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ユーシャハシナナイ  作者: 日暮蛍
少女のお話。
6/23

冒険者は話す。

「美味しかった?あそこのシチュー。」

「うん、上手かった。美味しくなるように作っているのがよくわかった。」


食事が終わってお腹が膨れた帰り道。私は彼とは数歩離れて歩く。

今日がダメなら明日。明日がダメなら明後日。

そんな考えはダメだ。彼がいつまでもここにいる保証はないのに話を切り出せない。わかっているはずなのにあと一歩なのに踏み出せない。


「あ、あれ?まって、道こっちじゃないよ。」


いつもとは違う道に通ろうとするアシバを見て制止をかける。だけど彼は足を止めずその道にまっすぐ歩く。


「この先にある広場に被害がないってナナは知ってたっけ?」

「え、うん。知ってるよ。」

「そこで話そう。何か僕に話したいことがあるんでしょ。」


心臓が跳ね上がる。

彼は気づいていたんだ。私が何かを話したそうにしていたのが。表情に出さないようにしていたつもりだったけど彼にはお見通しのようだ。

それでもいい。彼から話せと言ってくれただけでも心が軽くなる。


「…わかった。」



◆◇◆◇◆◇◆



「で?何の話なの。」


広場にある長椅子に座るなり彼は話をきり出す。いきなりだなと感じるけどその方がありがたい。

もう、覚悟を決めよう。後のことはその時に考えればいい。


「…私ね、数日前に仕事の途中で何かに襲われたの。どんなやつだったのかよく覚えてないんだけど痛くて怖くて、死んじゃうかと思ったのは覚えてる。」


今でもハッキリと思い出せる。あんな異形な生き物は今まで見たことがなかったから余計に印象強く記憶に残っている。そう簡単に忘れることなんてできない。


「でもそいつを倒して私を助けてくれた人がいるの。」


だけどほんの一瞬あの生き物の事を忘れるほど綺麗なものを見た。

心を奪われるほど美しいと感じた炎のような赤髪。あんなに綺麗な髪を持つ人が何人もいるのだろうか。

まだそうと決まったわけじゃない。もしかしたら違うのかもしれない。

だから、これだけは確認しなければならない。


「その助けてくれた人って、もしかしてあなたなの?アシバ。」

「そうだよ。」

「え、軽い!」


数日とはいえ話すべきかと足踏みしていた私の気持ちに知るかと言わんばかりの即答に他に言うことがあるはずなのに思わずその言葉を口に出す。


「他には?」

「え!えぇっと。あ、お礼!あの時は助けてくれてありがとうございました!」

「別にいいよお礼なんて。助けたわけじゃないから。」

「そうなの?!」

「うん。あれを倒すまでナナがいるなんて気がついてなかった。」


ショックだ。

まさか存在に気づかれていなかったとは思いもしなかった。


「後は?」

「…もうないです。」


私の苦悩は一体何だったんだろう。

まさかほんの少しの時間で話が終わってしまうなんて思いもしなかった。言いたい事を言えたはずなのに何故だろう、このなんとも言えない気持ちは。


「その生き物って、どんなやつだったか本当に覚えてないの?」

「…ううん。いきなりだったからどんな姿だったかうまく思い出せないんだ。多分、暴牛かな。」


嘘だ。本当は覚えている。

私はアリの化け物に襲われた。そして彼が助けてくれた。

多分、彼はあの化け物の事を詳しく知っている。何の確証もないけどそう思う。

化け物の事ももちろん、あれが突然発火した事も気になる。答えてくれるなら聞きたい。


だけど聞かない。

あの異様な生き物の存在を公にされていないのはきっとあれの存在を知られたくないんだ。なら彼の嫌がる事はしたくない。

こうして話をしているのも私があの化け物を見たからだ。

私が化け物の事を調べていると思って、探りを入れるためにこうしてわざわざ2人きりで話をするためにこの広場に連れてきたんだと思う。


「…そっか。じゃあそろそろ帰ろ。」

「うん。明日も早いしね。」


話が終わり、早々に帰路へと向かう。


もしかしたら明日、彼はもういないのかもしれない。

だって彼が私と一緒にいてくれるのは私があの化け物をどこまで知っているのか知るため。私が何も知らないと分かれば一緒にいる理由は無くなる。


そう考えるだけで、足取りが重くなり歩く速度も落ちていく。


「どうしたの?」


もっと彼と一緒にいたい。そんな気持ちが胸の奥底から溢れ出てくる。

足を止め、私の様子を伺ってくる彼にこの気持ちを伝えたらどんな反応をしてくれるのか。

先ほどと同じように軽くあしらわれてしまうのだろうか。それとも別の反応を見せてくれるのだろうか。


「ううん、何でもないよ。」


でも、言わない。


ほんの数日間だったけど、彼と一緒に過ごせた。彼と話しもしてお礼も言えた。

想像していたものとは違うけど、やりたかったことができたんだ。これ以上望むのはきっと贅沢だ。


「早く帰ろう、アシバ。」


これでいい。これでいいんだ。

何度も何度も自分に言い聞かせながら彼に追いつくために早足で歩く。


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