第拾壱話 突然美人なお姉さんに割り込まれたので戸惑ってみる
「俺は……消さないよ。自分を消せるわけない……」
「……」
目の前の俺が黙る。その表情は苦痛に耐えているかのように渋かった。
「待って。」
突然声が聞こえた。右を見ると、そこには未来さんが立っていた。
……忘れてた。ここには未来さんと先輩もいるんだっけ。
「待って……。小波くん、一つ聞くけど、あなたは今、目の前にいる『もう一人の自分』を消滅させるかどうかを葛藤しているのよね?」
「まぁ……もう決まりましたけど」
「だから待ってってば。あなただけじゃ、これからの人生を正確に描けないだろうから、私に手助けさせてよ」
「でも……今さらなにを? 消さない方を選べば、こいつは生き残って、俺の人生がちょっと大変になるだけじゃないですか」
「それなんだけど、私からあなたの選択肢を説明させて。その方が真実を見通せると思う」
「……まぁ、わかりました」
一度した決意を再度確認するのは無駄な気がするが、今はこの人を信用しないといけない。俺は渋々未来さんの提案を飲んだ。
「良かった。じゃあ説明するね。まず、消さない方だけど」
そういうと未来さんは間をおいて、真剣な声音で話し始めた。
「今はいいわ。決断をしないで、つらい選択から逃れられる。自分が我慢すればいい、という結論も出てる。でもね、おそらく、あと数年するうちに自我が崩壊するでしょうね」
「……えっ?」
「『もう一人のあなた』は、今もあなたからエネルギーを奪っている。その存在は、じわじわと生者であるあなたの精神を蝕み、そのうち自我が崩壊する。崩壊した後は、そうね、よくて廃人、悪ければ死まであり得るわ」
「そんな……」
「まぁ、そっちを選んだあとに、どうしても辛かったりしたら、私も相談に乗ってあげるよ。夜景ちゃんも、もしかしたら助けてくれるかもね。でもいずれにせよ将来は暗いよ」
「……」
「で、次に消す方だけど」
うろたえる俺をよそに、未来さんは話し続ける。
「あなたもわかってるとは思うけど、消せばすべて終わるわ。怪奇現象も、精神汚染も、私たちとの関係も。その代償として自分を一つ失うことになるけど、精神に影響は多分ないと思うよ。こっちを選べば元の生活に戻れるし、将来は明るいね。まぁ、私のお勧めはこっちかな」
「……」
俺は……このままこいつを消さないでいいのか?
自我が崩壊すれば俺もこいつも死ぬ。俺は唇をかみしめ、必死に抵抗することしかできない。
「で、でも、こいつは生きてるんですよ!消すなんて……っ!」
「じゃないとあなたが消えるよ」
「っ……!」
分かっていた。というかもう分かってしまっている。最善策はこいつを消すことだ。でも、俺は……。
拳を握りしめ反論を考えていると、正面から、見かねたかのように割って入る存在があった。
「もういいよ。正当化がどうとか言ったけど、悪かった。責任は問わないからさ、何も考えず、消せよ。正直、自分が苦しむ姿なんて見ていられない」
そんな言葉を吐いたもう一人の俺は、瞳に諦観の色を滲ませていた。
俺はそんな姿を見て憤りを感じずにはいられなかった。だって……!
「お前……! 自分がどうなってもいいのかっ!?」
「それは、お前も同じだろう!」
「……っ!」
「……やっぱお前と俺は同じだな。互いが互いを優先させようとしている。でもな、それじゃ問題は解決しない」
「で、でも……。でも……!」
視界がうっすらと歪む。俺は泣きかけていた。だめだ。考えがまとまらない。脳が結論付けた最善策を、どうにかして論破しようとしている。答えなんて…出せない。




