第漆話 いくらなんでも怖すぎるので美少女先輩に頼りまくってみる
ずんずん進んでいく先輩を追い、校庭に入る。心霊スポットだという先入観と、今は丑三つ時だという事実に、まるで異世界に来たかのように錯覚してしまう。
時々校舎や校庭に人がいる、と感じるのはただの幻覚なんだろうか。
コンクリート造りの校舎に足を踏み入れると、中は閉鎖空間だからか、俺たちの足音だけが際立って響いた。
思った通り、中は廃れていて、床に使われているゴム材がところどころ逆立っている。
どこまでいくんだろう…。さっきから先輩の袖をつかんでいるのだが、先輩は変わらない速度で歩いている。
階段を一階、二階と昇る。もう三階だ…。え、まだつかないの?そろそろ気を失いそうなんですけど。
「あ、あの、どこまでいくんですか」
「着いたわよ。」
間が悪いが、どうやらやっと着いたらしい。
そこは一階や二階にもあった普通の教室だった。
先輩に続き中に入ると、教室のなかには一人の人間がいた。
「んお、やっときたねー?いや、時間ピッタリか。」
「連れてきたわよ。この子が小波くん。」
「ふーーーーーん?」
その人は俺に近づくと、じぃーっと見つめてきた。緋色の瞳が上へ下へ動いている。
仕返しとばかりに、俺も先輩に隠れながらその人を観察する。
髪の色は青。珍しい色だ。服はスカートタイプのスーツ。スカートはタイトではなくふわっとした形をしている。っていうかスタイルがいい。きゅっと締まったくびれがその上のバストを誇張している。そんなに大きくはないはずなのに、なんだろう、とても蠱惑的に見える。
まぁここが心霊スポットである限り、美人なんて怖さに拍車をかけるだけだが。
「うぅん、いいね。とってもいいね。君、名前は?」
「え…?今先輩が言ってませんでした?」
「あれ、そうだっけ。まぁいいよ。名前は?」
いやよくはないと思う。とはいえ進展がないので、ここは素直に名乗っとこう。
「小波、彗です。小さい波に彗星の彗。」
「ふむ、矮小の小に電波の波、それとほうき星ね。」
「…」
…いやそうだけど。間違ってないんだけど、なんかむかつくな。この人、先輩と同系統の人間か?
「私の名前は夢原未来。未来でいいよ。」
「あ、はい。」
自分の名前は突っ込ませないのか。自分勝手なとこがますます先輩っぽい。
「で、スイくん。君は怪奇現象を解きにきたんだとか。それ本当?」
「本当です。ここなら解消できるって聞きました。」
「…うん、そうだね。でも、違うよ。」
「…え?」
何が違うんだろうか。俺が先輩に聞いたのはそういう話だったはずだ。
と、俺が怪訝な態度になったのを感じ取ったのか、未来さんはうん、とうなずくと、真剣な目で俺を見た。
「小波くん、訂正させてもらうとね、解消できる、じゃなくて、解消するんだよ。」
「解消する?それって結局一緒じゃ…?」
「いいや。違うんだ。」
そう言うと未来さんは真剣な態度のまま一度深く呼吸をした。
「確かに怪奇現象を解消できる環境ではある。でもね、最終的には君が頑張らなくちゃいけないんだ。」
「俺が…?」
「そう。君が頑張らなきゃ失敗することもあり得る。だから、覚悟をしておいてね。」
「か、覚悟って」
未来さんは俺の言葉を待たずに、にっこりと笑うとすたすたと教室の奥へ歩いて行った。
「手伝ってくれるかな。椅子、運んでよ。」