第15話 今日だけ特別……
俺はアニスとエア・バーニングさんの料理対決とかいう謎の勝負事を夜に控え、一度、勇者の家ではない実家に帰ろうと歩みを進めていると塔の方から駆け寄ってきたナチと昨日ぶりの再開を果たした。
「か、帰るんですか?」
「ああ、今日はもう疲れたし、あんまりここに居ると迷惑になるから多分、卒業式まで来れなさそうだ」
「そうですか……」
「ごめんな、寂しいよな、俺とアニス、どっちも居なくなるんだから」
俺はナチの顔が寂し気になるのを見て罪悪感が湧いてくる。いきなりボッチにされるなんて嫌だもんな。だが、俺だけ登校したとしても、場違いと言われ陰で罵られてしまう。そんな学園生活を卒業間近に送ってみろ。トラウマになってしまう。
「い、いえ、でも、あ、あの!」
「ん? どうした?」
なんだ? そんなおっかなびっくりな状態で上目遣いをしてきて、俺の庇護欲を沸き立たせてどうするんだ?
「きょ、今日は私もアービスくんとさぼ、さぼ、さぼ」
「サボテン?」
「違います! さぼろろろうかな……」
俺に衝撃が走った。あの真面目一辺倒のナチがサボる!? ボッチ生活一日目でもうそこまで心が荒んでしまうとは……。だが、ナチはどこかそわそわしていて、なんだか居心地が悪そうだ。
「マジで言ってるのか?」
「は、はい!」
「え? サボるの意味わかってるか? サボタージュってポタージュスープの仲間じゃないからな?」
「それくらい知ってます! バカにしないでください!」
いや、ナチの事だから違うんですか? と涙目になりながら言ってもおかしくない。いや、おかしいか。
「ポタージュスープ好き?」
「? ええ、好きですけど」
「そっか、じゃあな、ナチ」
「え? どういうことですか! ちょっと待ってください!」
適当な事を言い、サボる気を無くさせる作戦は失敗したらしく、ナチに服の裾を掴まれてしまった。
「誤魔化せなかったか」
「誤魔化せるわけないじゃないですか!」
「いや、ナチならいけそうだなって」
「馬鹿にしすぎです! アービスくんの意地悪! もう知りません」
「そうか、なら残念だが、サボるのはやめだな。俺と一緒にサボりたかったんだろ? でも俺の事を知らないって言うならサボれないな」
「あ……」
すごいシュンとしてしまった。下を向いて目を泳がすナチに俺は肩を叩こうとしたが、その前に袖を小さな手で引っ張られてしまう。そして、ナチと視線が同じくらいになるまで引っ張られるとナチとの顔の距離が近くなり、涙目になっているナチと目が合った。
「あ、あの、謝りますから、一緒に、サボりたい、です……ごめんなさい」
あ、ていうかもうガチ泣き寸前じゃねえか。さすがにいじめすぎたか。本当はサボってほしくないんだけどな。しょうがない。
「はぁ……分かったよ、一緒にサボろう」
「ほ、ほんとですか!?」
「ああ、今日だけな」
「はい!」
ナチは涙を制服の袖でふき取ると、えへへと笑ってきた。こんなの神官として神殿に置いといたら新興宗教出来ちゃうぞ。
「じゃあそろそろ行こ――――」
「まだ居ましたか、良かった」
「あれ? 師匠?」
「テンカイ先生?」
塔の方からやってきたのは何やら長い布袋を持った師匠だった。ナチももちろん知っていて、俺とナチはお辞儀をすると頭を上げた。
「どうかしたんですか?」
「いえ、これを渡そうかと」
そう言って差し出された布の袋を受け取り、俺はそれを見て、目を見開いた。これは――――赤い鞘に入った日本刀だ。多分、この世界の日本刀だから日本刀の類似品だ。きっと師匠の着ている和服と同じ国から輸入したものだろう。
「こんな高そうなもの受け取れませんよ」
「いえ、勇者様のパーティーに入ったのならこれくらいの武器は必要ですよ、私のお気に入りの国で使われてる武器でして、私も気に入ってるんですよ、是非、受け取ってください、勇者パーティー参入おめでとう、アービス」
「あ、ありがとうございます!」
俺は感極まった。こんな贈り物を貰えるなんて思っていなかった。思わず涙が出そうになる。だが、俺みたいなコネで入ったも同然の奴が持っていて良いのだろうか。
「そういえばナチさん、授業は?」
俺が感極まってその日本刀を舐め回すように見ていると、師匠の矛先が授業に出ているはずのナチに変わった。まずい。
「い、いえ、あの……」
「いや、あのですね! 師匠!」
なんとか言い訳をしようとした時、師匠は俺とナチの顔を交互に見てにっこりと笑みを浮かべた。
「構いませんよ、早退届、出しておきますね? ナチさん」
師匠はそう言って許してくれた。しかも早退届が出ていればサボりにはならない。さすが師匠だ。
「ありがとうございます!」
「師匠! 本当に何から何までありがとうございます!」
「いえ、これも勇者パーティー参入のお祝いだと思ってください、でもナチさん? これが癖にならないよう気を付けてくださいね? 癖になったら大変ですよ」
「は、はい!」
「じゃあ、行こうか、ナチ」
「行ってらっしゃい、ナチさん、アービス」
俺とナチは師匠に見送られ、校門を後にした。やはり師匠は人間が出来ている。さすが俺の師匠! 俺は貰った日本刀入りの袋を自慢げに持ちながらナチとサボりに向かった。




