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第26話 僕は君が死んだら死ぬよ


 俺とアニスは他の勇者パーティーを探すため、王都の中央街を西に行った場所にある居住区画には、公園のような、子どもたちが集まる広い草原地に来ていた。いや、なんで公園なんか来てんだ。

 この公園には魔術学校初等部の子たちや、王都に住んでいる親子連れまでさまざまな人が来ては、魔術の練習や、子どもが好きそうな遊びをして遊んでいる。俺の前世の世界じゃこんな広い草原地で、のびのび遊ぶ子どもは減っていたため、新鮮な気分だった。警備も万全で中級から上級魔術士が見回ってくれている。


 「王都は警備が厳重なのが売りなのにどうして異臭騒ぎになったんだろうな、アービス」


 「それはわざと聞いてるのか? アニス?」


 俺たちのせいなんだから、お前が嫌味を言える立場でも無いぞ。

 アニスは別にーと笑って寝返りをうって、俺の右腹部辺りの場所に顔を埋める。そう、アニスと俺はその草原地にある木製のベンチに座っており、アニスは俺の膝を枕にして寝転がっていた。


 「アービス、良い匂いだな」


 「ああ、おひさまの匂いってやつだろ」


 「違うよ、アービスの匂いさ」


 「どんだけ体臭が濃いんだ俺は……」


 「ふふ、君の匂いならいつまでも嗅げるよ」


 笑いながら、俺の匂いを嗅ぐアニス。だが、俺にはどうしても聞かねばならない事があった。


 「そうか……ていうか、一つ聞いていいか?」


 「なんだい?」


 「なんでゴスロリのまま来たんだ?」


 そう、アニスはあの可愛い黒のゴスロリ服のまま来たのだ。可愛いけども、そんなに気に入ったのか?


 「良いじゃないか、可愛いんだろ? ベッドでは僕の背中を思い切り掴みよせてしまうほどに……さ?」


 う!? そ、それは! 俺はベッドでの記憶を思い出し、頬を紅潮させてしまう。ついだ。あれはつい、可愛く近くで見たかったからしたまでだ。


 「じゃ、じゃあ、どうして俺たちはこんな場所に居――――」


 「質問は一つだろ、終わりだよ、アービス」


 俺の口に左腕を伸ばし、左手の人差し指を俺の口に当て、黙らせるアニス。聞く順番を心底間違えたと心の中で思った。

 だが、なら諦めるかとも言えない。


 「いや、エア・バーニングさんたちを探しに行かないと」


 「探したじゃないか、中央街も東の歓楽街も、西のこの居住区画で見つからないなら王都の外だろ?」


 「そうだな……どうするか……」


 「転移で適当に村を巡るかい?」


 「転移は疲労度が溜まる魔法だ、もしも敵に鉢合わせて疲れて戦えないはシャレにならん」


 転移魔法は、最上級魔術士でもアモンさんやアニスなどしか使えない魔法だ。ちなみに魔術学校の魔法陣は魔法器の特別製で、うちの学校の校長先生の魔力で動かしているらしい。そう思うとあの学校の校長先生も何かしらの最上級魔術士なのだろう。まぁ、そうじゃなきゃ魔術学校なんか開けないか。


 話を戻そう。使える魔術士は限られているが、それがどんな魔術士でも、長い距離の移動なら疲労が酷く出ることもあり、よほど切羽詰まっているか、術者が疲労していても戦える人数が居る時だけだ。俺だけで三人相手はさすがにキツい。武器も持ち合わせていないしな。


 そういえば、登下校の一時間くらいなら疲れないのだが、アニスは使わなかったな。確か、俺と歩きたいからという奇特な理由だったはず。


 「関係ないさ、どれだけ疲れていようと僕がそんな三人組に負けるとでも?」


 まぁ、負けないだろうな。逆に俺が足手まといになりそうだ。でも……。

 俺の頭に勇者パーティーでの役割を思い出す。精神的に助ける。アニスが慢心をしているならば止めねばならない。


 「心配なだけさ、何があるか分からないんだし、アニスに死なれたら嫌だ」


 「そ、そうか……君はたまに照れ臭いことを言うな、僕も君に死んでほしくないし、君が死んだら僕も死ぬ」


 横にしていた身体を真上にし、俺の目を見るアニス。その目は真剣だった。

 真剣なその目を見ながら俺は考える。アニスがもしも死んだら一緒に死ぬんだろうか。それとも仇を討つために生きるのだろうか。今は何も答えられない。でも、アニスが死んだら俺は……。


 「……僕も前の家に忘れ物があるし、あの村ならそこまで疲れないから転移魔法を使おう、ん? アービス?」


 「え、あ、ああ、そうだな、多分、そこまで来てたらもっと問題になってるだろうし、敵はまだ、王都周辺には来ていないから王都に近い俺たちの村は平気だと思うから、鉢合わせはないだろうな」


 つい、考え込んでしまい、アニスの言葉を思い出しながらつい説明口調で長い言葉を発してしまう。アニスは俺を訝しげに見てきたが、すぐにニコッと少し口角を上げると俺の膝から退き、俺の目の前に立った。

 

 「さぁ、行こうか、アービス」


 「ああ、アニス」


 見たことがある光景だ。アニスは俺に手を伸ばし、俺を立たせる。ああ、お披露目会でもこんな風に手を差し伸べられたっけ。俺もアニスを導いたり、助けたりできる日は来るのだろうか。俺はエア・バーニングさんが言っていた精神を助ける役目をきちんとこなせているのだろうか。そればかりが頭を回った。


 「転移」


 アニスの一言で、塔にあるような転移魔法陣が現れ、俺はアニスに腕を引かれ、転移魔法陣に入っていた。まぁ、どんなやつらが相手でも、今、アニスを守れるのは俺だけだ。やるしかない。

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