だと思うし……女の子二人なら特に」


 俺が気にしていない旨を伝えると、二人ともぽかんとした顔で互いに見合う。その後の反応はそれぞれだ。

 リィンは何故か少し驚いたような顔で俺を見ているし、アリスはほんの少し嬉しそうにも見えるがほんのひと匙の苦さを混ぜて笑う。


「あ、あれ? 何か俺、変な事言ったかな?」

「女の子、かー。マコトくんは本当に不思議だねー」

「別に構わない、けど」

「性別的にはそうなんだけど……まぁ、それも色々あるんだよー」


 やはり二人にも事情が色々あるのだろう。まだ会って時間も経ってない、深く突っ込むのは藪蛇とも思える。

 俺は話題を変えようと、未だに屠殺現場のように血溜まりが出来た地面に目を向けた。佇む骸骨兵と腐乱犬、それにアリスが味方につけた取り憑く犬が立ち竦んでいる。


「あの骸骨と犬は、どうするんだ?」

「どうもしない、時間が経てば骸に戻る」

「折角仲間にしたけれど『おいで、おいで』は一時的なものだから……森に返すかなぁ?」


 思えば取り憑く犬達も目的としてはただの食事ではあるが、ある種生き残りを賭けた戦いだったと言えるのかもしれない。

 しかし、結果だけを言うのであれば過ちであった。何も得るものはなく、生き残りは数匹のみ。このまま森に帰ったところでこの奇怪で奇妙な森で生きていけるのだろうか。


「私は『魔物使役士』だけど全ての魔物が味方、という訳じゃないしーー弱肉強食、だからぁ」


 当たり前だと言うようにアリスは言う。魔物達の生態についてよくは知らない、というか魔物という存在すら初遭遇だが、俺よりも長く魔物と付き合ってきたアリスだ。弱肉強食、というシンプルな答えに辿り着いたのにも何かしらの理由があるのだろう。


「マコトは、どうする?」

「えっ、何が?」

「この後の話。記憶が無い、なら住む所も行く所も無い。一度街に戻るのが安全」

「そうだねー、見た所、冒険者登録もしてないみたいだしねー」

「一度鑑定して適正を見て貰う。そこから冒険者になるのが一番確実」

「素性が知れない人間でも脛に傷のある人間でもなれる、唯一の真っ当な職だからねー。マコトくんもそれでいいかなー?」

「……うん、そうだな、ここの事情は二人の方がよく分かってると思うから」


 俺は覚悟を決めた。この世界が俺が今まで生きていた世界と違うのかもしれない。それでも、俺にはもうこの世界で生きていくしかないのだ。リィン、アリスには迷惑を掛けてしまうが……。


「見つけたボクの責任でもある」

「それに、このまま見捨てて死なれてもそれはそれで寝覚め悪いからねー」

「リィン、アリス……有難う」


 わざわざ俺の為に何かしようとしてくれている二人には感謝の念しか無い。

 例え、二人の連れて行ってくれた街で縁が切れてしまう関係だとしても、この時助けて貰った恩は一生忘れないだろう。


 さぁ、行こうか、と歩き出そうとした俺の耳に、酷く不自然な音が聞こえてきた。まるで木々そのものが引っこ抜かれて薙ぎ倒されるような音と、しゃああぁあぁっ、と空気の擦過音。その音、大型の生物が鳴いた音ははどんどんと近付いてくる。


「この辺りの主かなぁ」

「分からない。けど取り憑く犬とは違うのは確か」

「もしかして、新手か?」


 先程戦闘が終わったばかりだと言うのに、彼女達は剣を抜き、軽くほぐすようにジャンプをし、すっかり迎撃体制だ。本来なら自然の摂理に寄って地に帰る予定であった骸骨兵や腐乱犬、『おいで、おいで』の効果の切れていない取り憑く犬達はリィン達の前に立って、その大声の主の到着に身構える。


「この子達が襲ってきたのも、これが原因だったのかもっ」

「何にせよ、やるだけ」


 二人が俺を庇ってか少しだけ前に出る。戦闘力の無い俺を守ろうとしてくれているのだろう、その事実に申し訳なさを感じていると、リィンが何ということも無しに呟いた。


「終わったら、魔物の解体手伝って」

「大きい獲物だと、持ち帰るのも一苦労だからマコトくん宜しくねっ!」

「……ああ、任せとけ!」


 俺は殊更大きな声で頷いた、そうだ、戦う事で役に立たなくても俺にだって出来ることはある。今一番必要なのは二人の勝利を信じる事、それだけだ。


「リィン、アリス、頑張ってくれ」

「言われなくても」

「えへへ、頑張りますよぉ」


 雄叫びが、近い。ばきばきと木々を薙ぎ倒し、現れたものはーー巨大な蛇であった。

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