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第93話 死ぬときは一緒だ


 どうする。どうすればいい。このままじゃアニスと焼死してしまう。ペロパリの家の二階奥で俺たちは身を寄せ合って火の手をどうかいくぐるかを考えていた。

 まず、これだけの火災なのに誰も助けに来る気配がない。何かの結界魔法なのか?


 「もう……諦めるしかないな」


 不意にそう呟くアニス。俺はアニスの顔を見て思わず目を細めてしまう。分かっているのだ。俺も。諦める以外にないのではないかと。


 「そんなこと言うなよ、アニス」


 「いや、僕は君と一緒に死ねるなら本望だよ」


 そうだな。確かにそんな死に方も悪くないのかもしれない。アニスと死ぬか。まだ魔王も拝んでいないのにここで敗退とは。死んだらまたあの胡散臭い男と会うのだろうか。そしたらアメーバか。だが、ここで焼き殺されるのを待つくらいなら。


 「死ぬか……分かった、じゃあほら」


 俺はアニスに右手を差し出した。アニスは恐る恐る俺の右手を握った。覚悟を決めるしかない。


 「一緒に死のう、アニス」


 「なんだと? 本気か?」


 「ああ、やっぱり嫌か?」


 「嫌じゃないが……分かった」


 アニスも決心を付けてくれたようで俺とアニスは覚悟を決めて、走り出した。


 「ぐうぅ! うぅ!!」


 俺とアニスに火が襲い掛かる。身体が熱い。皮膚がヒリヒリするし、とてもじゃないが我慢できない程の痛みが襲って来た。だが、俺は諦めずにアニスをひっぱって火だるまになりながらも階段を降りた。


 「アアアアアアアアアア!!」


 まるで獣のような声を出して走る俺。引っ張られているアニスは悲鳴さえ上げなかったが時節、苦しそうな声を出していた。これで終わりなんだな。でも最後にこいつと死ねて良かったのかもしれない。俺はそんな事を考えながら、火だるまになった身体を押して、玄関から外に転がって出た。

 

 身体はもう動かない。冷たい土の上に仰向けに転がった俺は空を見上げ、自身の皮膚の感覚が無くなったような。まるで身体がふわふわと浮いているような感覚に襲われ始めるが、目に映る空に被せてアニスの顔が広がって、目を見開いた。アニスは火傷など負っていなかった。


 「アービス、アービス」


 俺の名前を連呼しながら頬を引っ張るアニス。火傷した皮膚なら感覚が無いか、激痛が走るんだろうが、俺の感覚としてはアニスの柔らかくてひんやりしている気持ちいい手の感触が広がった。


 「これはどういう……」


 「幻覚だった。多分、家の中でのみ作用する物だ、きっと範囲が狭い関係で脳に及ぼす幻覚の影響で大きかったせいで痛みなども感じたんだろう」


 アニスの説明を聞いた俺はすぐさま上半身を上げ、ペロパリの家の見た。そこは来た時と同じ、植物が多くある家だった。

 火傷を負っていた手や身体全体を見渡しても火傷さえ無くなっているどころか、服さえ、無事だ。随分、手の込んだ幻術だな。さすがは最上級魔術士、人間性が良く無くても魔術の腕は超一品ってわけか。


 「ちっくしょう、変な足止めしやがって、見つけたら何発か殴り飛ばしてやる」


 「そうだな、でも……」


 そこで言い切ったアニスは上半身だけを起こしている状態の俺に抱き着いた。全体重を掛けてくるその小さな体が俺の身体を強く締め付ける。苦しくはなかった。ただ良い匂いと身体全体の暖かい雰囲気に飲まれ、気分が良くなっていった。

 

 「君が僕との死を選んでくれたのは嬉しかったよ」


 耳元でゆっくりと本当に嬉しそうに言うアニス。ああ、そうだな。あの時は本当に死んでも良かったとも思った。そりゃ、死にたくないが、アニスと一緒に死ぬなら。まぁ、悪くない。


 「お前を残して死んだら大変だろ?」


 「そうだね、全てを破壊して君の死体を抱いて自殺するよ」


 「そんな悲惨な状況は見たくなさすぎる」


 「ふふっ、死んでるから見れないさ……でも、想像もしたくないなら頑張って僕が生きている間は生きてくれ、アービス」


 「ああ、分かった、俺はお前ほどじゃないが、悲しくて死にそうになりそうだからお前も死ぬなよ」


 「あ、ああ、そうか、悲しいか」


 そんな変な約束を交わした俺と嬉しそうなアニス。だが、こんな事を言ったにもかかわらず、俺はこの無敵の勇者様が死ぬのを想像できないからきっと長生きしなければならないのだろう。

 だが、今は長生きをした場合の想像をしている場合じゃない。俺は一度アニスを引きはがし、アニスの目を見た。


 「ペロパリの野郎、ぶっ倒すか」


 「賛成だ、彼を八つ裂きにしたい気分だよ」


 「アニスの物騒な発言にここまで同意できたのは久しぶりな気がするよ」


 「もっと同意しろ、僕の考えを理解してくれ、アービス」


 全部は無理そうだが、俺は黙って頷いた。


 「良い子だ、アービス、さて、行くか、まずはあの老紳士の居る店だ」


 「本人は良いのか?」


 「ここまでの事をしたんだ、きっと隠れて行動しているはずだ、探してホイホイ見つかるものでもないだろ」


 「確かにそうだな、じゃあ、行くか」


 「ああ」


 アニスの手を引いて歩く俺にアニスは歩調を合わせ、俺とアニスはクソったれのペロパリを懲らしめるための前準備に赴くことにした。

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