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第20話 あーんしてやるから!


 勇者パーティーの面々は、アニスの屋敷にお邪魔し、屋敷の中央に位置する食堂にやってきていた。部屋の真ん中の面積を埋めているのは三十人くらいが座れる大きなテーブルがあった。純白のテーブルクロスが掛けられたそのテーブルは貴族という印象を受けた。そんなテーブルの端の方に固まる様に俺とシャーロットさん、アモンさんが着席していた。俺は真ん中の席に座り、いや、アニスに座らされ、俺の右斜めの席にシャーロットさん、左斜めの席にアモンさんだ。

 アニスとエア・バーニングさんは料理を持ってくると言い、俺の背後の扉から出ていった。


 「なんでお前がそんな偉そうな位置に居るんだよ」


 「俺も聞きたいです……」


 アニスが、君は他の女の隣に座ったり、目を合わせながら僕のご飯を食べる気かい? 僕がどうしてそんな罰ゲームを受け入れなきゃいけないと言い始め、しぶしぶこの席に座った。


 「てゆうかよ、勇者の料理って旨いのか? これでお子様ランチでも出てきたらお笑いだな」


 「結構美味しいですよ、それは保証します」


 「へー、まぁ、お前に保証されても味覚がおこちゃまの保証じゃな?」


 「えー? シャロちゃんもお酒飲めないってバカにされてたじゃないですか~」


 「よ!? 余計な事言ってんじゃねえ!」


 アモンさんの指摘にシャーロットさんは顔をみるみるゆでだこのようにさせ、怒鳴りながらアモンさんを睨みつけた。


 「へ、へー」


 「おい、てめえも納得してんじゃねえ! 酒くらい飲める!」


 意外だ。この人、お酒飲めないのか、すごい酒豪に見えてた。俺も前世なら飲んだことはあるが、あまり飲みまくりたいという感情は湧いてこなかった記憶がある。


 「でも~、シャロちゃん~、酔うと可愛いんですよ~」


 「ほんとにお前は余計な事しか言わねえな!!」


 「お二人、仲良いですよね」


 「ただの腐れ縁だよ、魔術学校が一緒だっただけ」


 「もう~、シャロちゃんがボロボロになって帰って来た時、看病したの私なんですけど~」


 「おめえが勝手に世話焼いてただけだろうが」


 「もう照れ屋さん~」


 「うるせえな!」


 シャーロットさんはそれ以上、アモンさんにも俺にも構わず、二人が消えた扉を見つめてイライラしたような態度で席であー、だりぃ、早くしろよと連呼していた。

 しばらくして、俺の席の背後の扉が開いた。やってきたのは料理を乗っけるカートを押したアニスだった。そして、テーブルから少し離れた場所にカートを置くと、俺の方を見てにっこりと笑った。


 「お待たせしたな、アービス! 君のために僕はとっておきの料理を作って――――」


 「いいから早くしろよ! 客はそこのガキだけじゃねえんだぞ!」


 シャーロットさんは、アニスがニコニコしながら俺に報告しているのを遮ってそう怒鳴りつけると、アニスはいかにも不機嫌そうな顔でシャーロットさんの方を見た。


 「君にやる料理なんてないが?」


 「エア・バーニング! エア・バーニングは!」


 「彼なら南の海域で取れた化け物魚を自身の火魔法で焼いているぞ」


 「あいつの料理はなんでそんな本格的なんだ! マジで帰るぞ!」


 「あの~、私のは~」


 「ああ、アモン、君にはあるぞ」


 「は!?」


 「やりました~!」


 表情が憤怒と化すシャーロットさんに、自分にはあって良かったと安堵するアモンさん。だが、さすがになしというのは可哀想だ。俺はアニスに文句を言おうと思った。


 「さすがに無しはダメだろ、アニス」


 「……君はそこの筋肉バカの味方をするのか?」


 「誰が筋肉バカだ!」


 「あのね、アービス、僕は君のために作ったんだ」


 「じゃあ、俺の分をやってくれ」


 「意味が分からないよ、アービス、君はシャロちゃんまで庇うのか?」


 「シャロちゃん言う――――」


 「シャロちゃんは黙ってろ!!!」


 「お、おう……そ、そんな怒んなくても良いだろ……」


 「ほおら、シャロちゃん、少し大人しくしようね~」


 横からツッコミを入れるシャーロットさんにアニスが一喝すると、シャーロットさんは意気消沈したように項垂れ、アモンさんがテーブルに身を乗り出して頭を撫で始めた。


 「アニス、その料理は今、何人前だ?」


 「君とアモンだけだ」


 「おかわりは?」


 「君がいっぱい食べてくれると思っていっぱい作ったに決まってるじゃないか」


 「ならその分をシャーロットさんにあげてくれ」


 「だから、嫌だって言ってるだろ」


 「じゃあ……俺は一つの皿をシャーロットさんとあーんしながら食べ合うぞ!」


 「なんで俺がそんな恥ずかしい事しなきゃいけねえだよ!!」


 「料理を食べれるんだから我慢して――――」

 

 「ふざけるな!! ……アービス、君の冗談は本当に嫌いだ」


 憤怒に染め上げられた目で俺を見るアニスの顔は酷く悲しく、まるで捨てられた子猫のように震えていた。


 「アニス、嫌ならおかわり分をシャーロットさんにやれ、大体、パーティーを組むのにこんなんじゃまずいだろ?」


 「良い……僕はアービスが居ればそれで」


 「良くないだろ? みんなお前をサポートするために来たんだ、お前に嫌いと言われてもシャーロットさんは来てくれたし、エア・バーニングさんはお前の突拍子もない事にも付き合ってくれる、アモンさんはお前を怒ったりしない、俺もお前が大事だからここに来たんだ、誰もすっぽかしてない、こんな素晴らしいパーティー他にないだろ?」


 「だからなんだ! 僕はアービ――――」


 「分かった、なら、お前とあーんし合ってやるから仲良くしろ」


 もうこれしかない。わだかまりは解消しなければならない。こんな事でこんな素晴らしいパーティーが解散したり、大惨事になるなんて許せない。


 「へ? ぼ、僕と?」


 「ああ、だからシャーロットさんにな?」


 「本当かい?」


 「ああ、本当だ」


 「そ、そうか」


 アニスはすっかり照れており、顔を真っ赤にしながらまた奥へ引っ込んでいった。食器は用意しにいったんだろう。


 「お前、すげえな」


 「もう慣れましたよ……」


 シャーロットさんからの感嘆の声に、俺は疲れ切った声でそう返した。

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