第43話 お前は俺の彼女か
オーガ、アンデット、ミミックという謎トリオを倒して、一週間くらいが過ぎた。俺は地道に魔法や剣技の鍛錬を積みながら、ときおりアニスを甘やかしていた。
キングオーガが根城にしていた謎の鉱石がある洞窟は国が対応し、調査するという。
そんな朝方、朝が弱いはずのアニスが短パンと黒い半袖の服を着てウキウキしながら俺と王都までの道を歩んでいた。
一方、俺は、グレーの短パンに半袖の赤色のTシャツだ。夏のような気候が続いて暑い日にピッタリだ。ダサいとかは知らん。
「アービス! お出かけだ! デートだ!」
「はいはい、そう慌てんなよ」
「今日は一日、僕だけのアービスだ! いや、毎日そうだけど今日は特別だ!」
「ははっ、なんだよそりゃ」
俺ははしゃぐアニスを見て微笑ましくなる。なぜ急にデートかと言うと、アニスと洞窟で約束した五つのお願いを聞くためだ。いや、デートならいつでも付き合うんだが、今回のは嫌と絶対言わないというお願いだった。
「あんまり変なところは勘弁だぞ」
「アービスは結構行かず嫌いだからな! 僕が誘ってもあまり付き合ってくれないじゃないか!」
「そうか? 結構付き合ってるだろ」
「でも、途中で帰りたいとか、いつまで居んだよとかそんなことばっかり言うじゃないか」
お前は俺の彼女か。まぁ、デートといのも語弊だが、これ以上の良い言い方は無かった。遊びに付き合うもなんだか浅くて嫌だし。
「はいはい、言いませんよ、アニスの言う通りにするさ」
「ふふん、殊勝な心掛けだね」
鼻を鳴らして喜ぶアニスを見て、まぁ、こんな日があっても良いだろ、学校無いしと気楽に考えることにした。
――――
基本、この国での娯楽は中央街を東に行った場所にある歓楽街だ。食い物屋だったり、洋服屋、まぁ、いかないだろうが賭場なんて場所もある。まず最初に済ますことは朝飯だ。
飯屋はアニスに任せることにしたのだが……アニスが連れてきたのは――――小さいゲテモノ料理屋だった。
「アニス、怖いもの知らずなのはお前の利点でもあるし、俺もその怖い物知らずな部分によく助けられた、ああ、認めるよ、お前は最強だ」
俺はカウンター席に座り、項垂れながらそう呟くと、アニスが俺に笑いかける。
「そんなに褒めるな、アービス、照れる」
アニスは照れてしまうが、今の言葉は全て嫌味だったのだが。
どうしてこんなにも俺が冷や汗を垂らしながら嫌味を言っているかと言うと目の前の料理だ。
「カマドウマの串焼き美味いぞ、アービス」
そう、カマドウマ。あのバッタを大きくして茶色にしたやつだ。あれの丸焼きをやせ細った眼鏡を掛けた女店主が謎の奇声を上げながら作り上げたものを目の前に置かれ、数分が経った。
「お客さん……どうぞ……」
なぜか女店主は催促してくる。暇なのか? いや、暇なんだろう。この店には俺たちしか居ないんだから。いや、こんな朝からこんなもん食うやつ居ないか。大体、この店、カウンター席と四人席二つしか無い割に変な動物置きすぎだろ。
木製の檻に入っているトカゲや蜘蛛、カエルを見つめ、俺はげんなりする。
「すいません、マジで毒とかありませんよね?」
「知りま……ありません……」
この女店主嘘ついた! 今、知りませんって言おうとしたろ。死んだらどうすんだこの女。
「嫌だって言わない約束……」
俺が渋っていると横から恨めしそうな声が聞こえてきた。俺は唾を飲んで、カマドウマの頭と尾を持った。真ん中にかぶりつけば良いだけ。それだけで終わる。後は倒れないことを祈る。
「くそっ!」
食った。真ん中のはらわたにかぶりついた。あー、美味いよ。確かに美味いよ。でもなんだろ、人間性を失いそうだ。
「美味しいか? アービス?」
「あ、うん」
目をキラキラさせながら聞いてくるアニスに俺は悟ったような返事を返す。俺が今、アニスの約束を守るために出来る精一杯の愛想笑いも浮かべられた。いや、美味いんだよ、美味いけどさ。変な汁が俺の口から垂れてるのが見える。俺は一体何を食ってるんだ……。
「僕はこういう珍しいものが好きだから、アービスに気に入ってもらえてよかったよ」
「お、おう、まぁ、美味いよ、うん」
「そうか! なら僕の分もやろう!」
「え?」
え? なんでそうなるの? 二匹目は聞いてないぞ。精神を破壊する気かお前は。
「い、い、いや! 悪いよ、アニス、ここは俺の奢りで良いからさ、お前が食えよ」
「遠慮するな、あ、分かった」
何が分かったというのだろう。するとアニスは不意にカマドウマを尻尾から持つと顔の方を俺に向け、俺の口に差し出した。
「へ?」
「あ、あーん」
「え!?」
いや、あーんは嬉しいけど、俺の眼前にカマドウマの顔が思いっ切り俺を睨んでるんだけど! 全然ロマンチックもクソも無いんだけど! この料理ですることじゃないだろ! アニス!
「ほ、ほら、あ、あーん」
「あ、あ、あ、あ、あーん!」
俺は照れ臭そうにあーんをしているアニスの行為を無下に出来ず、そのカマドウマを頭から食べた。何かが砕ける音が俺の口の中から聞こえてくる。うん、もう来ない。美味しいけどさ。絶対ここには来ない。
「またの……ご来店を……」
来るかボケ。




