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第76話 なんでも言うこと聞いてもらえたんだね


 「やぁ、クライシス、アービスを知らないか? 君の見舞いに行くと言って出て行ったのだが探しても見当たらない」


 私はヤグ君を連れ、逃げるように飛び回り、夜の繁華街の入り口で着地すると、そこにはノースリーブの白いひらひらの付いたワンピースを着た勇者様が街頭に照らされ、立っていた。勇者様が一人で居るのは珍しいが帰ったアービス君とはまだ合流できていないのか。

 私は私の腹部辺りにしか背が無い勇者様を見下ろして会話を始めた。失礼だが仕方がない。


 「アービスくんなら私とガリレスと遊び場に行って先に帰ったと聞いているよ」


 「遊び場……? どんな遊びだい?」


 「基本ボードゲームですね」


 「賭場か?」


 「いえ、違いますよ、お金は掛けません」


 「そうか、なら健全だな、君たちが賭場や、そ、そのあれな場所に連れていっていたらどうしようかと思って……」


 「ははは、私がアービス君を連れてそんな場所に行くわけないでしょう? ただ、店の女の子と話して遊ぶだけですよ」


「え?」


 なぜか私の説明を聞いて、声を先に出したのはヤグ君だった。

 え?なぜ、ヤグ君が驚いているのだ?


 「へー? 女の子と遊ぶ?」


 だがそれよりも深刻なのは勇者様だった。私のその言葉を聞いてから勇者様は足の裏で地面をなぶるように動かし始める。どうかしたのだろうか。まさか、漏れそうなのだろうか……。


 「勇者様、大丈夫かい?」


 「ああ、大丈夫、で? 遊ぶだけ?」


 「そ、そうですよ、店の女の子と遊ぶだけ」


 「なにをするの?」


 「うーん、私はボードゲームしかしたことないな、あ、一応、金銭は掛けないけど、一回言う事を聞くなんて掛けはしてるね」




 「なんでも言う事を……? へえ、アービスは何をお願いしたの? 楽しそうだった? 気持ちよさそうだった? ねえ、ねえ、教えてよ?」


 私に詰め寄る勇者様。私は顔を逸らしまではしなかったものの、少しどもりながら答えた。


 「さ、さぁ? みんなバラバラになるから何をしていたのかなんて――――」


 「今すぐ僕を連れていくんだ、その店の女どもに人の物を弄んだらどうなるか、その身体に思い知らせてやる、そうしたらアービスには僕のお仕置きをしてあげなくちゃ……」


 血気盛んにそう呟いた勇者様。こんな威圧にいつも耐えているのかい、アービス君。私はヤグ君の拳を受けた時よりも疲労がすさまじいよ。


 「ほら、行くぞ、クライシス」


 「お、おい! 勝手なこと言うな、貧乳チビ勇――ぐぼぉ!?」


 「あ、ヤグ君!」


 ヤグ君は勇者様に暴言を吐きかけた途端に勇者様に殴り飛ばされ、石畳みの通路を転がっていく。通行人たちは慌ててその場から退避していってしまった。


 「おい、そこの失礼なガキはコボルトか何かなんだろ? 殺して良いかい?」


 「ゆ、勇者様! 連れていきますのでお気を鎮めてください!」


 「最初からそうしてれば良いんだ、クライシス」


 勇者様はそれで良いと言わんばかりに鼻で笑った。怒らせると怖い方だ。根は良い人なんだろうが。


 「ヤグ君、大丈夫?」


 「悪魔だ……」

 

 「いや、勇者様だよ」


 私は鼻血を垂らしながら勇者様を怯えた目で見るヤグ君を抱きかかえ、再度、あの店へ向かった。違うのは背後で勇者様が何かをぶつぶつ呟きながら付いてきている事くらいだ。


 「なあ、クライシス、さっきの男絶対色々仕込んでやがる、勇者でも勝てねえんじゃねえか?」


 「彼女が勝てないのはアービスという青年だけだから心配しなくていい」


 「そのアービスってやつそんなに強いのか?」


 「いや、彼女を倒せるのは武力だけじゃないってことさ」

 

 「ん??」


 「おい、今、アービスの話をしたか?」


 背後から声をかけられ、ヤグ君が身体を震わした。私は歩きながら振り向いた。


 「ああ、勇者様の勝てないものと話をしていたんだ」


 「そうか、まあ、正解だな、僕はアービスには勝てない、だからちゃんと物に出来てない」


 「そ、そうなんだ……」


 ヤグ君は勇者様が近くに居ると緊張なのか恐怖なのか、声まで震えていた。ふむ、勇者様の前でむやみやたらにアービス君の話はしない方が良いのかもしれない。

 そんな会話をしながらも裏路地にたどり着いた。店の前にはすでにロビウルスは消えていた。店の中だろうか。


 「セイラ!」


 「待て!ヤグ君!」


 ヤグ君が感極まったかのように店の中に走って行ってしまう。私も慌てて追いかけ、店の中に入る。すると、地面に膝を屈したヤグ君が居た。だが、その理由もよく分かった。

 店の中が荒らされていたのだ。受付台は割られ、色々な紙が散乱しており、ソファも綿が飛び出ていたり、シャンデリアが落ちていた。


 「これは……」


 「なんだ、僕が着く前に崩壊寸前じゃないか」


 後から入ってきた勇者様がさほどどうでもいいかのような態度でそう呟いた。


 「セイラ!!無事か!」


 「私も行こう!」


 私とヤグ君は2階にいるはずのセイラの部屋へ向かった。だが2階も荒らされており、何個もあった扉が破壊されていた。初めて他の部屋の中を見たがどこもかしこもまるでセイラの部屋と比べて大分貧相な部屋だった。変な匂いも漂ってくる。


 「この部屋は……」


 「他の女たちの部屋さ、セイラは特別だったんだ、他の女達はろくに掃除もされない部屋で働かされていた」


 それは酷すぎる。私はそうとも知らずにここに通っていたのか……。


 「セイラが特別というのは?」


 「あんたが居たから……」


 「私?」


 「この店にセイラが運ばれる途中、セイラは裏路地の酔っ払いどもに襲われただろ? その時、お前が助けた、店のやつらはあんたが英雄なのを恐れ、お礼をしないのも変だと思い、来たばかりのセイラをあてがった、だからセイラへの対応や部屋の質だけを保った、あんたが二度も三度も来て、他の娘以上に金を落とすから」


 「そうだったのか……」


 知らなかった。英雄の私の視野はどこまでも狭かったのだろう。

 それを妹やセイラに思い知らされる。


 「まあ、だからセイラが酷い目に合わなかったのはあんたのおかげだけど、あんたも女をこういう場所で抱くとは思わなかったから……それにセイラは……とにかく嫉妬で睨んでた、悪かった、抱いてなかったんだな」


 「当たり前だ、私は金で女性は買わない、私が金を払っていたのは私と遊んでもらった礼だ」


 「そ、そっか、あんた、純粋なんだな」


 「よく言われるがあまり意味は分かっていない」


 「そういうとこだろ」


 ヤグ君はそう言うと私の前で初めて笑った。

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