第拾話 真実に直面したので俺は思いを馳せてみる
沈黙するほかなかった。俺が一度死んでいて、先輩によって蘇った?
そのせいで精神が分離して怪奇現象が起こった?
到底信じられる内容ではない。だって俺に死んだ実感はないし、もう一人の俺がいるなんて思いもしなかった。
だが、これはすべて真実なのだと、目をそらしてはいけないと目の前の自分が言っている。
俺はそこで全てを突っぱねるほど、自分を疑ってはいなかった。
「…全部わかった。正直実感はわかないけど、俺、死んだんだな。」
「あぁ。死に損なったな。生き返ったおかげでお前はつらーい選択をしなきゃならなくなった。」
やはりそうか。こいつが怪奇現象の原因である限り、俺はもう一人の自分の存在を認めることはできない。
つまり…
「お前を…消さなきゃいけないのか?」
「ふん、そうだな。消せば全部元通りだ。だが、選択肢はある。」
「選択肢?」
「消すか消さないか、選べるって言ってんだよ。俺を消した後で『仕方なかった』とか言って正当化されんのはむかつくしな。やるならちゃんと自分の意思で選べ。」
「自分の…意思…。」
目の前の俺を消せば、怪奇現象は解決し元の日常に戻れる。いわゆる大団円だ。
もう、勝手に浮く机や夜道に佇む白い女の子、寝るときに聞こえる悲鳴などから解放され、これ以上精神が不安定になることはない。
だが、そこには一つ問題がある。それは、こいつが俺だということだ。
こいつを消してしまえば、俺は自分を見捨て、自分に価値を見いだせなかったことになる。そんな状態で俺は家族に、友人に、顔向けできるのか?
それに、これは最初から気づいていたけど、俺はこいつに確かな絆を感じている。
目を閉じると、こいつが今思ってることが分かる。怖いんだ。消されるってのはつまり死ぬことと同義だ。しかも普通と違って霊体だから形も残らない。自分の生きた証を遺せないなんて、そんなの最初からいないのと同じだ。
こいつが今まで感じたことが分かる。あの日分離してから、俺とは違う世界で生きてきた。望まない形で宿ったとてつもない力。それを制御できずに、周りへ影響を及ぼしてしまったことに対する自責。今俺と対面してやっと存在を認知してもらった喜び。…そして未来を俺だけが選べることへの諦観。
こいつは生きている。俺と同じくこの世界に存在している。その生殺与奪は俺次第だ。
もし、目の前の俺を消さなければ、俺は一生霊障に悩まされることになる。だがこいつを救えるし、俺が耐えればいいだけだ。
そこまで考えると、俺の答えはもう決まっていた。




