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第94話 変な男だ


 歓楽街と中央の境目にやってきた俺たち。既に陽は沈み、夕方に差し掛かっていた。そのためか、あの古びた店には少なからず何人か客が来ていた。荒々しい者から老紳士と同じような若い紳士まで客層は様々だ。きっと店主の老紳士が分け隔てなく接せれる人なのだろう。しばらく店内の空いている四人席に座って待つことにした。なぜか、向かい側に座らず、俺の横に座るアニス。俺の身体にべったりとくっついていた。


 「いらっしゃいませ、おや、夜もこの店を選んでくださるとは感謝の極みでございます」


 しばらくして、老紳士がやってきた。頭をゆっくりと下げた。やはり良い人そうだ。ペロパリの事を知っていても悪事を知っている可能性は低そうだ。一瞬、グルなのかもしれないと思ったが俺の杞憂に過ぎなかったかな。


 「紳士、僕らは食事もしたいが、聞きたいことがあるんだ、時間良いかい?」


 「そうですね、今はお客様も何名か来ておりますので……」


 「分かった、すまない、無理を言って」


 年寄りには敬意を払うアニスも珍しい。きちんと会釈程度が頭を下げて詫びた。老紳士はアニスを見て優しそうに微笑んだ。


 「いえいえ、そうですね、店を閉めた後でも良いなら、お役に立てるかもしれません。わたくし、お恥ずかしながら、歳が歳でして、長い時間の営業は身体に堪えるのです。真夜中に差し掛かる前には店じまいをしますので」


 「そうか、なら食事をして待たせてもらおう」


 「はい、ありがとうございます」


 「メニューをもらおうか」


 「こちらでございます」


 老紳士は昼とは違うメニューをテーブルの上に置いた。メニューの中身は正にディナーに相応しい料理の数々だった。


 「アニス、決まったか?」


 「ああ、僕はこのステーキをいただこうか」


 「食えるのか? お前、少食だろ?」


 「誰かのおかげでエネルギーを燃焼させられてしまったからな」


 確かに。俺もいつもより空腹なところはある。


 「俺もステーキでお願いします」


 「畏まりました」


 俺たちの注文を聞いた老紳士はそのまま店奥に引っ込んでいった。俺とアニスはしばらく会話を楽しんだ。さすがにペロパリがどうのという話題は誰が聞いているかわからないため、自然と避けており、いつものように他愛もない会話を繰り広げた。


 「こんにちわ」


 そこへ、黒いクロスハットを被り、同じく黒いコートを着た若い男性が俺とアニスの席の反対側に座る。凛々しい顔立ちだ。だが、俺はこの人を知らない。アニスの方を向いても首を振った。


 「あの……」


 「ああ、すいません、ですが、名乗るほどの者でもありま――――」


 「名乗らないやつと会話をする趣味はない、消えろ」


 辛辣な言葉を浴びせるアニス。だが、素性の知れない人と食事を共にする趣味は俺にもなかった。男はアニスの言葉を聞いてきょとんしていた。


 「すいません、でも、名乗らないのは怪しませるだけですよ」


 「確かに、いや、これ正に真実。申し訳ない、私、あまり人との会話になれていなくて。こう見えて辺境の地で地主をやっていまして、パラマイア・ジュカインと申します。お気軽にパラマイアと呼んでください」


 「僕はアニスだ、こっちは僕のアービス」


 「ど、ども」


 だからその紹介はなんとかしてくれ。僕のと言われても相手は意味不明になるだけか、付き合っていると勘違いするだけだぞ。


 「おや、お二人のお熱い仲に水を差してしまいましたな、申し訳ない、はっはっはっ!」


 「申し訳ないと思うならさっさと消えたまえ」


 「名乗っても消えろなのか……」


 「いえいえ、アービスくん? 気にしてなくて良いですよ? 私、こうして会話をさせていただけるだけで嬉しいです」


 「はぁ、えっと王国に何をしに?」


 「旅行ですかね……? たまには領地を離れ、旅をしたいなと。ああ、管理なら私の秘書がしていますのでご安心を」


 「誰もそんなことを心配していない、で? 案内でもしてほしいのか?」


 「ああ、いえいえ、大丈夫ですよ、ただ、若い人の話を聞きたくて。そういえば、王国の隣の国のブリッジ商会ってご存知?」


 俺は商人のチェーンさんを思い浮かべ、頷こうか、悩んだ。素直に教えてしまっていいのだ――。


 「ああ、そこのワガママ娘と知り合いだ」


 悩みを解決してくれたアニスに感謝と不安を俺は寄せた。そう簡単に教えて良かったのか? まぁ、アニスより先に言わなかった俺が悪いか。


 「おや、お知り合いですか! ではご存知かもしれませんね、最近、隣の国の大商豪が潰れて、ブリッジ商会が幅を利かせてい事を」


 「知っている」


 潰したのは俺たちのようなもんだしな。チェーンさんはウハウハライフを送っているようでなによりだ。


 「さすが。私、話しかける相手を選ぶセンスというものがあったようですね」


 「確かに君はセンスがある、僕とアービスを選んだのだから」


 「お褒めの言葉ありがたく頂戴します。では、軍拡を進めている話は?」


 「軍拡?」


 「おや、ご存知なかったようですね、ブリッジ商会は今、兵器開発に夢中ですよ」


 兵器開発? なぜだ? 隣国を狙う国など無いはずだ。魔王対策? だが、魔王は勇者しか倒せない。なぜだ?


 「気にするな、アービス、所詮、あの女狐商人の事だ、遊んでいるだけだろ」


 「そうなのかな……」


 「ではそろそろ……」


 パラマイアはそれを伝えるためだけに来たと言わんばかりに立ち上がった。そして、俺とアニスの方を見てニッコリ笑う。


 「ありがとうございました、楽しかったです、そういえば、魔王がそろそろ再臨するって……ご存知?」


 「するする詐欺を食らっている気分だよ」


 「確かに。困ったものですよね」


 パラマイアは不思議な男性だった。そんな彼は店を後にした。俺は彼が気になり、出て行くまで視線で追ってしまった。決して恋では無いぞ。

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