第一話 美少女先輩が気になるので探ってみる
「天命夜景さん? ふぅん、あぁ、あの可憐で美しい先輩のことかい?」
教室に夕暮れの光が差し込みノスタルジックな雰囲気で満ちている。
そんな中俺は日課の「放課後読書」にいそしんでいた。……こいつが来るまでは。
火咬茅人。歳は17、クラスはA組。ミステリー研究部(以下ミス研)所属。いわゆる陽キャ。常にキラキラした雰囲気を纏っている。
俺との接点は同じ部活に属しているってことだけ。のはずで、俺もこいつを特に気にしたこともないのだが、なぜかことあるごとに絡んでくる。うん、ものすごくうっとおしい奴だ。
俺がすごーくわくわくしながら本を読み進めていると、颯爽と現れ、正面に座り、開いた本の上から自信満々の笑みを浮かべながら、こちらを見てきたのだ。
しかも(個人的に一番許せないことだけど)、あろうことかこの本のネタバレをかましてきたので、本を閉じてついでにぶん殴ってやった。
『追い払いたいんなら、構ってやった方がいいんじゃない?』とミス研の先輩にアドバイスされたことを思い出し、雑談ついでに数日前から気になってることを聞いてみた。
「そうそう、その可憐で可愛い先輩だよ。何か知ってるか?」
「何か、ねぇ……。」
火咬はキラキラした顔で、首をかしげる。その仕草と雰囲気が相まってとてつもないカリスマを放っている。ちなみに俺はこういう人間は大嫌いだ。
「容姿端麗頭脳明晰文武両道品行方正おまけに美声、とかそんな俺でも知ってることじゃなくてさ、なにか…こう、実はなんたらでした、みたいな。」
「そうだねぇ、例えば?」
いや今結構例えただろ。これでさらに求めてくんのかよ。
「うーん、たとえば、日本刀で悪いやつを日夜やっつけてます…とか?」
ぶふん、と俺の正面のチャラチャラオーラが笑った。お前ぶっ飛ばすぞ。
「お前ぶっ飛ばすぞ」
「くくく……いや、すまない。あまりにもファンシーでファンタジーな例えが出てきたからね。」
俺が机の下で握りしめた拳を緩めると同時に、火咬はふぅっと息を吐きだし、俺に向き直った。
「まぁ彼女の人物像から一概にあり得ない、と否定もできないのが事実だけれども、それはないんじゃないかな?」
「いやだから例えだって。そういう感じの噂とか知らねぇの?」
「うーん、僕は聞いたことがないねぇ。そんなオカルティックな噂。まぁ記憶を辿ってみるよ。」
火咬はまだ口元に笑みを残しながら記憶を詮索している。ふーん。こいつでも知らないこと、あるんだな。
まぁ知らないなら仕方がない。俺はもう一つ気になっていることを聞くことにした。
「別に思い当たる節がないってんなら無理にひねり出さなくていいよ。それより、もう一個聞きたいことがあるんだけど。」
「ん? なんだい? 恋愛相談なら任せたまえ。」
「いやちげぇよ。もしそうだったとしても誰がお前に相談するかよ。そうじゃなくてさ」
俺は少し早まる心拍を落ち着かせつつ言った。
「最近、周りでちょっと変なことが起きるんだ。」