第7話 おいで、僕の……
壇上ではエア・バーニングさん、シャーロットさん、アニスの三人が登壇しており、異様な盛り上がりを見せていたが、シャーロットさんにアニスが謎の怒りを爆発させたため、会場は静まり返ってしまう。
「え、えっと、気を取り直して! 後二人ですね! 次はこの方!」
強引だが、司会の女性にぐっじょぶとしか言いようがない。あのままだとお通夜みたいになってたぞ。だが、次は誰だろう。これ以上、アニスの神経を逆なでするような人じゃなきゃいいが……。
「次は皆さまが通っている大図書館の若き司書! 知識に優れ、動く図書館まで言われた彼女は全ての属性の魔法にも通ずる魔法のスペシャリスト!! では来てください!! アモン・ユーロジー!!」
アモンさんか。確かよく本を借りに来た人にその本がどれだけ良いかを十分間語り続けて、やっと貸さなきゃいけないことに気づいて、謝りながら貸し出しを行う人だ。確かに知識はあるし、そういう人が勇者パーティーに入るのは納得できるがおっちょこちょいな人だが、そんな人を世界に放出して良いのだろうか。
「あ~! お待たせしました!!」
そうふわふわとした物言いで壇上に上がってきたのはアモンさんだ。眼鏡を掛けた大人しそうなお姉さんという印象が強い。茶髪のロングだが、くせっけなのか、所々髪が跳ねている。右手には杖を持っているがああいうタイプの相変わらず、ふわふわとしてる。だが、ふわふわしているのは性格だけではない。服もだ。羊の毛で作ったもこもことした服を着ており、かなり目立つ。シャーロットさんとは真逆で悪目立ちだ。
「きゃ~!?」
情けない悲鳴が聞こえ、俺は目が半開きになる。アモンさんはなぜか何もない壇上で転んだのだった。
この人はアニスの上の上を行くくらい危なっかしい人だ。見ていた国民たちからも大丈夫かな? とか 痛そうなど同情の声が上がりだす。ある意味、先ほどのざわざわよりはマシだが逆に何かしでかしそうで怖い。
だが、俺の思いも杞憂で、アモンさんはすぐに立ち上がるとアニスの真正面に立った。
「わぁー、よろしくお願いします~」
「うむ、よろしく頼む、アモン」
「はい~」
「おいおい! 俺とは仲良くしないのにアモンとは仲良くするのかよ!」
「……」
「無視すんな!!!」
「僕はお前が嫌いだから無視するのは当たり前だろ」
「んだとっ!?」
「まぁまぁ~喧嘩は止めましょう~」
「うむ、我らが喧嘩していては最後の一人も出にくいだろう、ここは一つ、みんなで握手をして円陣を組んで一思いに叫ぼうではないかぁぁ!!」
「もう叫んでるじゃねえか!!」
大丈夫か、あのパーティー。がんばれ、アニス。俺はそんなレベルの高いところには入れんよ。
最後の一人は強運の持ち主であるガリレスか、双剣使いのマーシャルか。多分そこらへんだろう。
「え、えっと次の方を紹介しても……」
「ああ、頼む」
「まだ話は終わってないぞ!」
「あのさ、国民の前なんだから、少しは自嘲しなよシャロちゃん」
「シャロちゃんって言うなー!!」
シャーロットさんは愛称で呼ばれるの嫌なんだな。ていうか全然進まないぞ。
結局、司会の人困ってるし。勇者になったらワガママが無くなると思ったけどアニスはアニスのままだな。
「あ、えっと、で、では次のパーティー参加者を呼びますね!!」
あ、ごり押した。でもさすが司会! そういうごり押す所はごり押すのは好印象だよ!
「どうせ、このメンバーなら運要素を持ってるガリレスか、戦力アップでマーシャルだろ、最近あいつら外部のクエストとかで活躍してるし」
あ、俺とおんなじ事思ってた。シャーロットさんとは気が合いそうだな。絡むことはないだろうけど。
「いえ、私は羊飼いのオラクさんだと思います~」
「それ、あんたが羊好きなだけだろ、言っておくけどオラク、あんたの事嫌いだと思うぞ」
「え~、なんでですか~」
「あんた自分の格好見てみろ……それ、オラクの所から勝手に剥いで作ったやつだろ、オラク、その事で怒ってたぞ」
「これは借りただけですよ~」
「返す事が出来ない物を借りたってなんだよ……」
「え~! お、怒ってますか~!? オラクさん!!」
「大丈夫じゃよー!!!」
いや、居るんかい、ていうか即答すぎるだろ。まぁ、国民全員居るわけだから居ない方がおかしいか……。
「あ、大丈夫だそうですよ~」
「良かったな、でも絶対入れないぞ、何歳だと思ってんだ、あの爺さん」
「三十三歳?」
「お前の目は節どうなってんだよ……」
「わしは三十三歳の気分でもいけるぞー!!」
「無理だから! そんな気分だけで冒険したら過労死するぞ!! しょうもない見栄張ってんじゃねえ!! クソジジイ!!」
なにこれ? 何見せられてんの? コント? あれか? あの俺の列よりとてつもない後ろに居る王国民の中に混じってる羊の大群の上に居るのがオラクさんか? 教員の話でしか聞いたことなかったけど本当に仙人みたいだ。顔中にある白髭でほとんど顔見えないぞ。あれを三十三と言うアモンさんもどうかと思うが……。
それより、司会の女の人可哀想だから! さっさと紹介させてあげて!
「え、えっと……じゃあ紹介します! 最後は……え? 誰ですかこれ?」
あ、嫌な予感するぞ、すごい嫌な予感してきた。もうびんびんだね。だってほら、あんなに嬉しそうなアニスの顔、俺に甘える時くらいじゃないと早々しないぞ?
「あ? 知らないやつが最後なのか?」
「怖い人だったらどうしましょう~」
「その時は改心するまで私が話をしてみよう! 大丈夫! 私は誰も見捨てない! 改心するまで親の様に接してみせる!!」
「さすがです~! エア・バーニングさん~」
そのままコントを続けてほしくなってきた……。
「で、では呼びますね? えっと上級魔法を使い、勇者様の友人である……魔術学校三年のアービスです……?」
はい、終わった、完全に終わった。他の人たちには無反応だったくせに俺の時になった瞬間、ほら、スキップしてこっち来たもん。
「ほら、おいで、アービス! さあ!」
壇上の上で手を伸ばすアニス。なんて可愛い笑顔なんだ。だが、俺の心はもうボロボロだぞアニス。