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第28話 俺をナメんな


 俺は倒れ眠ったアモンさんを両親に託し、アニスを無理矢理走らせながら、俺の村から南の方にある村に向かっていた。ただ走っていたわけでは無く、きちんと、速度を上げる魔法を使った。

 あの村は確か、酒場が多かったはずだ。シャーロットさんめ、飲めないくせになんでそんなところに行ってるんだ。実際に見たことは無いが可愛くなるらしい。それはそれで見てみたいが。


 「何をニヤニヤしてるんだ?」


 「な、なんでもない」


 「他の娘を考えていたんだろ……」


 「え?」


 「なんでもない」


 アニスは小声で何やら言っていたようだが、走っている中でそれを聞きとるのは至難だぞ。

 そんな事を思いつつも、西部劇に出てきそうな酒場が多く建立されている村の入り口にまでやってきた。

 この村に多く居るのは王都で飲みづらくなった(すね)に傷を持つ者たちや、王都のおしゃれな店では喧嘩や言い合いができなくて物足りなくなった武闘派の魔術士なんかが入り浸っている。シャーロットさんもその一人なんだろう。飲めないけど喧嘩をしに来てる感じか?


 「やはり助けに来なくて良かったな」


 アニスはそう言った。最初は意味が分からなかったが、次の光景を見て俺もそう思った。


 「おらぁ!!」


 「ぐはぁあ!!!!」


 シャーロットさんの怒鳴り声。そして知らない男の断末魔。

 するとすぐ横の店から転がり出てきた男が居た。男は地面に背中をくっつけ、起き上がろうとしたが、口から吐血し、上半身を起こすだけにとどまった。

 男は屈強な肉体に赤いシャツ一枚だけを着用している大男で、着用しているサングラスは割れていた。割れたせいで見える目は赤く、アーモンド形のようだった。人間じゃない。こいつは……。


 「なんだよ、まだ意識あんじゃねえか、さすが、オーガだな」


 そう、オーガだ。森や洞窟の中に住む鬼。並みの魔術士じゃ勝てない上級モンスター。だが、人間に擬態化するなんてただのオーガじゃない。

 俺はオーガを見て考察をしていると、店からニタニタと笑いながら出てきたのシャーロットさんだった。シャーロットさんは披露会で見せた黒い鎧に着替えており、手には十文字槍が握られていた。陽の光に当てられ、十文字槍の黒い穂先が妖しく光る。


 「てめえ、舐めやがって!」


 「舐めてんのはてめえだろうが! 人が眠気覚ましに飲もうとしたら邪魔しやがって!」


 おー怖っ、めちゃくちゃキレてるな。ていうか、眠気覚ましにお酒って寝に来てるも同然じゃないか? ていうかあんた飲めないんだろ!?


 「あのー、シャーロットさん?」


 「あんだよ!」


 俺はシャーロットさんに近づいた。相変わらず近くで見ると美人だなとか思いながらも、少し遠慮がちに声を掛けると、寝不足のクマでコーティングされた血走った眼が俺を睨みつけてきた。だが、俺の顔を見ると少し驚きつつ、睨むのを止めた。


 「んだよ、アービスじゃねえか、おお、勇者も居るな……ってなんだその格好!?」


 そのツッコミをしてくれて助かるよ。ていうか、アモンさんはスルーだったな。いや、本人もあんな格好をしているから気にしなかったのか。


 「服装についてはアービスの趣味だ」


 「まじか、お前……勇者を着せ替え人形にするとは恐れ入るぜ」


 「違います」


 すごいドン引いてる目を俺に向けないでください。俺は悪くない。可愛い、似合っているとちょっと言ってしまっただけだ。


 「そんなことより、あまりアービスに近づくな、シャロちゃん」


 「ああ? 近づいてきたのはてめえらだろうが」


 それは正論ですね、シャーロットさん。

 アニスは俺とシャーロットさんが向き合う間に入ってきたのだ。その際、少し不機嫌顔だったが、まぁ、シャーロットさんの事を嫌いだからだろう。そういえば、なんで結局嫌いなんだ? 聞けていなかったな。


 「おい、てめえら、人を無視してんじゃねえよ!」


 オーガは言い合いをしている俺たちを睨みつけながら、勢いよく立ち上がり、その太く締まった筋肉の塊のような腕を振るい、拳をシャーロットさんの胴体に放たれた。


 「シャーロットさん!」


 危ない! 俺はそう思って、シャーロットさんを助けようと前に居たアニスの肩を掴み、道を開けさせるため押しのけてしまうが、今は緊急事態だ。だが、オーガの拳は速かった。俺が庇う前に当たってしまう事を確信した。

 俺はつい目を瞑ってしまった。そして聞こえたのはシャーロットさんの鎧に拳が当たった音。


 「な、なんでらぁ!? でえええ!!」


 聞こえる二度目の断末魔。だが、それはシャーロットさんではなく、オーガの断末魔だった。

 何が起こったのか、俺は目を開け、確認するとオーガが鎧を殴った方の腕の手首を持って呻いていたのだ。オーガの拳は砕けていた。指が折れたのかもしれない。

 逆に殴られた方のシャーロットさんはピンピンしており、オーガが泣きわめく姿を見てニヤニヤしていた。


 「馬鹿が、俺の鎧がお前みたいな雑魚の拳を通すかよ」


 薄々分かっていたが、やはり鎧の効果だったのか。シャーロットさんは武器、防具の加工、エンチャント魔法で最上級魔術士になった人だ。オーガの拳も通さない程の硬い鎧はシャーロットさんならおちゃのこさいさいというわけか。心配して損した。


 「さすがシャロちゃん!! すげえぜ!!


 「やるなぁ!! オーガなんてわけねえか!」


 「シャロちゃんって呼ぶんじゃねえ!! 今すぐ中にひっこまねえとお前らの拳もかち割るぞ!」


 シャーロットさんの雄姿を店の中で見ていた荒くれものたちが褒めたたえだした。シャーロットさんはそんな野次馬たちに吠えると、野次馬たちは笑い声を上げながら店の中に戻っていった。


 「アービス、お前も慌てすぎだ。俺を誰だと思ってんだよ。ここいらじゃ、一騎当千なんて呼ばれてんだぞ?」


 「そうでした、すいません」


 「ふっ、まぁ、後は任せなって……って! 居ねえ!! あのオーガ!!」


 シャーロットさんは男前にそう言い、オーガの方を睨もうとしたがいつのまにか、オーガは居なくなっていた。シャーロットさんはこめかみに筋を立てて怒り出すと、街の中を槍を振り回しながら走り出してしまう。

 そんな光景を見て、俺は再度、心の中で謝りながら、見くびっていたなと反省した。

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