第拾弐話 天命を得たので未来を選びとってみる
「はぁ……。見かけ通り、優柔不断ね。いいわ。私が助けてあげる。」
突然耳に入ってきた声に、俺は戸惑いを隠せなかった。ちょっと懐かしい声。しばらく聞いていなかった罵倒。そうだ。これは……
「天命……先輩……」
「えぇ、そうよ。あなたみたいな優柔不断な泣き虫を見てると、とーってもイライラするからアドバイスをあげる。」
「ちょ、夜景ちゃん? ……ま、いっか」
未来さんが何かを言いかけたが、先輩はそれに構わず、俺の顔を白く細い両手で包むと、目線をまっすぐ合わせてきた。その眼には迷いなんてない。
「いい? 人間だれしも、選ぶことのできないような選択に遭遇することが多々あるわ。」
「はい……。今がそうです……」
「黙って聞きなさい。そんな時、一番後悔しない方法はね、」
先輩の目がすっと細くなる。手は俺の顔をホールドしたままだ。
「自分がやりたい方を選ぶのよ。メリットデメリット、被害利益そんなもの全部無視して、自分のやりたいものを選ぶの。そうして選んだものは、きっと未来への力になるわ。」
その言葉が俺に届いた瞬間、今まで思考を覆っていた霧がぶわっと晴れ、天から幾筋もの光が差し込んできた気がした。
「人ひとりができることなんてたかが知れてるんだから、何を選んだってなるようになるのよ。なら、やりたいことを選んだ方がお得じゃない。」
ふっと微笑み、先輩の手が離れる。もう言いたいことは言い終わったのか、先輩はくるっと背を向け扉の方へ歩いて行ってしまった。
残されたものは静寂。そして、俺が決断するまでの時間だった。
しかし、俺はもう『決めない』なんて許されない。
それに、俺はもう悩んでなどいなかった。
「……未来さん」
「うん」
決断を告げるべき相手に呼びかける。未来さんは少しも変わらない態度で俺の決断を待っている。
そしてもうひとり。
「……小波……彗。」
「……あぁ」
目の前の俺の眼にも涙が浮かんでいた。だが表情は暗くない。それは俺にとってちょっとだけ救いだった。
「二人とも、聞いてほしい」
目を閉じ深く呼吸をする。俺の答えは決まっていた。もう後悔はしない。これが俺の未来になるんだ。
俺は目を開け宣言した。
「俺は、消さない。こいつを………消さない。」




