第三話 美少女先輩の態度が変わったので疑ってみる
「うっ……うぅっ……痛いよぉ……」
「うわー、まだ成人前とはいえ男子高校生のマジ泣きは流石に堪えるわね。ちょっと悪いことしたかしら。」
がっつり涙出てました。っていうか泣いてた。だって痛いし。怖いし。
「ちょっとどころじゃねぇよ! なにが不満なんだよ! この馬鹿!」
「あなたが本当のことを言わないからいけないのよ。この愚か者。」
「言ってるって! ほんとに何も覚えてないんだよ! 神に誓ってそうなんだって!」
「ふーん、ちょっと見せてみなさい。」
そう言うと、天命は踏まれに踏まれてもはや土下座の姿勢をとっている俺の顎を掴み、ぐりっと自分の方へ、つまり相当無理がある動きを俺の首に強要した。
「ひ、ひだい! ひだいれす! (い、痛い! 痛いです!)」
「いいから答えなさい。あなたは、私を目撃してからのことを、覚えているの? それとも…覚えて、いないの?」
「ほ、ほぼえて、ないれす……(お、おぼえて、ないです……)」
俺が発言している間、天命はじーっと目を見据えてきた。
しばらく見つめあい、すぅっと目を細めると、首にかかっていた強引な力と、背中を押さえつけていた圧力を緩め、俺の手を取り立ち上がらせた。
「よかったわね。容疑が晴れたわよ。」
「……え?」
いよいよ日本刀でばっさりいかれるのかと身構えていた俺にとって、その言葉は聞き返さずにはいられなかった。
ついでに言うと、日本刀もいつのまにか天命の手から消えていた。
「お詫びといってはあれだけど、この後食事でもどう? 来るわよね?」
「ど、どういう風の吹き回しだ?」
「だから、あなたはほんとに何も覚えてないみたいだし、これまでの非礼を帳消しにしようと思って。」
「帳消しにできるかよ! 非礼どころじゃない、犯罪まがい、いや確実に犯罪行為だったぞ!」
「小波くん。」
「いまから病院に行ってから警察に行くからな! この犯罪者!」
「小波くん!」
「ぐっ…語気を強めても屈しないぞ! 絶対に訴えてやる!」
「小波くん?」
「なんで疑問形!? 小波だよ! 俺は紛れもなく小波くんだよ!」
「小波くん!?」
「驚きたいのはこっちだよ! 急なコメディ風な展開についていけそうにないよ!」
「小波くん、実はずっと前からあなたに言いたかったことがあるの。」
「え……今度はラブコメ?」
天命はにわかに緊張しだす俺の目をまっすぐと見て、言った。
「ツッコミが、うるさい。」
「…………」
「あと、私、先輩。」
「…………すみませんでした。」
「よろしい。」
すこし邪悪さの混じった笑みを浮かべ、うんうん頷くと、天命……先輩は、まぁ、と言葉を続けた。
「まぁ、いいからついてきなさい。もっとも、私がこういえば否が応でもついてくる気になると思うけれど。」
「……?」
俺が訝し気な視線を送ると、先輩はなぜかふっと鼻で笑いながら言い放った。
「最近、周りで変なことが起こったりしてない?」