第捌話 美人なお姉さんが急に叫んだのでびっくりしてみる
言われるがまま椅子を運び、指示されたとおり部屋の中央に置く。二つの椅子が向かい合わせになった。
「よし、完成。そっちに座って。」
これまた言われるがまま席に着くと、向かいに未来さんが座った。
「これから、君の悩みを解決する手助けをしてあげる。だから、私のことを今だけ全面的に信用してね。」
「は、はい。」
いやに真剣なトーンで話す未来さんにつられ、心臓の鼓動が少し早くなる。
「緊張してるの?ふふ、じゃあ始めよう。」
そう言うと未来さんは胸元から何か光るものを取り出した。…あれは宝石?深い蒼色をしている。
と、彼女の目つきが変わった。なんだろう、殺し屋の目というか、眼光がやばい。ここじゃないどこかを見ているかのように据わっている。
「出てこい…。今すぐにッ!!」
未来さんの叫びが校舎に響く。直前までの彼女とのギャップに俺が固まっていると、どこか遠くで笛の音が聞こえた。
突然、教室全体が霧に覆われた。扉付近に立っていた先輩はおろか、正面の未来さんの姿まで霞んでくる。
「え…。み、未来さん、なんか霞んできたんですけど!」
「落ち着いて。それは自然現象よ。むしろ霞まなきゃおかしいわ。」
「落ち着けって言われても…」
視界がどんどんホワイトアウトしていく。俺は恐怖と戦いながら、かすかに見える未来さんの足を凝視した。一応言っておくと、意識を飛ばさないためだ。断じて足に興味があるわけではない。
「晴れるかなー、これ。」
雰囲気をぶち壊すような軽いノリで未来さんが話す。
と、おもむろに未来さんの足が鮮明になってきた。
「晴れてきましたよ!」
「私の足を睨みながら言わないでよ。ほら、顔を上げて。」
言われたとおりに顔を上げると、そこには未来さん…じゃない誰かが立っていた。彼女の背後に。
俺はそいつから目を離さずに未来さんへ言葉を投げた。
「みみみ未来さん、今すぐ逃げてください!」
「逃げる?なにから。」
「う、うう後ろに明らかにヤバい奴がいます。多分すでに何人か人殺してますよ!」
「そう…。でも、私は安全よ。」
「え…?」
明らかにヤバい奴を背後に立たせているのに、この人はどうしてこんなにリラックスしているんだろう。
「なぜなら、その『ヤバい奴』と相対しているのは、私じゃなく、あなただからだよ。」
相対しているのが…俺?
そう認識した瞬間、いまだ霞がかっていたそいつの顔から霧が晴れた。
「…っ!」
それはとてもよく見慣れた顔。朝、昼、夜、鏡を見ればそこにあった顔。つまり俺だった。
「小波くん、何がみえる?」
「………おれがみえます」
「ふーん、そっか。」
未来さんは意味深なセリフをつぶやき、すぅっと息を吸うと、俺だけじゃない、そいつにも向けているかのように言葉を発した。
「じゃあ、君たちには今から面談をしてもらいます。」