おまけ 目が覚めたのでとりあえず歩き出してみる
後日談というか、後片付け。
翌日俺は寝ていた。いや、別に眠かったとかじゃない。昏睡していたのだ。おかげで、今でも結構危ない出席日数がさらに崖っぷちに近づいてしまった。
翌々日も俺は寝ていた。結果、起きたのは日曜から三日後の水曜日だった。
「……えっ」
俺が目を覚ました時真っ先に目に入ってきたのは、俺にKISSしようと唇を近づける妹の姿だった。
もちろん殴った。グーでいった。俺の初めてをこんなのに奪われてたまるか。
その後、『お兄ちゃんが起きないから心配だった』だの『色々試してダメだったから最終手段でチューしようとした』だのぐずぐず言う妹を適当にあしらい、俺は学校へ向かった。
道中、歩きながら追想する。俺はつい三日前、まるで夢の中のような体験をした。とても信じられないような体験。だが夢じゃない。……はすだ。
ふと、考えているとだんだんと夢のような気がしてきた。あれ、もしかして本当に夢だったんじゃ……
俺はそんな疑念を払拭しきれずに正門へ到達する。そこにはいつもと変わらない鉄の門の姿があった。
うわー、なんか安心するんですけど。なんだろう、日常っていいな。心があったまる。
門を眺めながらしみじみしていると、突然左肩に衝撃が走った。
え、なに? この肩と肩がぶつかったかのような衝撃は?
よろめいていると、颯爽と横を通り抜けていく影があった。
黒に近い紫の超ロングヘア―。均整の取れた、黄金比率と呼んでも遜色ない完璧なスタイル。
……うん、この時点でほぼ100%誰だか分かる。で、でも、まだ顔が分かんないから! まだ別人の可能性も……!
その人物は俺の前方へ2、3歩進むと、そこでくるっと振り返った。
「おはよう。小波くん。」
その人は、あろうことか我が上倉高校の超有名人、天命夜景先輩だった!……まぁそうだよね。知ってた。
その後先輩は俺の返事を待たず校内へ入っていった。え、何のために肩ぶつけてきたの?
先輩の不可解すぎる行動に戸惑いつつも、俺も教室へ向かう。
しかし、先輩と知り合い、ということは日曜の出来事は夢じゃなかった、ってことになる。
ちょっと安心した。夢オチだったらどうしよう、とか思ってた。
階段を昇り教室に入ると、そこには見慣れた風景が広がっていた。
席に着き、授業を受ける。日常をこれでもかと体感していると、時間は放課後になっていた。
……ちょっと心配していたのだが、誰からも休んだことについて聞かれなかったな。まぁ俺はもともと存在感ひかえめだからな。決して友達がいないとかそういうことじゃないはず。いるし。ちゃんといるし。
これ以上現実を直視するのはとても耐えられそうにない。ちゃっちゃと帰ろう。
そうして俺の久しぶりの日常は幕を閉じた。
帰り道で想いを馳せる。
俺は再び日常を手に入れた。まぁ、例の霊障が起こるとかそういうことは置いておいて、とりあえず戻れたことを祝おう。
今日はケーキでも買って帰ろうかな。自分用に。うん、そうしよう。明日から、いや、今日からの日常に、乾杯。




