第終話 俺がとんでもないものと関わった話
未来さんが少し驚く。もう一人の俺はもっと驚いていた。先輩は……なぜか鼻で笑っている。
「小波くん、いいの? その未来に希望はないよ?」
「そうだぞ、お前、俺と共倒れする気か?」
俺は二人を見る。未来さんが んっ と口をつぐむ。わかってくれたみたいだ。俺の目に絶望はないことを。
「俺は破滅する気はない。」
「はぁ? お前、話聞いてたのか?」
もう一人の俺は構わず異論を唱えてくる。こいつ、感受性乏しすぎだろ……。まぁ、俺なんだけどさ。
「聞いてたよ。そのうえで言う。俺は死なない。精神が汚染されるんだったら、汚染されないように心を強く持てばいいだけだ。霊障が周囲に及ぶなら、今はまだわからないけど、そうならないように努力する。」
「そんなの……答えになってないだろ……」
俺は微笑む。もう一人の俺に向かって。
「これが俺の答えだよ。わかるだろ? お前は俺なんだからさ。」
「……はぁ、そうらしいな。でもわかってるのか? それは茨すら生ぬるい、修羅の道だぞ? お前にそんな地獄が耐えられるのか?」
「耐えなきゃ死ぬんだろ? じゃあ耐えるよ。」
「……そうか」
やっと観念、もとい理解してくれたらしく、目の前の俺は静かに微笑んだ。
「まさか、消されるつもりで呼ばれたのに、俺の存在を認めるなんてな……。ほんと、お前はお人よしだな」
「自画自賛はよせ。これから地獄が待ってるが、よろしくな。」
俺は引きつった笑みを浮かべる。口ではああいったが正直苦痛は嫌いなので、ちょっと気が沈む……。
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「……ありがとう。俺を、自分を、受け入れてくれて」
一件が落着したように思え、実際俺も気が緩んでいた。
俺がこれからどうすればいいのか未来さんに聞こうと横を向いたとき、突然もう一人の俺が喋った。
次の瞬間、室内をまばゆい閃光が貫いた。
「うわっ!」
まぶしすぎて目を閉じる。と、遠くで笛の音が聞こえた。これはなんかデジャブだな……。
「……あれ?」
目を開けると、俺は何故か天命先輩に押し倒されていた。……押し倒されていた!?!?!?!?
「せせせ先輩? 何を…」
「ふぅ、びっくりした。あら? 小波くん、あなた……」
天命先輩がゆっくりと顔を近づけてくる。ここ心の準備ができてない……! ま、まって! やめて!
「あ……瞳孔、蕩けてる♡」
「え……?」
意味不明かつ無駄にエロティックな言葉を残すと、先輩はすっと立ち上がり、俺の手を取り立ち上がらせた。
な、なんだったんだ……。
立ち上がったついでに周りを見回すと、そこは教室に入ってきた時と何ら変わらない光景があった。
そう……俺と先輩と未来さんしかいなかったのである。
「み、未来さん、俺が消えたんですけど……!」
「んえ? 何言ってるの、ここにいるじゃない」
「いや俺じゃなくて、もうひとりの俺ですよ!」
「あぁ、そういうこと。んー、成仏したんじゃない?」
「そんな! あんだけ悩んで結論を出したのに!?」
「まぁ、うん、多分成仏はしてないね」
「どっちですか! これ以上俺を悩ませないでください!」
未来さんはすっと姿勢を改めて、俺に言い聞かせるようにつぶやいた。
「おそらくあなたの体に戻ったんだろうね。だからこれからもポルターガイストは起こり続けるし、幻聴に幻覚だって現れるだろう。……でもいいんだよね?」
「……はい。俺がそうしたかったんです」
「……そっか。ふふ、夜景ちゃんの影響力も侮れないな~。まぁ、そういうことなら、専門家として助言をします。」
急に仕事口調になった未来さんにびっくりしながら、俺は真剣に耳を傾ける。
「そうだなぁ、とりあえず、そういう霊障が起こったら連絡して。その時々の対策法を教えてあげる。その場しのぎにしかならないけどね」
「わかりました」
「これが私の番号ね。あ、夜は寝てるかも」
いやそれって全然頼りにならないんですけど……。
「そういうことで、じゃあ解散! お疲れ~。あ、片づけは任せてはよ帰んな~。」
未来さんに言われるがまま俺と先輩は廃校を後にし、帰路についた。
道中、先輩が『私の家はここよ。』とか言って神社の前で止まったり、公園の前で『小波くん、ブランコを漕ぎましょう』とか言い出したりはしたが、それ以外に変わったこと、要するに幻聴などは起こらなかった。
っていうか先輩が変だった。いつもながら頭おかしいとは思うけど、今夜は特にテンション高めだ。なにか良いことでもあったのだろうか。
まもなくスキップまでし始めた(まるで家を出た直後の俺だ。傍からはこんな風に見えていたのか……。)先輩を送り届け、俺も家に着く。今日は疲れたので、早く寝よう。
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ベッドの中で、もうずっと感じていなかった安寧に包まりながら、ふと今日の決断を思い返す。きっとこれからの人生は苦痛と挫折に満ちているだろう。だが、俺はもう歩みを止めはしない。
なぜなら、その先はきっと希望につながっていると教えてもらったから。
自然にあふれてくる笑みを感じながら、俺は深いまどろみへと落ちていった。




