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第16話 頭を撫でるのは難易度高すぎ……ます


 学校をサボる事を決めたナチを連れ、一度王国から離れ、自身の村へと帰った。家には誰も居らず、女の子をこっそり家に上げているようで少しいたたまれない気持ちになった。

 一応、あの大きな家に引っ越す準備もしなきゃいけないという事をナチに話すと手伝います! と言われ、お言葉に甘え、俺の家でナチと共に荷物を纏めていた。


 「えっと、魔法の巻物に、秘伝書、短剣に地図、師匠から貰った日本刀は袋に入れたまま肩に掛けれるようにして……」


 「あ、それなら私が肩に掛けれる紐を付けてあげましょうか?」


 「本当か? もしやってくれるなら助かるんだが」


 「ぜひ! やりたいです!」


 「後で紐の制作料をふんだくろうとしても無駄だからな?」


 「そんなことしません!」


 頬を膨らませて意地悪なんですからっ! と怒るナチ。十五の時からこんな感じだが一桁台の年齢の時のナチと会っていたらロリコンになってた自信があるぞ。


 「にしても、アービスくんの家に来たのは久しぶりですね」


 「そういや、そうか、俺もナチの家には随分言ってないな。ナチの両親は元気?」


 「父が私を無駄に溺愛するところ以外は大丈夫です」


 ナチの父はナチに過保護だ。俺が遊びに行った時もどんな関係とか、ナチを狙っているのかなどめちゃくちゃ聞かれた。その後、ナチにこっぴどく怒られてその時は退散していったが。ナチの父は神父補佐という神殿に居る神父を支える仕事をやっているが、王都内に住むよりうちの村の方が落ち着くと言う事で引っ越してきたらしい。ちなみにナチの母もシスターとしてナチの父と共に働いていた。


 「そうだ! これから私の家で一緒にまたスポンジケーキでも作りませんか!?」


 「急だな……うーん、でももう夕方だしな」


 昼過ぎからやっていたこの荷物を纏める作業をしていたせいですでに夕方に差し掛かっていた。行く前に一休みしたいのだが……。


 「だ、ダメですか……?」


 しょぼくれた顔をしながら上目遣いでダメですか? とか反則過ぎる。まぁ、どれくらいで行けばいいのか分からないが、夜に勇者借家に行けば大丈夫だろう


 「い、いや、大丈夫、だろ! 日が暮れる頃には行かなきゃだけど、それまでナチの家にお邪魔しようかな?」


 「はい!」


 ナチの顔が晴れやかになり、その表情は太陽のようにまぶしかった。この笑顔には弱い。というより、アニスもそうだが、基本的に笑顔が可愛い子が多すぎる。


 ――――


 俺の家から少し離れた場所にあるナチの家へと向かった。ナチの家は、白い石の壁で出来た立派な家で、この村ではかなり目立っていた。所々にある偶像は神を崇拝するための道具だ。村の老人たちはここを教会代わりにしている者も居り、ナチの父はそんな人を見かけると普段は神父様が言う言葉を代わりに掛けてあげたりもする。


 「まだお父さん、帰ってないみたい、お母さんも居ない」


 無人の家に女の子と二人きりというシチュエーションは心臓に悪いが、昔から馴染みのナチだからまだ大丈夫だ。俺は心を落ち着かせ、ナチの家にある料理場に立った。

 料理場には、包丁やパンを叩いて伸ばす棒や、かまどに鍋もあった。どれも魔法器だ。魔力を注ぎ込めば動く。包丁とか棒は関係なく魔術無くても誰でも使えるが。

 

 「さて、じゃあ、作るか?」


 「はい! アービスくんは手伝ってくれるだけで良いですから!」


 「あいよ」


 ナチはニコニコしながら、白いエプロンを付けていく。似合うな。ナチのエプロン姿はかなり似合う。まぁ、前も見ているから初見でないがいつ見ても似合う。もう似合うという言葉以外出てこない。ナチと結婚できる人は幸せ者だな。


 「似合ってるなエプロン」


 「え!? え、あ、あ、ありがとうございます……」


 顔を赤くしながら下を向くナチ。褒めるとすぐ照れるなこいつ。変なおじさんとかに褒められたらあれよあれよという間に路地裏とかに連れ去られそうだぞ。大丈夫か?


 「ナチ、褒められてそんなに照れるようじゃ、隙だらけだぞ」


 「敵は褒めないと思いますよ……?」


 「世の中には今日の友は明日の敵って言葉があるんだよ」


 あれ? 反対だったかもしれない。今日の敵は明日の友? だっけ?


 「じゃあアービスくんが敵になっちゃうんですか!?」


 「まぁ、そういう日が来るかもしれない」


 百パーセント無いが。ちょっと意地悪だ。俺は目と鼻の辺りに手を置きながら、まるで世の中の非情を恨むようにナチを手の隙間から見つめた。

 あ、やばい。俺はナチの様子を見てすぐにやばいと感じた。


 「い、嫌です……アービスくんと敵は嫌です……うぅ」


 ナチはガチ泣きを始めていたのだ。ナチの目から大きい涙の粒が食事場を濡らした。俺はまずい、またいじめすぎたと後悔しながら、ナチの顔の位置まで足を屈め、泣きじゃくるナチを見た。


 「本当にごめん! ナチ! 冗談だから! 俺が悪かったよ!」


 「で、でも、アービスくん、敵になるんですよね……」


 「ならない! ならない! 嘘嘘! 俺は味方だよ!」


 「本当ですか?」


 「ああ、ただナチに意地悪したかっただけ」


 泣くのをだんだんやめていくナチ。声は湿っているがなんとか機嫌を直せたみたいだ。だが、ナチの顔が少し怖くなっていく。


 「あの? ナチさん?」


 「そんなに私を泣かせて楽しいんですか!?」


 「い、いや! これは一種の愛情表現?」


 「あ、あ、あ、あ、愛情って! 何言ってるんですか! それに愛情表現ならもっと別のが良いです!」


 「よしよしとか……?」


 「そ、それは難易度が高すぎます!!」


 「え!? じゃあどうしろと!?」


 「そうですね……手を握るとか?」


 小学生でも言わないような事を十八のお前が言うのか!? 逆に怖いよ! そんな純粋無垢な生物だとは思わなかったよ!


 「……じゃあ、握る?」


 「い、いえ! 今日は校門でアービスくんの腕を引っ張ってしまったのでもう胸がいっぱいです」


 胸の隙間の残量はもっと増やした方が良いと思う。これから先困るだろう。腕を引っ張っただけで胸がいっぱいになっていては。

 だが、すでにナチは腕を引っ張った時の事を思い出したのか、胸に手を当てて機嫌が良さそうだったので、放っておくことにした。

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