まずは、ここから話そうか
昨日、ニュースで流れた梅雨明け宣言。
いつまでも明るい夕方に見上げた空は、1日の暑さでまるで空も日焼けてしまったかのように薄い水色をしている。
そんな空に誘われるままに、やっと家に帰ってきたと言うのにまた外に出た。仕事着のまま、あてもなく田圃道を歩く。人も歩けば、散歩する犬に出会う。近所に住んでいる家のゴンだ。焦げ茶の毛が密集しているゴンちゃんは、だいぶ日が落ちないと熱中症もあって、散歩に行かないらしい。
「こんにちはー」
声を聴くなり、けたたましく吠えられた。ウゥ、ウゥと唸りながらにじり寄ってくる。慌てたぼくは敵意が無いことを示すために両手を挙げてみた。果たして、洋画で知った敵意が無いことを示すための両手をあげる行為が犬に通用するかはわからないが…。
幸いなことに、ゴンも洋画に精通しているらしく、敵意が無いことが伝わると、フンッとそっぽ向いて、ゴンはぼくが来たあぜ道へ向かって行った。さながら、王の凱旋のように堂々たる足取りで家に帰るのだ。対して、自分はくたびれた仕事着を着て、トボトボ歩いて情けない気がした。
余談であるが、ゴンはあんな風に勇ましく人に向かって吠えまくるが、ゴンを飼っている家の奥さんが言うにはとてもビビり屋で、稲刈りの時期にしか積んでない藁の山に怖気付いて頑として前に進もうとせず、迂回して散歩したこともあったらしい。呆れながらも笑って話す田中さんの横で、そんな話はするなとワンワン吠えてた。決して、負け惜しみにこんな話を思い出したワケではないと誰に言うでもない言い訳をする。
そんなゴンは、それなりに長く生きていたから、昨年度末に亡くなってしまった。ゴンがいなくなったその家の庭を見ると、ぼくが飼っていた犬でもないのに寂しさがある。週に4、5回はゴンに挨拶していたにも関わらず最後の最後まで吠え続けられていたぼくには時々見えて、ゴンを大好きだった奥さん達には全然見えなくなってしまった。けれど、ゴンはたくさん愛されていたし、ゴンも奥さん達が大好きだった。今でもゴンは、夕方になると散歩に出かけては自分の家に帰っていく。
ようやく日が落ちて、夕焼けが見えた。明日の晴れを予感させるような真っ赤な夕焼けを見ながら、どこまでも続く田圃道に疲れを感じて、適当なところで右回りをして、ぼくも家へと帰った。
つまりは、そういう話だ。ぼくは、幽霊のような精霊のような妖怪のような"ナニカ"が見える。特別恐ろしくもないし、誰にも見えないし、いつも見えるわけでもない。ただの妄想のような気もするが、物思いに耽ることはあれど妄想と現実をごちゃ混ぜにして見るような雑な物の見方はしていない……と信じたい。ただの平凡な一般人(少なくともぼくはそう思っている)のなんて事もない日常的な話である。