第13話 僕の料理以外を食べたいなんて言う君は嫌いだ
エア・バーニングさんのお誘いを断るはずもなく、俺としぶしぶだがアニスも勇者パーティーのパーティーに行くことに決めた。
「場所は国から提供してもらった私の家にしようかと思うんだが……」
「それなら僕の家を使ってくれて構わないよ、まだ使用人も召使も居ないから料理は自己負担だが。君の家より広いしね」
「本当かい? 料理なら大丈夫、私が料理しよう!」
「え? エア・バーニングさん、料理できるんですか? 食べてみたいです!」
「君はまるで好きな人の前で浮足立つ女子みたいな反応をして恥ずかしくないのかい?」
「尊敬してるんだよ!」
「尊敬されるほどの人間じゃないが……うむ。良いだろう、味は保証しよう!」
意外だ。この人はなんでも出来るんだな。俺でも火の魔法を使って何かを焼くくらいしか出来ないのに。
この世界では魔法が充実しており、魔法器と呼ばれる家具で料理を作る。俺は前世から料理は苦手なせいかこの世界でも苦手だ。
「僕の時はそんな目をキラキラさせて言わないくせに……」
横で不穏になるアニスが耳元でそう呟いた。エア・バーニングさんはアニスの声が小さくて聞こえていないのか、頭に疑問符を浮かべながらこっちを見ていた。
「ア、アニス?」
何となく小声で返答する。小声で話しかけられると小声で返したくなるよね。だが、アニスは不機嫌なオーラをびんびんに出しながら俺の目を見た。
「僕のよりもエア・バーニングの料理の方が食べたいのかい?」
「いや、そういうわけじゃないけど、ほら、エア・バーニングさんがそういうの作れるの意外だろ?」
「なら僕だってアービスにもっと意外なものを作って上げれるよ」
アニスはまた拗ねだしてそういうことを言い出した。俺はエア・バーニングさんが作るのが意外で、意外なものを食いたいわけじゃない。
「い、いやそんな意外性が無くても……アニスのご飯かなり好きだぞ? 学校のある日は毎日アニスの昼ご飯食べてるんだし」
そう、俺は幼馴染が何時間も掛けて作ってくる昼ご飯を毎日食べていた。アニスはガサツそうに見えて料理は案外うまいのだ。ただ、毎日、俺の昼飯に何時間も掛けさせて悪いなと思っていた。
一度、アニスに昼飯なら買うし、毎日作らなくても良いんだぞと言ったら。
「アービスは僕の作った料理で成長してくれ、というより僕の作った料理に不満でもあるのかい? それとも別の娘に作ってもらうのかい? そういえばナチが作ったスポンジケーキが美味しいと自慢していたね? いつ食べたんだい? 僕が居ない間にスポンジケーキを食べるくらいだから他にもいろいろ食べさせてもらってるんだろうね? ね?」
と意味の分からないことを言われた。その日はちょうど、アニスは最上級向けの講義があり、俺たちと帰る時間が違ってたまたま暇だった俺はたまたまナチから遊びに誘われ、家に行き、スポンジケーキをごちそうしてもらった。たまたまの連続が続いただけの日だ。
「そ、それは嬉しいけど! 今日も学校に行くなら作ってきてあげたのに……」
アニスは俺が料理を褒めたのを聞き、頬を赤らめると俺から離れ、エア・バーニングさんにも聞こえる声量でもじもじとそう言った
「おや、アービスくんの昼ご飯は勇者様が作っているのかい? とても仲が良くて素晴らしいね!!」
「当たり前だ! アービスは僕のご飯しか食べれないんだ!」
「そんなことは無いが!?」
「ふんっ! なんならエア・バーニング! 僕と君の料理、どちらがアービスを満足させられるか勝負でもするかい!?」
「ちょちょ、落ち着けって」
なぜか熱くなっていくアニス。そんなわけが分からないことを言ってエア・バーニングさんが困るだろうに。俺はなだめようとアニスに続いて、立ち上がる。なぜかさらに真横のエア・バーニングさんも立ち上がった。
「面白い! 勇者様! 私はそういうチャレンジ精神あふれる誘いは大好きだ! だが、審査員はアービスくんだけではなく、シャーロットさんやアモンさんもだ!」
「え!? エア・バーニングさん!?」
「むっ、仕方ないな、その二人のために料理する気は起きないが、僕にだってプライドがあるんだ!」
どんなプライドだよ! 別に料理人じゃないだろ!! だが、エア・バーニングさんまでやる気を出してしまったため、アニスとエア・バーニングさんどちらを説得してももう無駄だろう。どんな展開なんだこれ……。
「では、ルールを決めよう! 三品作って審査員たちに食べてもらう! そして勇者様か私の料理、どっちが美味しかったかを競おうではないか!」
「良いだろう! エア・バーニング!! 勇者を舐めるなよ!」
「いや、勇者関係ないだろ……」
「アービス! 僕は一足先に帰って、料理勝負のための機材を用意してくるよ!」
「おいおい、まじでやるのか」
「マジに決まってるだろ! アービスのご飯係は僕なんだぞ!」
「そんな係、初めて聞いたよ……」
「よし、私も帰ろう! すまないがアービスくん、この昼食を妹に届けてはくれないだろうか? 私も色々と準備があってね! よし! 燃えてきたぞ!! このエア・バーニング! 全身全霊を懸けてこの料理勝負に挑もうではないか!!」
「わ、わかりました」
その後、俺に昼食を預けたエア・バーニングさんと、なぜか俺の飯係という謎の役職を言い張るアニスの二人は俺を置いて、帰ってしまった。
「あー、ところでこれ勝ったら何があるの?」
俺の感想はその一言がすべてだ。だが、二人はすでに居なくなっており俺の疑問に答えてくれる人物は居なかった。シャーロットさん辺りは文句を言いそうだな。なんだよこの茶番は! とか言って。
「おや、聞いてはいましたが、まだ居たのですね」
俺がこれからの出来事を危惧していると、二人の代わりに入ってきた人物が居た。凛々しいその男の声は、俺の剣の師匠、テンカイ師匠だった。
テンカイ師匠は三十五ほどの男性で、穏やかな顔で、身体の線も細いが、剣の腕では国一番だと俺は思っている。
ただ魔法の才能が無いので最上級クラスどころか下級クラスらしい。逆にシャーロットさんなんかはテンカイ師匠と同じく武闘派だが、飛びぬけた武具の属性エンチャント魔法や加工魔法の才能も持っているため最上級になっている。
この国では魔法の才能が無ければ下級、そこそこ魔術が使えるなら中級、そしてナチのように神官などの特定の職に就ける程の魔術力を持つものを上級。その中でも飛びぬけたアニスやアモンさん、エア・バーニングさんのような魔術力を持つのが最上級だ。
魔術は生まれながらの素質もあるし、素質が無くても戦って目覚める場合もある。
ちなみに俺は上級だが、特定の職に就くというよりはその魔力なら専門の魔法を使う職は無理だけど、専門の魔法が要らない職なら騎士団にも入れるオールラウンダー型だ。まぁ、騎士団に入ろうなんてこれっぽちも考えたことは無いが。
「久しぶりです、師匠」
「ええ、久しぶりです」
だが、俺はこの師匠も尊敬する人の一人だ。魔術など関係なく剣の腕に惚れたのだ。師匠は俺に近づくと島国から輸入したという前世の時に俺が過ごしていた日本の和服そっくりの青い服を着て、長い銀色の髪をなびかせる。理由は分からないが、左腕を失っており、袖が膨らんでいないのが特徴的だ。だが俺は片腕だけの師匠に勝てたことが無い。それほど強い人物だ。
「師匠、久しぶりに一本どうです?」
「その荷物は良いのですか?」
師匠に指摘され、俺は右手で持っていた昼食を見た。あ、つい、師匠が来て忘れてしまっていた。昼までには届けないといけないのに。
「あの、今昼ですか?」
「そうですね、急ぐなら早くした方が良いのでは?」
「あ、え、えっと、これ、エア・バーニングさんの妹さんになんですけど」
「おや、エア・バーニングさんのですか? なら、二年生の六階に居ると思いますよ?」
「す、すいません! 師匠! ありがとうございます!」
「いつでも来てください」
「ありがとうございます!」
俺はそう叫んで職員室を出た。急がなければ昼が終わってしまう!




