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ユーシャハシナナイ  作者: 日暮蛍
少女のお話。
1/23

冒険者は出会う。

「これで10匹目かな。」


倒れた暴牛を見下ろし、辺りを見渡すとそこにはもう生きている暴牛の姿はいない。


「これで依頼は達成だね。」


今回受けた仕事の内容は「森に生息している暴牛を10匹討伐せよ」というものである。

暴牛は獲物を見つけると突進してきて巨大な2本の角で獲物を串刺しにする凶暴な牛だ。獰猛で肉食なため人を襲うこともある。

さらに数が多いため暴牛を討伐する依頼は定期的に入ってくる。

危険な仕事ではあるがその危険に見合った報酬がもらえる上、暴牛の肉や皮を買い取ってもらえるのだ。

1人で活動をしている私にとって大事な収入源である。


「えーと、ナイフナイフ。」


とはいえ10匹分ともなるとかなりの量となるため全部は持っていけない。そのため1人で持てるだけ持ち、あとはこのまま放置する事になる。

勿体無いが欲張って全部持って行こうとすれば動きが鈍くなってしまう。

いざという時動かなかったら元も子もないので1番高く買い取ってもらえる角を多めに暴牛の素材を剥ぎ取り、森を抜ける事にした。


「帰ったら何を食べようかなー。」


暴牛との戦闘で疲労感と空腹感を感じついそんな独り言をこぼしてしまう。

早く帰ってごはんを食べたい気持ちがあるが、油断はできない。帰り道に他の生き物や盗賊に襲われるかもしれないからだ。

最近『黄銅の爪』という名の盗賊団があちこちで暴れまわっている話をギルドで聞いたことがある。活動範囲は結構広いためもしかしたらここで鉢合わせてしまうかもしれないから気を緩めることはできない。


ふと、立ち止まってしまう。

後ろの方から嫌な気配と音が聞こえるのだ。

ゆっくりと何かが私の方に近づいている。

暴牛であればもっと荒々しい足音なのだがそれとは真逆で静かなものである。

だがどこか異質な感じがした。


何かが違う。


直感的にそう思った。

それが何なのか、警戒をしつつゆっくりと後ろに視線を向ける。


「っ!?」


それを見て悲鳴をあげそうになったが、なんとかこらえる。大声を出せばあれが襲いかかってくるかもしれないからだ。

じっとこちらを見つめてくるそれは子供の頃に見たアリの顔とそっくりだ。だけどその顔から下とは不釣り合いな鍛え上げられた黒肌の人間の体のせいで異質な生き物だと否応にも思い知らされる。

そして何より目立つのはその大きさだ。

距離が離れているにもかかわらずハッキリと見えるその姿はかなりの大きさではないのかと思った。もしかしたら私よりも身長があるのかもしれない。

敵意は感じないがその不気味さに一刻も早くこの場から立ち去らねばと思い、あれから目を離さないままゆっくりと後退する。


するとあれは少し姿勢を低くした。

なんだと思ったその時、あれは私の目の前にいた。


「えっ?」


気がついた時には後方へと吹っ飛ばされ、あれに攻撃されたと気がついた時には後ろにあった木に激突していた。


「ゲホッ!?」


地面に倒れた時、最初に感じたのはお腹が痛みだ。

痛い。痛い。痛い。

頭の中ではそれだけが占めていた。それでも何とか顔を上げ、あれの様子を見た。


そして、悟った。


あれが何を考えているのかわからない。そもそも言葉が通じるのかすらわからない。それでも、あれの目を見て敵意がないにもかかわらず私に攻撃してきたのかわかった。

あれは空腹を抱えた者の目だ。

あれは獲物を捕らえ、捕食するために攻撃してきたのだ。


食われる。


そう思った瞬間、恐怖が体中を支配した。

痛みに耐え足を動かそうとするがうまく動かせない。

そんな私を見てあれはゆっくりと近づいてくる。まるで今の私の姿を見て楽しむかのようにハサミのような歯をカチカチと鳴らしながらゆっくりと。


嫌だまだ死ねない!私はまだ、夢を叶えていないのに!


そう思っているのに痛みのせいで体が動かない。痛みと恐怖で声が出ない。

そうこうしているうちにこいつは怯える私を見て嘲笑うかのように歯をカチカチと鳴らしながら私の方へと手を伸ばしてくる。


だけど私の体に触れる前に、怪物は燃えてしまった。


突然あれの全身が燃え上がったのだ。

あれはのけぞり、悶え苦しんだがすぐに灰となってしまう。


「...えっ?」


訳がわからなかった。

突然訳の分からない怪物に食われかけたかと思えば、その怪物が突然燃え上がったのだ。

奇怪なことばかりで頭が混乱してしまう。


「助かった、の?」

「助かったと思うよ。」


後ろから声がかかり、ゆっくりと振り返る。

見えたものは、綺麗な赤髪だった。

まるで炎のような美しい赤髪に私は身体中の痛みが気にならないほど見惚れていた。


でも気持ちとは裏腹に私の体は限界だったらしく、だんだんと視界が暗くなっていく。

まって。まだ気を失いたくない。この人にお礼の1つも言えないままなんて、嫌だ。

なんとか堪えようとしたけれど、それは無駄な足掻きで私の意識はそこで途切れてしまった。


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