第四話 怪奇現象が怖いので美少女先輩に相談してみる
窓の外で帰宅途中の人々がせわしなく歩いている。本来なら俺もその中に混じっているはずだったのだが、なんと俺は今、学校一の美少女と食事を一緒している。ちなみに全然嬉しくない。むしろ胃が痛い。
俺が窓の外を見て黄昏れていると、正面に座っている美少女……天命先輩が口を開いた。
「うん、やっぱりここね。安くて多くておいしい。まさに私のための店といっても過言ではないわ。」
「……」
俺は横目で次から次へと食べ終わった皿を積み上げていく先輩を見ながら、ため息をついた。
先輩にひどい仕打ちを受けてから、俺はこの、学校から15分ほど歩いた場所にあるおしゃれな雰囲気のファミレスに連れ込まれていた。
もちろん俺だって何も考えずについてきたというわけではない。理由はいろいろあるが、主にこの先輩に聞きたいことがあったのだ。
「満足しました? もう、いち、に、さん…………じゅ、十二皿も食べてるんですか?」
「なによ。文句でもあるの? あなたも食べなさい。ほら、このチャーハンおいしいわよ。あーん」
先輩の手に握られたレンゲは俺の方へ向いている。えっ食べていいの? 完全無表情なのが若干気になるけど……。
俺がわくわくしつつ首を伸ばしチャーハンをほお張ろうとすると、レンゲは直前でふいっと遠ざかり、瞬く間に先輩の口の中へ消えた。
「……」
「ふふ、食べられると思った? 残念だわ。小波くんは人のものを盗るような薄汚い乞食精神の持ち主だったのね。」
「あなたがあーんって言ってきたんでしょうが……」
先輩は満足そうにまだ料理をぱくついている。よくこんな食べてあのスタイルを維持できるよな……。
これ以上先輩の暴言を浴びたくない、とまた窓の外を眺め始めてから数十分後、やっと先輩は自分の食欲を満たしてくれたようで、コーヒーを飲みつつ本題を切り出した。
「で、なんであなたは私の対面に座って、さも賢いかのように物思いに耽ってるの?」
「先輩が連れてきたんですけど……。不思議なことがなんとかって言って。」
「あら、そうだったわね。確かここの代金は小波くんが払ってくれるんだっけ。」
「払いませんよ!?」
冗談じゃない。こんな量の食事代を払ったら俺の全財産が吹っ飛ぶ。それはまずい。
「全財産ってあなた……、いくらなんでもおおげさじゃないの?」
「おおげさじゃないですよ。正直全財産でも足りないかもしれません。」
「ふーん、それは失礼したわね。」
先輩は特に反省してないような顔でコーヒーを一口飲むと、今度こそ本題を切り出した。
「ねぇ、最近身の回りで不思議なことが起こってない?」
やっと会話が進むのか、と安堵のため息を漏らしそうになるのをこらえて、俺は先輩に向き直った。
「……心当たりは、あります。」
「例えばどんなの? 言ってみなさい。」
俺はここ数日起こる不思議な出来事を、覚えている限り詳細に先輩に話した。
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「……ポルターガイスト、かぁ。」
「はい。ついでに時々幻聴や幻覚も見えたりするんです。明らかに幻だな、ってわかるんでまだいいですけど」
「………うん。」
「対処法とか、少しでも軽減できる方法とか、なにかご存じないですか?」
「……」
この怪奇現象を話し始めた頃こそ先輩は相槌をうったりしてくれていたが、後半になるにつれ口数も反応も少なくなっていった。
しばらく思案してから、やがてふぅっと息を吐いて顔を上げた先輩は、俺の期待以上の言葉を発した。
「結論から言うと、あるわよ。治す……というか完全に収める方法。」
「ほんとですか!?」
「えぇ。君、今週日曜日は空いてる?」
「…? 予定はないですけど…」
「じゃあ、いまから言う場所に集合。時刻は…そうね、丑三つ時にでもしようかしら。」
「え、どういうことですか?」
「つべこべ言わない。遅刻したらしばくわよ。」
その後有無を言わさない先輩の態度に流され、場所と時刻をメモした俺は、食事代を払う先輩を待ち(諭吉を3枚ほど払っていた。関係ない俺の手が震えた。)、先輩を見送ってから、すっかり暗くなった道を歩いて帰った。