第6話 なんだこの勇者
エア・バーニングさんの登場で会場は熱気に包まれていた。熱気を孕んだ会場でエア・バーニングさんが国民に向けて、意思表明をしていく。
「私は勇者様や仲間たちと共にこれまで以上に君たち、国民を守っていきます!! よろしく頼む!!」
親指を立て、その甘いマスクで笑う顔はまさしく正義の味方に相応しい。
かっこいい、やっぱり勇者のパーティーに相応しい人物だった。俺が勇者なら絶対色々聞いて勉強する。生きた若き英雄だぞ、当たり前だろ! だが、アニスはやっぱり興味無さそうというより、チラチラと俺の方ばかり見る。どうしたのだろうか。
「はい! ありがとうございます! エア・バーニング!! 素晴らしいかったですね!ではでは次はこの方です!」
おっと、次は誰かな? この国には最上級魔術士は三十人ほど存在するが、誰をとっても適役なのだろう。前世の世界で言うソシャゲのガチャを見ている気分になってきた。アニスが主人公として、最初はエア・バーニングさん。この方は間違いなくSSRだろう。
「その槍で屠れない者はなし!! 一騎当千の強者であり、王国の武闘大会三年連続王者!! 気高い赤髪が光れば、敵はすでに亡き者になっている! 彼女こそ最強の戦士! シャーロット・コンスタン!!」
「そんな仰々しく紹介されても困るんだが……」
司会の紹介で困ったような表情を浮かべながら壇上に上がってきたのはシャーロットさんだ。観客たちはやはり歓声を上げる。彼女は紹介の通り、武闘大会三連覇の強者。だが、彼女の活動している場所が男臭いせいか、エア・バーニングさんは女性の歓声が多かった反面、シャーロットさんは低い男の声が多かった。
一度だけ武術大会を見物した事がある。決勝戦で彼女が大剣使いの大男相手に一歩も引かず、十文字槍で見事に勝利をもぎ取ったのを見た。あれは素晴らしい試合だったと言える。
そんな彼女の顔は綺麗なお姉さんと言った感じだが、首筋に付いてる刀傷が彼女を戦士だと物語っていた。年は確か俺と一個しか違わなかったはずだ。ギラギラと輝くような赤色の長い髪を一本にまとめたポニーテールを揺らしながら、壇上に登り、国民を見渡していく。
壇上に立った彼女の装備はかなり目立っていた。自身の体格と身長、後は小さくも大きいとも言えないちょうどいい胸に合わせた特注品の鎧を着こみ、右手には刃こぼれしやすいが切れ味は鋭い黒曜石の刃で出来ていると噂の十文字槍が握られており、穂先に向かう柄の部分は肩に掛かっていた。かなり様になっていてカッコいい。
国民全員を見渡し終わったシャーロットさんはアニスの方を振り向くと、彼女の足元で魔法陣が起動した。
誰も驚かないのは普段から使われているものだからだ。その魔法陣は壇上の人の声を国民全員に届くように拡げる魔法だ。最初の王様の話の時なども起動していたが、エア・バーニングさんは拡声魔法の陣があるのに全力で叫んで、国民の耳を攻撃してくる事があるので、エア・バーニングさんの演説の際に解除していたのだろう。
実際、エア・バーニングさんがやらかしても誰も責めないが。英雄などは関係なく。
「す、すまない、つい熱が籠ってしまい……」
と、わざとじゃない様子なので誰も責められない。普段から助けて貰ってるこちらからすればそれくらい許容範囲だ。
「どうも、勇者様。俺はシャーロット・コンスタン」
俺っ娘か、アニスは僕っ子だから、なんか姉妹って感じだ。まぁ、顔は全然似ていないが。アニスはボーイッシュで幼い顔立ちだ。確かに十八という年だが、綺麗なお姉さんではない。にしても本当に武人というより第一印象は麗人だ。頼れるお姉さんとはあんな感じなのだろう。つい見惚れてしまう。
「……」
「あ? どうした? 勇者? お前、どこ向いてんだよ」
ん? アニスは別の方を向いているのか……って俺の方をまだ見てた上に、すごい不機嫌そうだ。というか完全に俺を睨んでいる。俺なんかしたか!?
「おい、勇者! 俺をガン無視とは良いどきょ――――」
「うるさい、僕は君と仲良くする気ないから良いだろ」
「うぇ!? な、なんでだよ!」
ほんとだよ!! なんで急に仲間に喧嘩売ってんだ! ほら、国民全員、ざわざわしだしてるから! エア・バーニングさんなんて驚愕しすぎて、口と目凄い開けてるぞ! ……なんでその表情で止めたんだろ、早く閉じればいいと思います。
「理由は二つだ、僕の好きな人を誘惑した、もう一つは僕の好きな人の視界に映った、興味を持たせた」
「三つだし、意味わかんねーよ!」
本当に意味が分からない。あの登壇までの間にそんな事が出来るなんてシャーロットさんは魔性すぎないか?
「とにかく君とは仲良くしない」
「はぁ!? なぁ、エア・バーニング! なんか言ってやれよ!」
「ふむ、だが、誰と仲良くするかは個人の自由だからね……」
「いやいや、そんな事言ってる場合か!? 俺たちパーティー組むんだろ!?」
「その通り! だから私はどちらが悪くても見捨てない! ピンチの時は全員助ける!」
「じゃあ今の状況をなんとかしろよ!!」
「難しい問題だが、見捨てるわけにもいかないな、よし、友情の握手をしよ――――」
「断る」
「むかっ! もういいこっちから願下げだ!」
徹底した拒絶により、シャーロットさんはアニスを睨むと、そっぽを向いてしまう。アニスはそれに対し、特に何も思っていないという様な態度で再度、こちらへ顔を向けた。だが、今度はすっきりしたような顔だった。本当になんなんだ。