第87話 太陽になったり花壇になったり、私、困ります~!
その日、二人目の客が来た。今度は先ほど、話題に出ていたアモンさんだった。アモンさんが門前を叩けば、俺を膝枕していたアニスが少し苛立ったように、玄関で。
「勇者は死んだ!!」
と怒鳴りつけた。そのネタ、好きだなお前。
だが困ったことにこれを本気にしたアモンさんが泣き出しながら、本の言葉を引用してアニスの死を慈しみ出した辺りでアニスがやめろバカ! と扉を開け放ったとことにより、アモンさんと面会することになった。
さきほどシャーロットさんが座っていた場所に座ったアモンさんは先ほどシャーロットさんが言っていた格好だった。白く清楚なワンピースに、普段隠れている茶色の三つ編みが似合う髪型をしている眼鏡を掛けた巨乳のお姉さん。テンプレ清楚女子みたいだ。
「今日は来客が多いな、ここをアービスと僕の愛の巣だと知らんのか?」
「多分、誰も知らないと思うぞ」
「アービスが知っていればそれで良い」
「俺も今、初耳だったけど、分かった」
「うふふ~! 二人ともやっぱり仲が良いですね~!」
「ああ、当たり前だろ、アモン、僕は正直な事を言う人は女でも好きだぞ」
そう。アニスはアモンさんの事は嫌っていない。比較対象がシャーロットさんだからかもしれないが。
「私、勇者様に嫌われたら悲しいです~!」
「だから僕はお前の事を嫌ってなどいない」
「ありがとうございます~!」
「ただ、その胸をアービスに一度でも露出したら殺すがな」
ニコニコと物騒な事を言うんじゃない。結局好きなのか、嫌いなのか。
「胸? ああ、大丈夫ですよ~! 私、アニスちゃんみたいに小さくないからアービスくんの好みじゃないですよ~!」
なぜ勝手に貧乳好きにされているのか分からない。
「そ、そうか、アービスの好みなら僕は子の胸で良かった」
案外、怒り狂いそうだったがなぜか頬を赤らめている。アモンさんに悪意は無いが完全にアニスをバカにしている発言な気もしたがアニスも喜んでいるから俺の気にしすぎだろう。
「で、今日は何しに来たんだ? アモン? 仕事は休みか?」
「はい~! 明日、図書館の方で子ども向けに読み聞かせがありまして~! 私が練習していたら~! 館長さんがそんなに気張らなくても君なら大丈夫! 明日に向けて今日は休んでくれ! って! 優しいですよね~!」
仕事そっちのけで練習していたのか? 館長の悲痛な表情が目に浮かぶようだ。見た事ないけど。
「あ、そういえば、この前はお手伝――」
「手が滑った!!」
俺は慌ててテーブルを足でけり上げる。テーブルはアモンさんの頭上を飛び越え、壁に叩きつけられた。
「ひぃぃいい~~~!!」
悲鳴を上げるアモンさん。ごめんなさい。アモンさん。でもそれをバラされたらアニスにあの日、ナチとクロエ、二人と遊んでいたことがバレる。あの件はナチと会って送りに行って親と久々に話していたら時間が経ってしまったとしているんだ。親に確認を取られればそれまでだが、アニスはそこまでの事はしない。
「アービス!」
不意に俺の声を叫ぶアニス。ま、まさか、追及されるのか?
「それは手ではなく足だ」
良かった。クソどうでも良いことを真顔で指摘しただけだった。
「ほんとだ、これ足だわ」
なんて平常心で答えてはいるが内心バクバクだ。
「まぁ、許してくれ、アモン、アービスはたまに変になるが疲れているだけなんだ、後で僕が添い寝して疲れを取るから安心してくれ」
まさかの今日、泊まりになってしまったがバレるよりは良いか。
「わ、分かりました~! アービスくんはお大事に~!」
なんかすごい哀れんだ目で見られてるんだけど。だが、アモンさんの頭からあの話題は消えたようだ。
「それで? どうしたんだ? 今日は?」
「実はですね~? 私、最近、男の人によく話しかけられるんですよ~」
「ほう、それで?」
シャーロットさんの時はあんなに食いつきが悪かったのにアモンさんの時は打って変わって状態だな。アモンさんの先ほどの発言で機嫌が良くなったらしい。
「昨日、お出かけ? したんですけどね~! なぜかこんなの渡されたんですけど本を読んでも良く分からないんですよ~?」
おでかけ? ああ、シャーロットさんが見たのはそのことか。
そう言ってアモンさんが俺とアニスに差し出したのは紙を丸めた物だった。魔法を封じ込めたスクロールのような物にも見えるが……。
「開けてみましたか?」
「はい~! でもなんて書いてあるかさっぱりで~!」
「開けても良いですか?」
「どうぞ~!」
俺は丁寧に紙を広げ、そこに書かれている文章にアニスと共に目を滑らせる。
――――
僕は君を太陽のように思っています。心に植えられた種があなたという太陽で芽吹きました。刈り取りは今しかありません。どうかあなたという花壇で私を生けてください。子どもたちが賛美し、あなたを尊敬のまなざしで見る日にあなたを手に入れる魔法を掛けに行きます。
――――
この恋文の感想としては太陽になったり花壇になったり、大変だな、アモンさん。これ、あれ? 前にあったジャックが書いたの? いや、中二っぽくないか。
でも、この文体どこかで見たことあるな。最近、図書館で見かけた気がする。
「太陽になったり花壇になったり、忙しいなアモン」
「そうなんですよ~! だから分からなくて~! 私はどっちになれば良いんですか~!? 後、私、子どもたちに尊敬される事ないから何が何だか分からないんですよ~! 後、花は刈り取るものではないかと~!」
なるほど。アモンさんほどになると考えすぎて分からないのか。尊敬される日、アモンさんがメインで子どもが居る日。読み聞かせの日か。
「多分、読み聞かせの日かと」
「え~! そうなんですか~!? 私、尊敬のまなざしより子どもたちの笑った顔が見たいんですけど~」
「これを書いた人にとってはって話ですから」
「なるほど~!」
「で、どうするんだい? これを書いたやつを炎で燃やして花壇に撒けば良いのかい?」
「え? そういうことなの? そうしてくれって嘆願書なの?」
「い、いえ~! ただ、扱いに困ってしまって~!」
「ちなみに一緒に出かけたんですよね? これ誰なんです?」
「ペロパリさんです~!」
あ、なるほど。分かった。だが、俺は驚いた。この人、文学的な詩は上手いくせに、恋文書くのへたくそか!?




