第陸話 場所が場所なので怖気づいてみる
そんなこんながあってやっと着いた目的地は、深夜の神社より怖い場所だった。
「……」
住宅地からそこそこ離れた林の中。突如現れた門扉には【私立夜泉小学校】という文字が彫ってあった。
「しょ、小学校……?」
なんで小学校なんだ? 先輩から示された場所は間違いなくここだ。深夜二時に小学校? 嫌な予感がする。
それに……
「どこかで聞いたことあるな、この学校名」
それも結構最近だ。記憶をたどってみる。夜泉、夜泉……夜景? いや違う。
そもそも、これの読みは「よみ」であってるのか? 読みだけに?
よみ、よみ、よみしょうがっこう……だめだ。思い出せない。
こうなったら伝家の宝刀、web検索をするしかない!
おっ……ヒットするじゃん! どれどれ……
『怪奇ファイル0042! 皆さんおなじみ! 霊障がやばい! 飲み込まれたら帰ってこれない! 夜泉小学校!』
『もし行こうとしている人がいたら遺書は用意しておきましょう! まず死にます!』
「……」
心霊スポットだった。しかも結構有名。
足が固まり、冷汗が背を伝う。よりによって心霊スポット……。
どうやら戦後に建てられ、改修などを重ねてきたが、40年ほど前に廃校になったらしい。
それ以来、校舎から声が聞こえる、門がひとりでに開閉する、丑三つ時に教室の明かりがついてるのを見た、など噂が絶えないんだとか。
俺が見たサイトには他にもうさんくさいことが書いてあったが(行った人が行方不明になり外国で見つかったとか、昼に行っても校舎内は夜のように暗いとか)、実物を見たらあながち嘘でもないのかもと思えてしまう。
「か、帰ろっかな……」
声が震えているのが分かる。いや雰囲気ありすぎなんだって。門のずっと向こうに見える校舎は不気味というほかなく、心霊現象を解消しようと来たのに、逆に倍になって返ってきそうな気がする。うん、帰ろう。怖いからね。
「駄目よ。」
「ひっ!?」
振り返った瞬間に至近距離に現れた長い髪の女性に、俺はちびるかと思った。ゆゆゆゆゆゆゆ幽霊かとおおお思った~。
「駄目よ。小波くん。あなたはここで自分の怪奇現象を解決するの。」
「……」
その長い髪の女性……天命先輩はいつもと変わらない様子で、俺のわずか数センチ後ろに立っていた。
「っていうかなんでそんなに近いんですか。おかげでめっちゃびっくりしましたよ」
「その方が雰囲気出るかと思って。びっくりした?」
びっくりしたって言ってんじゃん……。この人俺に恨みでもあるのかな。俺はこの人に恨みしかないけど。
「さぁ、早くいくわよ。こんな不気味な林の中で立ち話をする気にはなれないわ。」
「ままま待ってくださいよ、絶対あの中の方が不気味ですって。大体なんでここなんですか?」
「なによ。文句あるの? 解決したくないの?」
「そりゃ解決したいですけど……。」
そう話しているうちに先輩は門を開けて敷地内に入っていく。入りたくはないが、ここで一人になるのはもっと嫌だ。
「もし霊障とかあったら責任取ってくださいよ!」
「うん? なにそれ、プロポーズ? ごめんなさい。」
「違いますよ! あとせめて断る理由は教えてください!」