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第19話 これが俺のパーティか


 エア・バーニングさんのおかげで若干だが気が楽になった気がする。やっぱりエア・バーニングさんはすごい。


 「さて、着いたな」


 いつ見てもでかいとしか言いようがない屋敷の前に着いたエア・バーニングさんは俺をゆっくりと降ろして、俺も地面に足を延ばして降り立った。


 「ありがとうございました、エア・バーニングさん」


 「いや、元はと言えば私のせいだからね」


 エア・バーニングさんは謙虚に本当に申し訳なかったねと言いながら、屋敷の方に向かい、両扉をノックした。

 すると、勢いよく扉が開き、俺の元へ全速力でやってきた人物が居た。いや、やってきただけじゃないタックルされた。


 「いだっ!?」


 「アービス!!! アービス!! アービス! 僕のアービス! 寂しかったよ!」


 そう言いながら土の詰められた地面に倒れた俺の身体にまたがり、顔を押し付けていたのはアニスだった。なんか午前に離れたきりだが久しぶりな感じだ。


 「ア、アニス、立たせてくれ……」


 「嫌だ! 僕はこうやって君の匂いを嗅いでいないとダメなのに離れた君に優しくする義理はない!」


 「いや、アニスが勝手に盛り上がってどっか行ったんだろ!?」


 「そんな昔のこと忘れたよ」


 「いや、午前の話なんですけど」


 俺も久しぶりな感じはしたが、アニスにかかればそれよりも前に感じているらしい。本当に寂しんぼうなやつだ。エア・バーニングさんの言う通り、確かに俺が居なきゃ冒険にさえ、行かなさそうだ。


 「ほら、エア・バーニングさんも待って――――」


 「……ねえ、アービス?」


 アニスは俺の匂いを嗅いでいると思っていたがいつのまにか、寝転がった俺の方を感情のない目で見つめていた。

 ん? どうした? 今度は何をしたってんだ?


 「な、なんだよ」


 「君の服からスポンジケーキの甘い匂いがする」


 まずい。このままナチの家で食ってたと言えれば良かったが、俺とナチの秘密を初っ端からバラしていてはこれから俺の信用が無くなってしまう。ここはどうにかしないと。


 「いや、あ、あれ? そ、そうかな?」


 「うん、君、どこで誰とスポンジケーキを食べたんだい?」


 「た、食べてない」


 俺を尋問するかのような目が俺の表情や目の動きを捉え逃がさない。ど、どうすれば……。


 「ほんとかな?」


 「勇者様、取り込み中のところすまない」


 「ん? なんだい? エア・バーニング?」


 「いや、もう、シャーロットさ――――」


 「来てやったのに痴話喧嘩してんなら帰るぞ、ガキども」


 エア・バーニングさんの話を遮って苛立った様子で俺たちを見下げたのはシャーロットさんだった。今回はエア・バーニングさん同様、ラフな格好で黒いノースリーブのシャツにダメージジーンズのようなものを履いていた。髪型もポニーテールではなく、流したままだ。槍もお披露目会の槍ではなく、きちんと専用の袋で刃が包まれている穂先が一つの素槍だった。

 シャーロットさんの登場により、アニスの不機嫌の矛先がシャーロットさんに変わり、アニスは立ち上がってシャーロットさんを睨んだ。ついでに俺も立ち上がった。


 「勝手に帰ればいいだろ、僕はエア・バーニングとアービスのご飯係を賭けて料理勝負出来れば良いんだ」


 「ん? 私は別にアービスくんのご飯を作るために勝負をするわけでは無いんだが……」


 ほんとだよ、そんな景品要らないだろ。アニスはエア・バーニングさんの言葉を聞き、眉をしかめる。


 「なんだと! 午前はそういう話だったろ?」


 そんな話は誰もしていない。お前以外は。


 「はぁ? 意味わからん、マジで帰るわ」


 シャーロットは喧嘩腰のアニスの言葉に怒ったのか、その内容に怒ったのか、両方か。分からないが後ろを向いて帰ろうとした。

 俺も帰っていいだろうか。いや、エア・バーニングさんの料理が食べれるなら残りたいが。


 「交流会だから帰っちゃダメですよ~」


 帰ろうとするシャーロットを止めたのはアモンさんだった。アモンさんはヤギの着ぐるみのままだった。この人、これが私服なのかな? いや、図書館に居た時はちゃんと魔女の制服だったな……。私服か、これ。


 「おい、アモン、お前、飯食うのにそれだと汚れが落ちねえぞ」


 そこか? そこが問題なのか? 他にもいろいろあるだろ。だが、ツッコまない。シャーロットさんは俺を毛嫌いしている可能性が高い。ここは小粋なトークで心を懐柔してみよう。


 「シャーロットさん、今日はラフなんですね」


 「ああ? 当たり前だろ、なんでプライベートでも鎧着てなきゃいけないんだよ」


 「で、ですよね」


 小粋なトーク終了。だが、うるせえ、殺すぞと言われていないので良いのかもしれない。


 「てゆうか、お前も勇者もなんで学生服なんだよ」


 「一番動きやすい服だったんで……」


 「はぁ……お前ら、あれだぞ、こういうプライベートな時はもっと砕けた格好じゃねえと雰囲気出ないだろ」


 「そうですよ~、学校もお仕事も無い日なんですよ~? もっとリラックスできる格好じゃないと~」


 「てめえはリラックスしすぎだ、みんなでパジャマパーティーやるんじゃねえんだぞ」


 「私、寝る時はうさぎさんじゃなくて熊さんですよ~」


 「んなこと聞いてんじゃねえんだよ!」


 天然なのか何も考えていないのか、どちらか分からないアモンさんに、ツッコむシャーロットさんは最終的に俺とアニスを放置して二人で言い合いを始めてしまった。


 「そんな馬鹿ども、放っておいて僕らは中に入ろう、アービス」


 「あ、ああ」


 俺はそう言ったアニスに手を引かれる。俺の手を強く握るその手は本当に寂しかった事を俺に伝えてきた。


 「さぁ、彼らに置いていかれてしまうよ、私たちも行こう!」


 「あぁ? しょうがねえなぁ、飯食ったらかえっからな」


 「私はパジャマパーティーしてもいいんですよ~?」


 「しねえよ」


 「シャロちゃんは恥ずかしがり――――」


 「シャロちゃんっていうな! 後、恥ずかしがってんじゃねえ! めんどくさがってんだ!!」


 アニスに手を引かれる俺の耳に入ってくる声に、俺は笑みをこぼした。

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