冒険者は悶々とする。
暴牛は全て討伐された。
アシバの活躍のおかげでもあるが、後から駆けつけて来たオルトドールも討伐に加わったおかげで被害はかなり抑えられた。負傷者はたくさん出てしまったが死人がいないのが何よりの証だと思う。
それでも被害が出てしまった事に変わりない。特に建物の被害がひどいそうだ。被害にあった住民は建物が修復されるまで仮設住宅で過ごすそうだ。
「…そろそろ起きなくちゃな。」
暴牛がやってきた日を1日目と数えるならあれから今日で3日目だ。
この数日の間、怪我の少ない人は町の復興に駆り出されている。私達冒険者も町がいつまでも荒れたままでは困るので急ぎの用事がない限りは手伝っている。
まだまだ壊れている家は多いけどきっとすぐに元どおりになるだろう。町も少し落ち着きを取り戻している。
「おはよう、リナさん。」
「おはようナナ。朝ごはんはテーブルの上にあるよ。」
部屋から出て下に降りれば玄関扉に手をかけているリナさんと目があったのでいつものように挨拶を交わす。本当の名前はリナリーだが私はリナさんと呼んでいる。
リナさんは私の住んでいるここの大家である。部屋は他にもあるけど入居者は私しかいない。そのためなのかリナさんは何かと私に世話を焼いてくれる。朝ごはんも私がいる間は私の分まで作ってくれるのだから感謝しかない。
「あれ?今日は出るのが早いの?」
身支度を済ませ玄関にいるので外に出ようとしているのがわかる。リナさんは昼間から夕方までは近くの食堂で働いているのだが今日はいつもより出るのが早い。
「あぁ。今日は復興作業をしてる奴らの分の飯も作らなきゃいけないからね。今日は帰るの遅いからあたしのことは気にせず彼と2人で過ごしな。」
「ちょ、ちょっとリナさん!彼はそんなんじゃ。そういう関係じゃないからね!」
「はいはい。」
私の否定の言葉がをリナさんは軽く流しイタズラが成功した子供のように笑いながらリナさんは家を出る。
「もう。…ご飯食べよう。」
リビングに向かう前に服装や髪型に変なところはないか改めて確認する。部屋でも確認はしたけどどうしても気になる。
いつもはそこまで気にしないけど今日は違う。
「お、おはよう。」
「おはよう。朝ごはん先に頂いてるよ。」
彼の存在だ。
昨日のことだ。
暴牛の被害は彼が宿泊に利用していた宿屋にも及んでおりしばらくの間そこで営業ができないそうだ。宿屋の店主は他の所で働けるのでそこは問題ないけどそこを利用していた冒険者達にとっては大問題だ。
冒険者で家を借りたり買ったりする人は結構少ない。長い間家を不在することが多いので帰って来たときに必ず掃除をしなければならないのでそれが面倒臭いと宿屋を利用する冒険者が多い。
アシバそのうちの1人で今までは被害にあった宿屋を利用していた。当然彼は他の宿屋に行こうとしたけどどこも満員で泊まれなかったそうだ。その話を聞いた私はリナさんに許可を貰い彼とも相談した結果、彼はここに住む事になった。
「今日は教会近くで作業を進めるけど、アシバはどうする?」
「僕もそっちに行くよ。集合場所はどこ?」
「教会の前だよ。場所はわかる?」
「大丈夫。ありがとう。」
向かい合いながら朝ごはんを食べ会話をする。何気ない事だが彼の事となると何しても緊張してしまう。昨日、彼にここに住まないかと提案したことだって自分でも思い切った行動をしたと思う。
「ごちそうさま。先に行くね。」
「わかった。また後でね。」
彼はそう言ってリビングから立ち去る。それを見届けた私は大きく息を吐く。
「あー緊張した。変なこと口走ってなかったよね。」
彼の事となるとどうしても心が乱れる。平常心が保てない。なのに気がつけば彼のことを考えてしまう。こんな気持ちになるのは初めてだ。
「私も行かなくちゃ。」
朝食を食べ終え片付けを済ませると外へと出る。
彼ともう一度会うのは教会前だ。それまでに気持ちをできるだけ落ち着かせよう。
せっかく彼との接点ができたのだ。無駄にしないように慎重に行動しよう。
◆◇◆◇◆◇◆
「町の復興がだいぶ進んで本当によかったね。」
「そうだね。」
「あ、今日の晩御飯はどうする?リナさん今日は帰りが遅いからどこか食べに行こっか。」
「うん。」
「じゃあこっちの道に行こう。この先におすすめの食堂があるんだ。」
「わかった。」
今日の分の作業が終わる頃には辺りは薄暗くなっていた。夜の暗さは苦手だけど今は彼と隣で歩いているからそんなことは気にならない。それどころじゃないからだ。
(あぁ、どうしよう。会話が続かない。)
先程から話は振っているがなかなか長続きがしない。
リナさんの言われた通り、というわけではないが彼と話をしたい。そしてあのアリの化け物から助けてくれたのが彼ならお礼を言いたい。
なのに、なかなか切り出せない。どんな風に話せば不自然ではないのかわからない。それにもし、もしも違っていたら彼は私のことをどう思うのだろ。それを考えてしまうと怖くて聞けない。
「ナナ?」
「な、何?!」
「入らないの?」
アシバが指差した方向には窓から明るい光が見える1つの建物。そこは私が最近見つけたお気に入りの食堂だ。考え事をしていた間に着いてしまっていた。
「入ろうよ。ナナのおすすめなんでしょここは。」
「うん、そうだね。入ろっか。」
結局今日も何も言えないまま1日が終わってしまう。明日こそはと昨日と同じことを考えながら店へと入る。