冒険者は討伐する。
暴牛は本来群れない生き物だ。
なぜなら縄張り争いで殺しあうことは日常茶飯事であり、自分が産んだ子供を殺す事があるくらい気性が激しいからだ。
その暴牛が統率のとれた群れとして真っ直ぐこの街にやって来るらしい。未曾有の危機をいかに乗り越えるかギルド内にて騎士団の人達と一緒に対策を考えている。
「暴牛がここに来るまでそう時間はない。」
「住民の避難にはとても間に合いそうにないな。」
「それまでに何とか足止めしなくては。」
「何とかって、何をすればいいんだよ!」
「オルトドールさんはいないのか?」
「それが、仕事で今は不在なんです。」
「くそ!間が悪いにもほどがあるぞ。」
先ほどからああでもない、こうでもないと話し合いをしているけど打開策は何も出てこない。このままだと何の作戦がないまま戦うことになりそうだ。
「ねぇ。」
「え?!」
後ろから声をかけられて変な声が出てしまった。後ろから声をかけられたことに驚いたわけじゃない。この声を聞いて驚いでしまったのだ。
「アシバさん!」
彼が纏う不思議な雰囲気からかあまり気にしていなかったけど、近くで見ればはっきりと分かる幼さ。自分よりも年下の彼にさん付けするのは少し変かもしれないけどついそう呼んでしまった。
「アシバでいいよ。君は、ナナだっけ?」
「は、はい。」
名前、覚えてくれていた!
彼に覚えてもらえてたんだ、私。
「結構大変なことが起きてるらしいけど、君はあそこに行かなくていいの?」
アシバが指をさした方にはギルドの奥で話し合っている職員や冒険者に騎士団の者達の姿がある。
「私が行ってもきっと何の意味もありません。だからここで待ってるんです。」
「そっか。」
きっとあの話し合いで得られるものは少ない。みんなそれは分かっている。それでも不安を少しでも紛らわせるために、何かできることをしている。そこに私が加わっても意味はない。
私がする事はこれから起きることに備えて体力を無駄に使わないことだ。暴牛とは何度か戦ったことがあるため経験はある。戦う覚悟もある。あとは絶対に油断をしないだけだ。
「…よし、やるぞ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ヴァァァァァ!!」
「がぁぁ!」
町の人達が避難所まで逃げるための時間稼ぎとして戦える冒険者や騎士の人達が町の門を破って侵入して来た暴牛の群れを討伐することになった。討伐に参加した人達のほとんどが仕事で暴牛の相手をした事があるため順調に倒していっている。それでも暴牛は手強い。先ほども暴牛にやられたのか人の悲鳴が聞こえた。
…何かが変だ。
この暴牛達はどこか様子がおかしい。目の焦点があっておらず致命傷を負っても暴れ続ける。まるで無理やり体を動かしているみたいだ。
「はぁぁ!」
「ヴァ!ヴァァァァァ!」
剣で首のあたりを切りつけると大量の血が吹き出す。それでも暴牛は足を止めない。最後の命を絞り出すように私に向かって突進して来るが、当たるわけにはいかないため右横に飛んで回避する。
凶悪な角をぶつける相手をなくしてしまった暴牛はそのまま建物に頭から突っ込む。そのせいで体のあちこちに建物の破片が突き刺さってしまう。それでも暴牛は体を動かそうとする。だけど足をやってしまったのかうまく立つことができず、倒れ込んでしまった。
このままトドメを刺すか、または別の暴牛を仕留めるべきかと考えを巡らせながら周囲の状況を確認すると、息を飲んでしまう。
3体。今にも私に襲いかかろうとしている暴牛の数だ。仲間をやられた怒りからなのかもしれない。あるいはたまたま目に付いたからかもしれない。理由ははっきりとわからないけど3体とも私を殺そうとしているのは分かる。
やがてそのうちの1体が私に向かって突進して来る。残りの2体も続いて向かって来る。
幸いなことに3体とも真正面から突撃して来たため何とか避けられた。私が避けたことで先ほどの暴牛のように住宅の壁にぶつかり穴を広げる暴牛達。どこの誰の家から知らないけど少し申し訳ない気持ちも無いわけではないが、命があれば何とかなると信じて次の暴牛退治へと気持ちを切り替える。
だけど家に突っ込んだ暴牛達の方から何か物音が聞こえる。そこへ視線を向けると暴牛の1体が体のあちこちに木材の破片が突き刺さって瀕死の状態にもかかわらず立ち上がり、今まさに私に飛びかかろうとしている。
「ヴァァァァァアアアアアア!」
雄叫びをあげながら死に物狂いで突進して来る暴牛。
だけどそれは思わぬ形で止まる事になる。
「ヴァッ。」
気がつけば暴牛の頭に剣が突き刺さる。
暴牛は自分が死んだと気がつかないまま前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。
「あっ、ナナだ。生きてたんだ。」
後ろからやって来たアシバは朝の時と変わらない様子で話しながら暴牛の頭に突き刺さっている剣を引き抜く。剣は彼が投げたものだったんだ。
暴牛の頭は他の生き物よりも硬い。その硬さは鉄よりも硬いと言われている。どんな力自慢の人でも暴牛の頭をかち割ったという話を聞いたことがない。
なのに彼はいとも簡単に暴牛の頭に剣を刺した。
圧倒的すぎる。
実力差に劣等感を抱くのが馬鹿馬鹿しくなるくらいにだ。
「…すごい。」
つい口に出してしまった。
それが聞こえてしまったのか彼は私の方を見る。何か変な事を言ってしまったのかと身構えていると、彼はまるでわからなかった問題が解けた子供のような調子で言う。
「そっか。これですごいと言われるんだ。」