第27話 心の移り変わりが早いのは人間だからだろうか
俺とアニスはそれぞれの自宅に戻った。準備が出来たら、俺の家に来るとアニスが言っていたので、とりあえず両親に気をつけろと警告を出し、俺は師匠から貰った刀が入った鞘を左手で握りしめた。服装は制服で良いか。とりあえず、防魔、防攻魔法で身体を覆えばそこらのゴブリンの攻撃くらいなら何発食らっても死なないだろう。実践は初めてだ。強いて言えば、実地訓練でゴブリン退治をしたくらいだ。
「アービス!」
アニスが着いたようだ。俺は二階から降り、玄関から外に出て――――アニスを見てげんなりした。
「なんでまだゴスロリ服なんだよ」
俺がそう指摘すれば、アニスはゴスロリ服のスカート部分を持って一回転して見せ、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「その疑問を何度もしてくるのは言いたいからか? それとも最初の質問をしたのを忘れたのか? 仕方ないな。僕はアービスが好きだから教えてあげるよ、アービスが可愛いって言ってくれたからだ、大丈夫、防魔と防攻魔法は付与したさ」
そういう問題か? 大型のモンスターに殴られたら骨折れちまいそうだぞ。まぁ、こいつの能力は俺より上だし、俺がこれ以上口出しできる立場じゃないな。
「……ならいいや、じゃあ、それは?」
俺はアニスが持っているものを指さした。アニスのゴスロリよりも気になったのは、その持っていた片手剣だった。アニスが片手で持てるほどの大きさで、刀身がまるで黄金のようになっていた。
「ああ、これは勇者になった際に王様から貰ったものさ」
「初めて見たぞ、そんなの」
「普段持ち歩かないよ、こんな悪趣味な剣」
「悪趣味ってお前な……」
「あー、でもこの剣、勇者が代々使ってたらしいけど、新品みたいだよね。それに強い魔力を秘めているらしいし、見た目で判断はしないことにしたよ」
ゴスロリでその剣は似合わないけどな。俺は心の中でそう思った。口に出さないのはこれでまためんどうな事を言われたくないからだ。
「それで? どうする? アービス? 今から家で一緒に甘え甘やか――――」
「とりあえず、村々を歩いて回ろう、ここから近いのは隣の村だ」
「む、僕の発言を無視するなんてイケないんだぞ」
「ちょっ、おい」
アニスはむっとして俺の腕にしがみついてくる。まったく、これじゃあ、全然先へ進まないぞ。
「あ~! 勇者様~! アービスくん~!」
俺とアニスが言い合いをしているとアモンさんが気の抜けた声を発しながらやってきた。相変わらずの羊ファッションだ。多分、魔力探知で見つけて来てくれたのだろう。だが、アモンさんの顔を見ると目の下に酷いクマがあるのに気づいた。後、ついでにアニスの舌打ちの音にも気づいた。
「あの、アモンさん? 大丈夫ですか? 目の下にクマが……」
「これはですね~! あれからエア・バーニングさんとシャロちゃんの三人でずっと昨日の異臭騒ぎの犯人を捜してまして~」
え!? 嘘だろ!? あれからずっと居もしない犯人を追っていたのか? まずい。なら他の二人も寝不足のはず。いや、まず、寝たのか?
「あの、睡眠はとられましたか……?」
「取ってないです~! シャロちゃんが王都の外の村も探そうって言って~」
「底抜けだな」
それは底抜けの馬鹿ということか? アニス? 彼らは純粋なだけでバカじゃない。彼らは国を本当に愛しているんだ。多分。
「それで? シャロちゃんとエア・バーニングは?」
「ええっとですね~! ここから南の村で、三人組の犯人らしき男たちと今、戦闘中です~」
「三人組? もしかしたら追っている三人かもな」
「いや、異臭騒ぎを起こした三人組だろ? 僕たちが追ってる三人組かはわからない」
異臭騒ぎ起こした三人組なんて居ねえから! 俺たちが追ってる三人組しか考えられないから! なんで真相を知ってるお前からそんな言葉が出るんだよ。
「とにかくその村に行きましょうか、ここから南だとちょっと掛かりますけど走ればなんとかなりますね」
「いえ~、ここは、私が転移魔法を……」
「いや、やめときましょう、多分、その寝不足でやったら昏倒しますよ」
敵のど真ん中で倒れられたらどうしようもできなくなる。それに一時間も掛からない。三十分ほどだ。ここでアモンさんに無理をさせるわけにはいかない。敵が強ければ協力してもらわなければ困る。
「敵が居る中に急に飛び込むのも危険だろう、僕とアービスは走って向かうから、アモンは寝てていいぞ」
アニスは優しくそう言うと、アモンの肩を叩く。アモンさんは本当ですか~? すいません、任せます~とだけ言うと、俺の家の玄関前で倒れるように寝込んでしまった。いや、そこで寝られるのちょっと……。
「よし、このポンコツを中に入れてそこらへんに転がし、僕たちも昼寝でもしようか」
「そうだな、ちょうど昼だしって違うだろ、シャーロットさんとエア・バーニングさんを助けに行かないと!」
「助けなど要らないと思うんだが……」
「でも、仲間なんだから!」
「はぁ、しょうがないな、アービス、勇者パーティーをそんなに気に入ってくれるとは思わなかったよ」
アニスの言葉に少しハッとした。
そういえば最初の頃は入りたくないと何度も思ってたな……。今となってはこんなに熱心になってしまっている。人の心は移り変わりが激しいとはよく言ったもんだ。いつの間にか俺は自分が勇者じゃなくても良くなっていたのだった。




