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ユーシャハシナナイ  作者: 日暮蛍
少女のお話。
7/23

冒険者は憧れる。

「おはよう。」

「…あれ?」


アシバにお礼を言えた翌日の朝。

いつものようリビングへと向かうとそこには先に朝ごはんを食べているアシバがいる。

彼はもういないと勝手に決めつけていたせいで彼の姿を見た時変な声が出てしまった。


「早く食べないと冷めるよ。」

「そ、そうだね。」


いつまでも席につかない私を見かねて彼は声をかけてくれたので戸惑いながらも席につき、食事を始めた。

食べながら今日の予定を立てる中、ついこんな質問をしてしまう。


「アシバはしばらくこの街にいるの?」

「んー、そうだね。もう少しここにいるつもり。」


彼は少し考え込む仕草を見せた後、私の質問に答えてくれる。

それを聞いて思わず大きな声で「やった!」と言いたい衝動に駆られたが、抑え込む。

それでも嬉しくてしょうがなかった。もう少し彼と一緒にいられる。こうして話すことも増える。

特別なことでもないのにそれだけで心が弾む。


彼がちょっとでも長くここにいてくれますように。


そう思いながら彼との話を続ける。



◆◇◆◇◆◇◆



「依頼ですか?」


あれから数日後。

被害がそこまで大きくなかったおかげで町の復興がひと段落し、そろそろ仕事をしようとギルドへとやってきた。

すると職員の人からこんな仕事を持ちかけられた。


「はい。すでにご存知のはずですが以前この町に暴牛の群れが襲来してきました。」


もちろん知っている。私自身暴牛討伐に関わった1人だ。


「あれから暴牛の大群が来た方角から場所を割り出した結果、ホリーブ森林からやって来た可能性が高いのです。」

「あそこにですか?」


ホリーブ森林。

様々な生き物や植物が生息しておりほとんどの冒険者が採取や討伐目的で1度は行ったことのある森だ。もちろん私もそのうちの一人だ。

広大な森なため多くの冒険者が訪れているにもかかわらずその全貌が明らかになっていないそうだ。


「でもあそこに暴牛が生息しているなんて聞いたことないですよ。」


暴牛は本来別の場所に生息する生き物だが餌を求めてホリーブ森林にやってくることが多い。だけどあくまで餌を食べるためであってそこで生息しているわけではない。


「はい、その通りです。ですので今回の依頼は暴牛がホリーブ森林からやって来たのか。そして暴牛が襲って来たのはなぜか。この2つの調査となりますね。いかがいたしますか?」


調査か。

この手の依頼はやったことないけど、やる価値はある。

もしも暴牛がホリーブ森林に住み着いていたら今後の生活に大きく関わっていく。それに戦闘経験の浅い新人が暴牛に出くわしたらきっと大怪我をする。


「わかりました。その仕事、引き受けます。」


危険は大きいけど、やってみよう。大丈夫。いつもと変わらない。

油断しない。準備を怠らない。落ち着く。

この3つは必ず守ろう。あの怪物の時みたいに取り乱さなければ大抵のことは何とかなる。ダメだと思ったら逃げるのも1つの手だ。


職員の人から詳しい説明を聞いたらリナさんやアシバにしばらく留守にすることを伝えよう。

その後は準備だ。必要なものを買いそろえたり武器や防具の手入れをしたりとやることは多い。

大変だけれど、がんばろう。

お礼は言えたけど、アシバとの繋がりを切れないよう努力をしなくてはいけない。この仕事はそのために必要なことだ。


こんなに仕事にやる気を出せるのは初めてかもしれない。

今まではただ生きるためだけに深く考えずに仕事をして来た。

だけど彼と出会えてからは毎日が楽しい。

誰よりも強く、綺麗なアシバを目標にするだけでこんなにも充実した日々を送れるとは彼と出会う前の私では想像もつかなかった。


あぁ、そうか。やっとわかった。

彼のことばかり考えるのは憧れているからだ。だって彼はまるでおとぎ話に出てくる主人公そのものだ。

物語は好き。

特にお母さんも大好きだったドラゴンを退治をするために旅をする魔法を使う勇者のお話が1番のお気に入り。その勇者の姿と彼を重ねて見ているのかもしれない。

アシバに話したら子供っぽいと笑われるかな。


それでも、憧れることはやめられない。

彼が振り向いてくれるならどんな仕事だってやり遂げてみせる。彼に少しでも近づけるのならどんなに苦しくても耐えてやる。たとえ追いつけなくても最後まで追いすがることを諦めない。


いつか(アシバ)が私の前から姿を消すことになってもきっと憧れ続ける。

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