第25話 俺はこの関係が甘くて抜け出せない
「もう良いぞ、アービス、せっかく僕の裸を見れたのに残念だったな」
「いいよ! どんなド変態だと思ってんだ!」
「ド変態の君も気に入ってるよ!」
アニスのポジティブな慰めを貰い、俺はアニスの方を見た。絶句した。最悪の逆。可愛くないの逆。これは何といえば良いんだ?
「すごいな……」
「そう、まじまじと見られると恥ずかしいな……」
俺の一言にもじもじしたのは、黒いゴスロリ衣装を着たアニスだった。フリフリのスカートにひらひらが付いた袖。そして、アニスの子どものようなあどけない可愛さとマッチしており、俺は見惚れて何も言えず、まじまじと見てしまう。
「興奮したかい?」
寝転がった俺に、その格好で腹部に腰を下ろしたアニス。俺は理性で止めようとしたが自然と腕が動き、アニスを背中から抱き寄せた。アニスと俺の鼻の先とおでこがぶつかる。
「似合ってる」
「そうかい、ありがとう、アービス」
「はい! とてもお似合いです!」
「良い雰囲気に入ってくるな! アホ!」
居たのを忘れていた。セルヴィアさんが興奮しながら口を挟むがアニスに一喝されるも、満足したのかスキップをしながら消えていった。
「まったく、誰なんだあいつは」
「メイドだってさ」
「なに!? 女性の使用人が来たら言えと言っただろ!」
「さっき知ったんだよ!」
そう訴えると、アニスは後で言えば良いかと呟いた。家の事だろうか。というか俺的にはあのメイドはチェンジしたいんだが。
「さて、アービス、続きだ」
「続きとは?」
「僕を甘やかすのをさ」
甘えたアニスの声は俺の耳を溶かしていく。俺の頬とアニスの頬は紅潮していく。そして、アニスはいつも通り、俺の首元に顔を押し付け、その身体を俺に絡みつける。俺はこいつと付き合っているわけでもないし、別にキスやいやらしいことをしているわけではない。ただこうやって身体を寄せあうだけ。それをアニスも俺も楽しんでいた。
「大好きだよ、アービス」
「ああ、俺もお前が大事だよ」
頭を撫でる。そうすればアニスはやはり気持ちよさそうに俺の身体に頭を擦りつける。俺は彼女の綺麗な髪を楽しみ、アニスは俺の身体に寂しさをぶつける。それだけ。
「そういえばアニス、どうかしたのか? 朝から甘えに来たのか?」
「そういう理由で良いと言いたいけど、まぁ、特段気にすることじゃないんだが、そう、王都から離れた村が襲撃されたってだけ」
「なるほど、ならいっ……良くないだろ!」
俺は甘い雰囲気から頭を再起動させ、起き上がると、アニスの肩を揺らした。当たり前だ。襲撃犯は? 何をしたのか? 今はどこに居るのか? それだけ聞くことがある。
「な、なんだい? 急に?」
「いやいや! どこに誰が襲ってきたんだ!?」
俺は至極当然の事を聞いているのにアニスときたら、なんでそんなに慌ててるんだと言い出す始末。俺が教えてくれ頼むと言ってやっと口を開いた。
「ここから三時間ほどの場所さ、今朝、そこの村長が村人からの話を聞いて早馬を出してきた、村人は酒場の客で酒場に入ろうとしたら、知らない三人組の男女が酒場で飲んでいた最上級魔術士のオーゲイ・ドッチの後頭部をリーダー格の男が殴り飛ばしたそうだ」
なんだそれは……。その説明だと何の抵抗もせず、いや出来ずに最上級魔術士が倒された事になってしまうぞ。
「オーゲイ・ドッチって昔聞いたことあるけど誰だっけ」
「さぁね、僕はアービス以外に興味ないから知らないよ。うーん、そういえば、最上級向けの講義で一度教えに来たことがあったな、ああ、思い出してきた、声と口だけはでかい過去の栄光に相応しい愚かな人物だったよ」
「お前は相変わらず他人に厳しいな」
「良いだろう、僕は君に全振りの人生なのさ」
もっと自分と他人にも色々振ってくれ。頼むから。
「ありがと、そうか、最上級魔術士が殺されるなんて……」
「誰が殺されたなんて言った?」
「へ?」
アニスは俺の疑問に眉をしかめて答える。俺もつい、素っ頓狂な声を上げてしまった。
いや、ニュアンス的にはそんな感じだったろ? 死んでないの?
「死んでないさ、彼は気絶していただけで止めは刺されなかったらしい。でも怪我が酷いから死んだと勘違いされたんだろ」
「そんなお粗末な連中なのか……」
「さぁ? 見ていた村人はオーゲイが倒されたすぐに逃げたらしいからね。あ、ただいつも店を万年床にしている客共とマスターが見つからないらしい」
「なるほど、客とマスターの所在も気になるな……どこの種族だと思う?」
「姿は人間だが、腐っても最上級を倒したんだ、人間に化けれるくらいの能力には魔力はあるな。そして、死んだかどうかも確認しないくらいお粗末な知能を持つ種族、もしくは進化したかだね、人間じゃない。まさか最上級魔術士がそこらへんの山賊にはやられないだろ」
「これは勇者様案件では?」
俺がそう言えば、アニスは少し不機嫌な表情になるが、少し間を置いてため息を吐いた。
「はぁ、仕方ないな……僕は夜までこの格好で君にご奉仕してあげようかと思ったのに」
「甘やかすのは俺だから奉仕すんのは俺じゃねえか」
「嫌だったかい?」
また顔をくっつけて甘えだすアニス。このままなし崩しにあの雰囲気に戻ってはダメだ。
「そんなことはないけど、ああ! もう! とりあえず、エア・バーニングさんたちと合流しよう、場所は分からないけど、どこかには居るだろうし」
「そうだね、初クエストに行こうか、目標は僕らの逢瀬を邪魔した三人だ」
言い方はどうにかならないだろうか。恥ずかしい言い方をするアニスにため息を吐いてしまう。
俺とアニスは自宅を後にした。合流したら、エア・バーニングさんに頼んで、家にある刀を取ってこよう。エア・バーニングさんを移動手段にするのは遠慮したいが、その三人がすでに近くまで来ているなら急がねばならないから仕方なしだ。
俺はそう決め、アニスと共に家を後にした。




