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004.『死霊術師の友達』

骸骨兵スケルトン腐乱犬(リビングドッグ)、死の尖兵達よーー鏖殺せよ」


 リィンは腰に吊るした細身の剣を抜刀して宣言する。骸骨達が華奢な身体を震わせ、がちゃがちゃ、とその声に応じたように音を立てて走り出す。手には何も持たずと一心不乱に雪崩れ込む姿はぞっとする程に暴力的だ。

 その骨の合奏に流石に気付いた取り憑く犬達が振り向こうとする、が、リィンが蘇らせた死体達がそうはさせない。

 がぅうるるる、と歪な唸り声を上げて、欠損した身体で飛び掛かる腐乱犬はその動きこそ精彩が欠けていたが、生前に誇っていた牙や爪の鋭さはそのままに襲い掛かる。


 勿論、取り憑く犬達もただやられているだけでは無い。纏わり付く腐乱犬を爪牙で切り裂き、骸骨に身体でぶつかり、必死に抵抗をする。


だが、それは圧倒的であった。


「……凄い」


 取り憑く犬達の大きなアドバンテージであった、数の強みという前提を覆された上に前後を挟まれた状態での乱戦になってしまった。アリスを包囲していた筈が、リィンに包囲され返されてしまった。


 一匹、また一匹と、骸骨のその身を鈍器にした殴打に、腐乱犬の倒れる事を知らない、繰り返し襲い掛かってくる暴力に倒れる。そして倒れたものが、リィンの力によってまた腐乱犬として蘇る。終わるまで終わらない繰り返しだ。


 奇妙な怪物同士が唸り声と骨身を擦り合わる音と断末魔を響かせながら殺し合う光景はさながら出来の悪いホラー映画のようだった。いや、出来の良い悪夢の方が近いかもしれない。


「邪魔」


 抜身の細剣を構え、骸骨達と共に切り込んでいくリィンの、踊るような体捌き。骸骨兵に指示を与えながら、飛び掛かってくる取り憑く犬の噛み付きをいなし、すれ違う瞬間に首に細剣を当てて、そっと切り落とす。


 剣技や戦闘の事など俺には分からないが、それがあまりにも自然で、そしてーーただただ綺麗だった。


「やぁ!」


 また一匹、今度は胴体を刺し貫き、真下に斬り払う。掻っ捌かれた取り憑く犬が事切れると同時に濁った瞳で起き上がり、リィンの後に付いていく。


 リィンが動く度に純金の髪が舞い、魔力を放出した影響なのかきらきらとした光の残滓を残す。その怪物達と戯れる程に引き立つ美しさに、自分の置かれている状況すら忘れて見惚れていると、


「えへへ、リィンちゃんは凄いでしょ」

「……ああ、そうですね」


 戦いの場から離れ、近くまで距離を詰めていた兎耳の少女、アリスに声を掛けられた。


 先程の『おいで、おいで』で味方に付けた犬達は戦闘に参加させているものの、他の四体の魔物達はアリスの周りに付き従っている。……魔物達には警戒されてるような気がするが。

 アリスだよ、と名乗られ、マコトです、と返す。お互いに名前を教え合うと、アリスは人懐こそうな笑みを浮かべた。


「『死霊術師』は一人でずっと、ただただ研究を主にしている人も多くてこういう荒事には不向きなんだけど、リィンちゃんは剣の腕も立つし、状況に合わせた魔法の使い方も上手いし、頼りになるんだぁ」

「そうなんだ……アリスはリィンと仲が良いんだ」

「うんっ! 私も冒険者としては異端な職業(はみだしもの)だから、気が合った感じかなぁ?」


 何てことは無いように笑っているが、はみ出し者という言葉自体はあまり良い風には聞こえない。俺が迂闊には踏み込む事の出来ない過去があるのだろうか。


「そーれーでー」


 にこにこと笑みを浮かべながら、横に揺れながら近付いてくるアリス。親密な態度の筈なのに、何故か言いようもない圧力を感じ、俺は思わず一歩下がる。


「ねぇ」


 それすら気にせず、下がった一歩分、更に距離を詰めてお互い手が届く距離まで近付いてきたアリスは満面の笑みを浮かべた。


「マコトくんは、何者なのかなぁ?」


 言葉としては、ただの疑問。でもアリスから感じるのはーーたっぷりの警戒と、間違いようの無い、敵意だ。

 笑みを崩す事なく正面から俺を見据えるその仄暗い空色の瞳。ただそれだけでまるで捕食者に囚われてしまったかのように感じた。冷や汗が、一筋垂れる。


「私は魔法的な才能はあまり無いんだけど、リィンちゃんが感じた魔力の波動は感じてたし、それでリィンちゃんが様子を見に行ってる間に私は襲われて、戻ってきたと思ったらマコトくんを連れてて……これって、怪しいよねー?」


 アリスはあどけない素振りで覗き込むように見上げてくる。本来なら女の子にこんなに近くに寄られた気恥ずかしくなってしまう筈だが、その深い深い空っぽな瞳に吸い込まれるように目が離せない。


「この『憐れみの魔術師の森』で武器も持たずに軽装でいるなんて、余程実力がある人じゃないと無理だし……ねぇ、マコトくん?」

「は、はい」

「リィンちゃんに、何か変な事しようとか考えたりしてないよね?」


 気付けば、付き従う魔物達にも四方を囲まれていた。逃げる気は無いが、これでアリスの気に入らない返答だったならば、無事で済む気配でも無い。


「もし何かしようとしてたらーー」


 ああ、兎耳の少女が、肉食獣のように、獰猛に嗤う。


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