第五話 夜は静かなので逆に心は弾ませてみる
絶え間ない絶叫。走る閃光。助けを求める女の子。そんな中にひとつ、妙に鮮明な音が響いている。
「ピピピピピピピピ」
「………うっさ」
俺は耳元で鳴り響くスマホのアラームを止めた。うん、疲れはとれてるな。
現在時刻、午前一時。外はまっくら。家の中もまっくら。ただ俺の部屋を除いて。
俺は今日の丑三つ時…午前二時に、先輩から書かされたメモの場所に行かなければいけない。
大体家から10分くらいの場所なので、出るのは……1時40分ぐらいでいいか。
「……」
ぼーっとしていると、先ほど夢の中に響いていた絶叫が遠くから聞こえてくる。
うーん、幻聴がひどいな。幻覚も時々見える。ほんとに今日で解決するんだろうか?
「……っと、支度しなきゃ」
頭を起こすためにシャワーを浴び、もろもろの支度を整え、準備が完了した頃にはもう1時30分だった。
……あと10分どうしよう。早めに行くか、ゆっくりいくか、それともひとりしりとりでもするか……。うん、散歩ペースでゆっくり行こう。
歩速を半分にすればちょうど予定通りに着くはずだ。せっかく夜の街に繰り出すのだから、普段見ない街の姿をじっくり見てみよう。
家族を起こさないように無音で家を出ると、外もまったくの静寂が広がっていた。
うわぁ、なんかテンション上がるんですけど。控えめに言って、夜、最高。
にわかに浮足立ちながら、俺は目的地へと歩を進めた。もし長期戦になったりした時用に水や軽食を購入し、リュックを弾ませながら夜の道を歩いた。リュックどころじゃない。俺も跳ねていた。スキップしてた。
「~♪」
鼻歌まで歌いながら夜道をスキップする男子高校生。それは紛れもなくただの不審者であった。
ふと、スキップしている最中、真横からひぇっ、と可愛い声が聞こえた。立ち止まって声の方を見ると、そこにはまるで幽霊でも見たかのような顔の女の子が。
「……」
「……」
なんだろう。あきらかに警戒されている。深夜に出歩く者同士、仲間のはずなのに。
その女の子は制服だった。これはうちの制服か。こんなとこでなにしてんだろう。と思い、
「な、なぁ」
と声をかけた、いや正確にはかけようとした時だった。弾かれたかのように駆け出した女の子は、すぐそこの角を曲がって俺の視界から消えていった。それ、ガチで不審者を撒くときの挙動じゃねぇか。ちょっと傷つく……。
ふと、あの女の子はどこから出てきたのか気になり、視線を戻す。
女の子に気を取られていたが、よく見ると……これは……鳥居?
ってことはここ神社か……。いや怖いよ。なんでこんな時間に神社から女の子が出てくるんだよ。うん、見なかったことにしよう。怖いからね。
気を取り直して夜道を歩く。一度は下がった俺のテンションも、いつのまにか元通り(つまり不審者)になっていた。