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第8話 俺はどうすれば良い?


 ざわざわとしだす会場。そして、国民から口々に発せられるあいつ誰? のラブコール。それでも目の前のアニスはニコニコと俺が壇上に上がるのを待っている。

 周りの同級生たちはすごく驚いている者やすでにコネなのでは? と疑っている者も居た。間違ってはいない。そしてナチだが、驚きすぎだ。なんか口開けたまま表情固まっちゃってる。だが、今はナチを心配している余裕はない。


 「早く来なよ!」


 「あー、はい」


 アニスに呼ばれ、もうどうにでもなれと国民を掻き分け、壇上に上がっていく。

 もちろん、壇上に上がったところで拍手など無かった――――いや、された。してくれたのはエア・バーニングさんとナチだ。ナチは表情を回復させるのに成功させ、俺を見て必死に拍手している。そんな目を力強く(つむ)って拍手してもナチの小さい手じゃそれが精一杯だぞ、無理するな。

 そして、壇上のエア・バーニングさんはとても良い笑顔で拍手をしながらを迎えてくれた。なんて出来た人なのだろうか。

 二人に釣られてアモンさんも拍手をしだす。するとまばらにだが、どんどん拍手が沸き起こり、拍手の音がとてつもなく大きいものとなる。エア・バーニングさんのおかげだ。彼がすればしない国民は居ないだろう。ただ、シャーロットさんはしぶしぶ拍手はしているが、俺を懐疑的な目でこちらを見ており、歓迎ムードではない。


 「さぁ! どうだい! アービス! みんなが君と僕を祝福してくれているよ!」


 「結婚式じゃないんだからさ……」


 最初にしてくれたナチとエア・バーニングさんの拍手だけは純粋に俺のためにしてくれたと思いたい。


 「け、結婚!? そ、それは僕たちには早いよ。本当にアービスはせっかちさんだなぁ……」


 「はい?」


 結婚が早いとか遅い以前になぜ、俺が結婚をしたがっているような反応を取るのか。勘弁しろ。この発言だって国中に聞こえてるかもしれないんだぞ。まぁ、拡声の魔法陣にはまだ触れてもいないから大丈夫か。


 「おい、お前! さっさとしろよ!」


 「す、すいません!!」


 俺がいつまでもアニスと喋っているを咎めたのはシャーロットさんだった。とてつもなくイライラしている気がする。怖い。怖いぞ。だが、当然だ。自分と同ランクの魔術士や戦士ではなく、こんな上級止まりの魔術士が仲間だと言われて、素直に受け入れてくれるのはエア・バーニングさん並みの寛容力が無いと無理だ。アモンさんは……何も考えてないな。ニコニコ微笑んでいるだけだ。

 とにかく行かないと。と思い、歩を進めようとしたら、不意にアニスが俺の前に背を向けシャーロットさんを睨む。


 「気軽にアービスに話しかけないでくれ、シャロちゃん」


 「シャロちゃん言うな!! あのな、俺はそいつを仲間にするのも認めたくないのにこれ以上、俺の時間を使うんじゃねえ! お前みたいな半端者なら羊飼いの方がマシなんだからな!」


 「じゃあ~羊飼いをパーティーに入れ――――」


 「るわけねえだろ!!」


 「す、すいません、シャロちゃん」


 「おいてめえ! 調子に乗ってシャロちゃんとか呼んでんじゃねえ!! 殺すぞ!!」


 おっと、つい、呼んでしまったが、可愛い愛称だと思います。そんなことより、は、早く、表明をしないとだな……。

 俺は魔法陣の中に入り、全王国民を前に緊張していた。


 「あ、ああの、え、えっと……」


 む、無理だ。俺の口が上手く動かない。警察学校を卒業した際にする倍以上の観客が居る前で、しかも、選ばれると思ってなかったから何も言う事を決めてない。こんな状態で話せなんて無理だ。いっそのこと辞退しますと言って、逃げるか。


 「辞退しますとかふざけちゃだめだよ……」


 「ひっ!?」


 両耳にまるで地の底から(まと)わりつくような声が聞こえ、恐る恐る背後を見ると、凄まじいプレッシャーを与えてくる存在がニコニコとこちらを見ていたが、目が笑っていない。無言の威圧だ。


 「あ、あの……が、頑張ります」


 「え?い、以上ですか?」


 司会のお姉さん。察してください。以上です。これ以上、喋ればピエロ以下になる。それに国民たちの目が痛い。

 しかもこの中には二十数名の選ばれなかった最上級の人物たちも居る。彼らは自分たちを差し置いて俺が選ばれたのをどう思っているのだろうか。それを考えるだけで恐怖だ。


 「え、えっとですね、ではこれで五十年以来の勇者パーティー結成です!」


 司会のお姉さんが盛り上げようとしても、微妙な空気は変わらず、会は中途半端に終了した。俺を含む新生勇者パーティーは、舞台裏に帰っていく。最後のエア・バーニングさんが五分間もお辞儀をしたのにはびっくりしたが、なんとか勢いで乗り切った。


 ――――


 舞台裏から見る王城は坂の上だが、すごく近く感じた。裏では万が一のための野外救急室や、拡声魔法を出したりなどのサポートをするために呼ばれていた魔術士たちが居た。彼らは終わった終わったと言いながら撤去作業をしている。そして、勇者パーティーの面々は思い思いに違う場所を見る。解散ということだろう。

 あのまま表舞台で解散していたら大騒ぎになるからそれの配慮で勇者パーティーはひっそりと解散するらしい。


 「では、みんな! 私はこれから街を巡回しに行ってくるから失礼させてもらうよ! これから共に頑張ろう!! 今度、みんなで自己紹介も兼ねたパーティーでもやろうじゃないか!」


 爽やかにそう言って空に打ち上がったのはエア・バーニングさんだ。右手の風魔法で空気を操りながら王国の上空を一定時間、見回るのを二時間置きにやっている。だから街の人に覚えが良いのだ。


 「俺も帰る。おい、勇者、お前が俺にどう思おうが勝手だが、こんな上級止まりを入れた事を絶対後悔するなよ」


 「最後までうるさいやつだな。さっさと行くが良い、シャロちゃん」


 「本当に!! シャロちゃんって呼ぶな!! クソっ! そこのお前!」


 「は、はい?」


 「抜けるならさっさと抜けろよ」


 唐突にシャーロットさんは真顔でそう言った。俺は、心が痛くなった。入りたくなかった俺が言うとあれだが、お前は要らないと言われた感じして、心が痛む。だが、シャーロットさんにとってはこんな中途半端なやつ抜けてほしいのは当たり前の事だ。分かってる。というか俺も本当は抜けたいはずなんだ。

 勇者パーティーに入りたかったわけじゃない。俺は勇者になって人を救いたかったのだ。でも、もう俺は……。


 「余計な事言うお前が抜けてくれ……」


 「あ? なんか言ったか!」


 「……」


 「ちっ、また無視かよ、もういい、じゃあな」


 アニスが何か言ったらしいが俺も呆然としていて、聞いてなかった。

 だが、シャーロットさんはもうどうでもよくなったのか、さっさと会場から離れていく。あの後ろ姿を見て気軽に声をかけれる人などいるのだろうか。


 「待って〜!シャロちゃん〜!」


 居た。しかも意外な事にアモンさんだ。子どものようにフラフラと走りながら、シャーロットさんを追いかける。そして意外が重なる。シャーロットはなんと、仕方ないなという風にアモンさんをその場で待ち、合流するとまた歩き出したのだ。もしかすると仲が良いのだろうか。


 「アービス、やっと二人きりだね……」


 そして最後の最後にそう言って俺の右腕に腕を絡めて、身体全体をくっつけてきたアニスに俺は心労が絶えないと思った。


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