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第99話 目覚めのキスは必要だ


 ナチとアニスを同じ場所で寝かせ、なんか二人揃った寝顔を見るの飽きねえなおい。とか考えながら元々の使命を思い出した俺は再度、見回りに出た。シャーロットさんやガリレスさんはどこに行ったのだろうか。アモンさんも居なかったし。

 でもペロパリのやつ、何をする気なんだ? 元々から用意してあった策だろうからもう準備を終えて開演待ちか? 出来れば子どもたちや国民を巻き込みたくないのだが……。


 「お、どんどん人が増えてるな」


 図書館の中央館には子連れや魔術士が大勢立っていた。全員、朗読会の出席者なのだろうか。すごいな。


 そういえば、この時期にこんなことをしてるなんて知らなかったな。何をやってたんだっけ。ああ、アニスと一緒に居たから分からなかったのか。そういえば、最近、十八年間暮らしてきたはずなのに王国の知らない事がどんどん分かってきている気がする。昔は村に居るから王都の事なんか分からなくて良いと思っていたが、ちゃんと目を向ければアモンさんの朗読会もきちんと一作目から見れたかもしれない。


 「ちゃんと目を向けてこなかったからな……」


 前世でもほとんど家で勉強していたし、警察になりたかった俺は不満を覚えなかった。だが、この世界ではもう気張る必要ないんだよな。楽しめるうちに楽しまねばならないのかもしれない。


 「おお! あなたはアービスさん!」


 「ハリーさん?」


 「はい、あの……娘は……」


 「あ、えっと、実はどちらも家に居なくて昨日は帰ってしまったんです、報告が遅れて申し訳ありません」


 咄嗟に出た嘘だった。だが、ハリーさんは顔の表情を落とさず、俺の肩に軽く手を置いた。


 「大丈夫です、協力してくれただけでも感謝していますよ」


 「あ、ありがとうございます」


 よほど俺の方が落ち込んだ表情をしていたのかもしれない。だが、まさか、娘が操り人形になっていますなんて平気で言えるほどのメンタルを持ち合わせてはいない。


 「にしてもやはり王都での催し物には人が大勢来ますね」


 「人口が多いですからね」


 「緊張してしまいますよ、まぁ、私は前座なので」


 「いえいえ、前座で盛り上げるのはとっても大事な仕事ですよ」


 「そうですね、ありがとうございます、お若いのにしっかりされてて素晴らしいですね」


 「そ、そんなそんな……」


 なんか素直に褒められて嬉しいな。俺は少し顔をにやけさせてしまったかもしれない。前の酒場のおっさんのような常識人の人と会話をするとなんだか心が洗われるようにすっきりする。変人が知り合いに多すぎて供給過剰になってしまっているせいだろうか。癖のある人が多い国だなそう思うと。


 「では、私は前座を盛り上げるため、もう一度確認をしてきますね」


 「はい! 頑張ってください!」


 俺はハーリーさんを激励した。先ほどのお礼を兼ねてもいるが純粋に応援がしたくなったのだ。


 「さて、俺も見回るか」


 その後、ハーリーと別れた俺はライジン館からウィンド館、中央館をしらみつぶしにペロパリの目論見を潰そうと東奔西走したが、まったくの手がかり無し。やはり、すでに準備は終わっているのだろうか。あの家のように図書館全部を幻覚にかけることなど出来る可能性は無いとは言えないが低いし、念入りな準備が必要なはずだ。


 「アモンさんが居れば詳しく教えてくれるかもしれないけど……」


 余計な不安を与えないよう、ペロパリの事を話さなかったが彼女の知識が必要なのかもしれなかったと少し後悔をし始めたが、後悔先に立たずというやつだ。仕方ない。始まるまで何もしないと言うなら現行犯逮捕しか無いな。


 「さぁ、ホシはどこから現れるかな」


 気分転換に刑事ごっこをしてみたが、ちょっと恥ずかしいな。やめよう。

 

 「そこに椅子置いて!」


 「はい!」


 壇上が騒がしくなったな。そろそろ始まる時間か。ナチを起こしに行こう。


 ――――


 「ナチ?」


 事務室で寝ていた二人の寝顔を見つめ、ナチの肩を揺らすとナチは身体をビクンと動かし、怯えるように上半身を起こし、左右を見て、俺の方を見た。


 「アニ……アービスくん?」


 「おう、大丈夫か? アニスなら隣だ」


 「ほんとだ、アニスちゃん寝てる」


 「早起きしたせいだな、こいつ朝弱いからな」


 「アニスちゃんのそういうところ可愛いですよね」


 「ビビり散らして気絶したお前も充分可愛かったぞ」


 「ビビり散らしてないです! ただ気絶しただけです!」


 「それはそれで何かの病気を疑って不安になるからやめてくれ」


 「あ、えっと、大丈夫です! ただ驚いて気絶しちゃっただけです!」


 「それは分ってるから大丈夫」


 「むう」


 「ほら膨れてないで中央館に行った方が良いぞ、そろそろ始まるぞ」


 そう言えばナチは慌てて立ち上がると俺の方と事務室の扉を交互に見た。


 「俺なら後で行くから」


 「わ、分かりました! また後で!」


 俺が心配させないようにそう打診すれば、ナチは嬉しそうに扉から出て行った。さて、後はアニスを起こすだけか。


 「アニス、アニス、起きろ」


 「目覚めのキスが無いぞ、アービス」


 「前からそんなことしてないだろ」


 「……おやすみ」


 「おいこら、アニス」


 「分かったよ、おはようアービス」


 「おはよ、よく寝れたか?」


 「ああ、君が他の子とイチャイチャし始めなければ気持ちの良い目覚めだったかもね」


 起きてたのか。アニスは俺の首に両手を回し、拗ねたような表情で自ら重りになって俺の頭を下げさせると唇を俺の唇に触れさせた。


 「おい、アニス……」


 「おはよう、アービス」


 そんな風に笑うアニスに俺は照れすぎて文句が言えずにただ黙ってしまった。


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