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第12話 本当は帰るつもりだったんだけどね


 アニスを説得した俺はアニスを連れて魔術学校の塔に前に立っていた。校門のような場所を抜けて塔に入り、階段を上って三階を目指していた。

 だが、来る際中もそうだが、アニスは未だに納得できていない様子で拗ねたような表情を浮かべている。


 「やっぱりやめないか? 今、帰るなら僕がいっぱい甘やかしてあげるよ」


 「アニス、往生際が悪いぞ」


 「そうだ、君は分かってないかもしれないが教室に入ったら大騒ぎだぞ。しかも授業中だ。混乱させるといけないから今日は帰ろう?」


 さすがにしつこいな。だが、確かに勇者が入ったら大騒ぎになるかもしれない。なら、ここは無理強いはやめとくか。


 「はぁ、じゃあそんなに嫌なら一人で帰っても良いぞ?」


 「へ?」


 これなら気兼ねなく帰る……ってめっちゃショック受けたような顔になってる!? 言い過ぎたか?


 「……やだ、行くから、一人にしないで、わがまま言ってごめんなさい、おねがいだから置いていかないで」


 「い、いや、本当に気を遣って帰っても大丈夫って……」


 「嘘。僕の事がめんどくさくなったんだろ。だから帰ってほしいんだ。アービスはそうやって僕を遠ざけて他の……いたっ!」


 つい、軽くだがチョップをしてしまった。こうすれば少しは大人しくなるだろ。


 「な、何をするんだい? 叩かなくたって君の言う事なら何でも聞くよ」


 「いや、人聞きの悪い事言うなよ。俺は自分の欲求のために暴力なんか振るわないぞ」


 「知っている。優しいからな。でも軽くでも叩くのは止めてくれ。普通に痛いんだ」


 「それは悪かったよ。でもお前も少し考えすぎだ、付いていきたいなら付いてくれば良いだろ」


 「……うん、そうだね、ごめん。君の事を離さないようにずっと――――付いていくよ」


 それは少しごめんだが、授業に参加する気が多少起きたならこれ以上、ツッコむのも無粋だろう。俺はアニスを置いて三回の転移門の前に立った。


 「ほら、行くぞ」


 「あ、待ってよ、アービス」


 俺が急かすとに立ち止まって何やら照れていたアニスは慌てて俺の後を付いてきた。まぁ、確かにめんどうな時もあるけど大事な幼馴染だし、嫌いにはならない。可愛いしな。


 ――――


 「追い出されたな」


 「だからやめようと言ったんだ」


 あの後、教室に入ったら有名俳優が入ってきたかのような大混乱が起き、担当していた教員がお前たちが居ると授業にみんな集中出来ないから、ちょっと職員室で待ってろと言われてしまった。

 職員室は塔の七階にあり、教員たちが詰めている場所だ。俺とアニスは転移魔法で飛ぶと、そこはかなり綺麗な庭園のような場所で、中央には大きな池があり、その池には前世の世界には居なかった魚などが泳いでいる。俺たちはその大きな池のの真ん中にある白い空間に行くと、ベンチのようなものに座って池を眺めた。


 「まるで老後の様だね。そうだよ、老後ならアービスとこうしてても誰にも邪魔されないかもしれないね」


 「まだまだ若いのにもうそんな事考えだしたら後が地獄だぞ」


 「僕はもう今のまま時が止まってほしいよ」


 「今度は卒業間近の生徒みたいな事言ってんな、まぁ、今の俺たちはそっちの方がピッタリだけどさ、でも良いだろ、これから勇者として崇められるんだから、アニスもなりたがってたじゃん」


 「それはそうだけどさ、それゃなれた時も嬉しかったけど今はもっとなりたいものがあるよ」


 「贅沢なやつだな」


 「勇者になるより、難しそうだけどね」


 本当に贅沢すぎる。お前の隣には内定貰っててもなれなかった負け犬が居るんだぞ。まぁ、アニスを責めても仕方ないから言わないけどさ。


 「やぁ! 君たち」 


 「あれ? エア・バーニングさん?」


 俺とアニスが話している空間にエア・バーニングが声を掛けながらやってきた。相変わらずその体格の良さに目が惹かれる。だが、今日は白いローブではなく、青い革ジャンのようなものを上着に下に白いシャツを着ていた。実際には革ジャンでは無いんだろうが前世の世界の革ジャンと似ていたのでそう呼んでいる。

 するとアニスはまるで突然現れたゴキブリを見るような目でエア・バーニングさんを見た。


 「どうしてここに居るんだ? エア・バーニング?」


 「いやね、私は妹に昼ご飯を届けに来たんだが、授業中らしくてね、騒ぎになるから私もここで待っていろと言われた、最初から教員に預けて帰ろうと思ってたんだが、君たちが居ると聞いてね、お邪魔だったかい?」


 「ああ、邪魔――――」


 「そんなことないですよ!」


 失礼だろ! アニス! と叫びたかったがここはアニスのセリフを掻き消すことでなんとかなった。


 「そうかい? なら隣を失礼するよ、アービスくん」

 

 爽やかにそう言いながら、俺の横に座るエア・バーニングさん。すごい緊張してきた。

 アニスはなぜかため息を吐いたが、どうしてだろう。というより、アニスはこういう有名人に興味が無さすぎる気がする。まぁ、有名人に興味ない人が居ても不思議ではないが、もう仲間なんだから少しは交流をしても良いと思う。


 「妹さん居るんですか?」


 「ああ、君たちの一個下でね」


 「でもエア・バーニングさんほどの妹さんなら目立つと思うんですけど、聞いたことありませんでした」


 「私はもう兄であって、兄ではないから……」


 エア・バーニングさんは普段とは違った少し寂し気な顔を浮かべた。出会ったばかりだし、ずかずか聞いても悪いかな?


 「それはどういう意味だい?」


 アニスはそういうのずかずか聞くタイプだったな。そうだった。


 「いや、何でもないんだ、気にしてないでくれ、そういえば、今日の夜、シャーロットさんとアモンさんを加えてみんなで交流を兼ねた食事会をしようと思うだが、どうだ――――」


 「是非!!」


 つい食い気味になってしまった! だが、尊敬している人に食事に誘われるなんて夢みたいだ。


 「そ、そうかい、そんなに喜ばれるとは思わなかったよ、勇者様は?」


 「アービスが行くなら行くよ」


 少し不満気にそう言うアニス。うーん、やっぱり俺にべったりなせいでこんなにも他の人との交流を嫌がるようになってしまったのだろうか。

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