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第2話 僕の方が彼を知っているはずなのに


 魔法学校は王国の中に存在し、魔法で出来た設備と校舎が詰め込まれた塔が建っており、総七二階の塔の三階が俺とアニスの教室だった。


 まず、塔を登り、その階ごとにある転移の魔法陣に入り、転移した場所で魔法や剣術を学ぶ事になる。基本、魔術学校だから剣術はおまけだが、それでも放課後に自主的に残り、剣術の師匠に手ほどきをしてもらっている。警察学校時代、剣道で負けなしだった俺は、この世界の剣術と剣道は大幅に異なるが、前世を思い出せて楽しかった。


 魔法陣に入ると岩盤で出来た広い場所に出る。まだ誰も来ておらず、アービスは岩盤に突起のように飛び出す岩に腰を落とす。

まぁ、それもそのはず、授業開始まで後一時間ほどはある。それでも早く来るのは、こうやって一人の空間が好きだからだ。入学当初、アニスが「一緒に行きたいのにお前はすぐに行ってしまう!」と癇癪を起こしたが、なんとかいさめて許してもらった。というより、付き合っても居ないのにこんなに束縛される義理はない。


 ちなみに俺たちはここを来年の春前で卒業する予定だ。アニスの就職先は勇者なのが昨日決まったが、俺はまだ悩んでいた。なにしろ、勇者になるもんだと思っていたからだ。どうするか。基本的にこの学校に入った生徒は冒険者になるか国家魔術士、もしくは一人流浪の民となり、世界中を飛び回るかだ。流浪の民……響きが良いな、さすらいながら人を助ける魔術士……かっこいい……。


 「アービス、なんだその間抜け面は」


 「あ? ああ、アニスか、それにナチじゃないか、どうしたんだ、まだ授業開始前だぞ」


 俺の目の前に居たのは何やら不機嫌なアニスに、神官として世に出る予定の金髪ロングのナチだ。二人は学校のちょっと露出度が高い制服を着こなしている。 この学校の不思議の一つだが、制服がおかしい。男子は普通なのだが、なぜか女子のだけ肩の部分が露出しており、スカートと上着の丈があっておらず、ベルトのようなものでスカートと上着を無理矢理固定したようなデザインをしており、股関節がギリギリ見えない設計だった。これを考えたやつは変態だな。けしからんと入学した当初は思い、女子の制服を直視出来なかった。

 挙句の果てには。


 「僕の肩や腰を見るのは良いけど、どうして他の子のを見ても顔を赤らめるんだい? ねえ……どうして?」


 とアニスに責められたこともあった。あの時は必死に見ても顔を赤らめないよう特訓したっけかなぁ……。


 本題がズレたが、少し驚きを隠せない。普段、こんな時間に俺以外は来ない。当初、アニスが付いて来そうだと思っていたが、実は起きるのが苦手な子なのだ。結果、俺の警官学校由来の早起きに付いてこれない。だからこそ、一人で居れるのだが。


 「いや、勇者様が……」


 「ん? おい、もう勇者様って呼ばせてんのか?」


 ナチのアニスへの呼び方に少し鼻についた。

 アニスがナチに勇者様と呼ばせていたからだ。確かにアニスは勇者かもしれないが、昨日発表されたばかりで、アニスちゃんは友だちだからと言い世話を焼いてきた彼女に対し、これから勇者様と呼べと言ったのならかなりの失礼に値する。

 だが、それに対し、苛立ちを隠せなかった俺はつい、怒る様にそう聞いてしまい、アニスのめんどくさいモードが発動した。

 表情を無くし、俺の顔に顔を接近させ、その感情のない目で見つめた。


 「……アービスなにを怒っているんだ? そんなにナチには親身になるんだから何かイラついた事でもあったんだろうね?」


 「い、いやだって、一昨日までちゃんとアニスちゃんって呼んでたじゃないか」


 「……だから?」


 「うっ、えっとだから、今まで通り、アニスちゃんじゃダメなのかなと……」


 怖くなってしどろもどろにそう聞くと、あたふたとしながらあーあの! とナチが声を上げた。


 「ど、どうした? ナチ?」


 「あ、いや、あの、アービスくん、違うの、私が呼ばせてほしいってお願いしたの……」


 「え?」


 その事実を聞いて、アニスの方に顔を戻すと、その感情のない瞳が俺を射抜いた。言葉が出ずに目を泳がせていると、アニスは突然、右耳に息が掛かるくらい限界まで口を近づけた。くすぐったいという感情に襲われるが次のセリフで、くすぐったさが消えとんだ。


 「ほら、どうしたの? 僕が何かした? ねえ、アービスは僕をすぐに疑うくらい、ナチに親切だよね、どうして? 僕のせいじゃないよね? どうしてそんなに僕を責めようとするの? そんなにナチが理不尽な目に合うのが嫌? それはどうして? ナチは良いよね、すぐに君が助けてくれるんだから、アービスもナチみたいなおどおどした可愛い子がお礼言ってくれて嬉しいだろ? ヨカッタネ」


 「いや、そういうわけじゃ……えっと……」


 もう泣きそうだった俺は言葉が出ずにただただ、何か言わないと思い、口を走らせた。怒涛の責めに俺の背中は汗だらけだ。

 するとアニスは俺の言葉を待たずに顔を耳元から離し、表情を無から不機嫌に変えた。


 「……もういいよ、あのさ、ナチ、本当に僕の事は勇者なんて呼ばなくていいからさ? アービスが怒るんだよね」


 アニスとナチは最初、アニスが一方的に嫌っていた。

 当時、引っ越してきた彼女と仲良くした俺を咎めて以来、三人で遊ぶなら許すことにしたのだが、アニスはちょくちょくナチに対して、突っかかっていた。さすがにまずいと思った俺が仲裁してからは仲良くなってきていて、俺が忙しかったりしたときはアニスはナチと遊ぶようになっていた。ナチも友達ができて嬉しかったのか、率先して大雑把なアニスに勉強を教えたりなど世話を焼いていた。


 「う、ううん、私は神官になるんだから勇者様には敬意を払わなきゃ! でも勇者様がアニスちゃんで本当にうれしいよ!」


 「ありがとう、ナチ、どっかのわからず屋とは違うな」


 どっかのわからず屋とは俺の事か?


 「で、でも勘違いさせてごめんね? アービスくん、庇ってくれてありがとね?」


 「ああ、いや、俺も余計な詮索をして悪かった」


 「アービスくん昔からそういうの気にするタイプだもんね」


 「さすが十五からの付き合いだな、そうなんだよ、性分というか、なんというか……」


 「僕は五歳からの付き合いなんだぞ……」


 「へ? アニスなんか言ったか?」


 「……」


 小さくて聞こえなかったがまた物騒な事を言ったんだろうか……。

 だが、確かに昔からそれはおかしいだろということに突っ込みたくなる性分だったが、今回は全面的に俺が悪いな。反省しつつ、アニスを見る。

 アニスはやはり不機嫌そうで、目と目が合う。だが、先ほどと違ってまだ目に光が宿っていた。良かった。まじで目が虚ろな時のアニスは怖い。


 「なぁ、アニス、悪かったよ」


 「ああ、良いんだ……それに元々怒ってのはそれじゃない、これのことだ!」


 そう叫んだアニスはぐしゃぐしゃの紙を突き出した。それは今年の春に書いた進路希望の文書だった。俺は絶対これ! と決めていた勇者以外は適当に決めたので覚えていない。こんなのあったなぁ……。


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