冒険者は探す。
装備や物資の準備は万端。だけど、心の準備はできていない。
今回の仕事はホリーブ森林で暴牛が生息しているのかどうか調べる事だ。
私の他にもこの仕事を引き受けている人はいるらしく、何があっても対処できるように2〜3人ほど固まって行動することになった。
もちろん私も例外じゃない。2人1組で行動することになった。誰かと一緒に仕事をするのは落ち着かないけど、それだけならまだ大丈夫だ。
問題は、誰と組むかだ。
「ナナ、あっちに行ってみよう。…聞こえてる?」
「えっあっ。ごめん。誰かと一緒に仕事をするのって久しぶりだから緊張しちゃって。」
正確にいえば、アシバと一緒に仕事をしているから緊張している。
他にもこの仕事を引き受けた人はいたはずだ。なのになぜ、彼と組めたのだろう。これは運が良かったのか。それとも悪いのか。
「まって。」
先に歩いているアシバが立ち止まる。
何か見つけたのかと思い彼の見る先に目を向けると見知った人物を見つける。
オルトドールだ。
どうして彼がここにいるのだろうか。確か彼は別件の仕事があるため今回は参加できないと連絡があったはずだ。
見たところ彼1人だ。
不審に思い身を潜め様子を伺っているとオルトドールはあたりを見渡すそぶりを見せると彼の目の前にある垂れ下がっている植物を掻き分け奥へと入っていった。
「どうする?」
「行ってみよう。」
アシバの意見を聞き周囲の警戒をしながら先ほどオルトドールが通った植物の前に立つ。
その植物をよく見てみるとそこに生えてるわけではなく別の場所から引き抜いたものを石か何かで固定している。明らかに何かを隠すための工作だ。
中を覗き込めば薄暗いが奥まで続く道が見える。
この先には一体何があるのか。
するとアシバは躊躇なく植物のカーテンを開いて奥へと進んでいく。
「えっ、まって!このまま行くの?」
「そうだけど。」
用心に越したことはないがアシバは構うことなく歩いて行く。彼をこのまま1人にするわけにもいかない。そう思い私も奥へと進むことにする。
◆◇◆◇◆◇◆
だいぶ奥へ進んでいくと広い場所に出る。
洞窟のような場所だがそのわりには明るい。上を見上げれば大きな穴が1つ空いている。
「こんな場所があったんだ。」
「・・・・・。」
アシバは口を開くことなく何かを探すように壁や地面に手を当てている。
私も周りを見渡してみるといくつかの人の足跡らしきものを見つける。まだ新しい。どうやらここには人が頻繁に出入りしているようだ。
だけど、オルトドールの姿がない。
確かにあの人はここへ入っていったはず。
どこに行ったのかと改めてあたりを見ると壁にいくつか穴を見つける。上の穴から入ってくる日の光で明かりはあるが洞窟全体をはっきりと照らし出すには程遠く、薄暗い。そのせいでよく見なければ気がつけない。
オルトドールはこの穴を通って行ったのか。
穴の1つを覗いてみたが、暗くて何も見えずここからでは何もわからない。
どうするか。
このまま進むか。それとも戻るか。
彼に聞こうと後ろに振り返ると、音が聞こえた。
こつ、こつ、こつ。
後ろの穴から小さいが足音に聞こえる。それも複数。
誰かがこっちにやってくる。
一体誰が?
敵か、味方かわからない。
ただこのままでは確実に私達は見つかる。
隠れるにしても他の穴以外に隠れられる場所はない。だけど他の穴にも誰かがいるのかもしれない。
足音はどんどん大きくなっていく。このままでは鉢合わせてしまう。
「こっちに来て。」
彼から声をかけられる。
彼の方を見るとこちらへ手招きをしている。どうしたのかと思いつつ、言われるがままに彼のそばに行く。
すると彼は近づいてきた私の両腕を掴んできた。
「えっ?!」
突然の事で心臓が跳ね上がり、思わず彼の顔を見ると赤い目と目が合う。
髪と同じ赤に見つめられて言葉が出なかった。
人に触られるのは好きではないのに、彼に触られて嫌悪感などは一切感じない。むしろ心地いいくらいだ。
「ねぇ、ナナ。」
見つめられたまま名前を呼ばれる。
それだけなのに鼓動が速くなる。
彼に見つめられると心の底まで見透かされるように感じる。そんなはずはないのに。
「これから色んなものを見ることになるけど、ほんの少しの間だけ僕の言うことを聞くって約束してくれる?」
なぜそんな約束をさせるのか。
一体これから何を見ることになるのか。
聞きたいことは他にもある。
だけど今は黙って何回も頷くことしかできなかった。
近距離かつ上目遣いでこんなことを言われてしまうと、とても逆らう気は起きなかった。
「よかった。」
彼は掴んだ腕を離してくれた。全く力を込めていなかったから痛みはない。
「ははっ。まさかこんなところでお2人に出会うとは、思いもしなかった。」
第三者の声が聞こえた。
きっとあの足音の1人だ。そして、この声には聞き覚えがある。
オルトドールだ。そして彼の後ろにはガラの悪い男達が数人、控えていた。
状況は良くない。むしろ悪い。荒事はきっと避けられない。
だけど、不思議と落ち着いていられる。
彼の隣にいるだけで、私は安心していた。