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第98話 マーチ、マーチ言いすぎてゲシュタルト崩壊した


 「そういえば帯刀をしているということは何かあるんですか……?」


 「まぁ、一応、警戒だけな、そういえばナチはペロパリって知ってる?」


 「ペロパリ・ディーバさんですか? クロエちゃんと張り合っていた時に使ってた本を書いている方ですよね?」

 

 「そうそう」


 さすが図書館大好きな娘は違う。十五の頃まで絵本を見て目をキラキラさせていた経歴は伊達じゃないな。

 

 「ペロパリさんの詩は悲しいのであまり読んでないんですよね……」


 「まぁ、悲しい詩しか書けないようだし」


 「それに私に詩は早いと思うんです!」


 「へ? 早いも遅いもあるか?」


 「はい! 私は詩を嗜む人のように風の声も聞こえませんし、動物が歌っている所もまだ見ていません! なので詩は早いです!」


 この娘、比喩表現って知らないのかな? 


 「比喩表現だぞ、ナチ」


 「え? 物語でお人形さんのような顔だとかで使われる表現ですか?」


 「そう、ナチの顔は天使の様だとかな」


 「ててててててて!! 天使!? や、やめてください! アービス君! 照れますよ!」


 「もう照れてるじゃないか、それに館内は静かにだろ?」


 「あ、そ、そうでした……アービス君の冗談のせいなのに」


 眉を下げ、申し訳なさそうにするナチの可愛さよ。だが、冗談だと捉えられるのは心外だな。俺はナチは肩を叩いて耳打ちをする。


 「天使っての本当だぞ」


 「ほ、ほんひょうにひゃめてくらはい!」


 「大丈夫か? ほぼ何を言ってるか分からなかったぞ」


 「アービシュくんのせいれす!」


 呂律が回っていない口を動かし、俺を責めるナチ。ここまでとは。ナチは照れ屋さんだな。


 「おい、ガキがガキいじめてんじゃねえぞ」


 「ひいぃ!?」


 ナチで遊んでいた俺の耳に聞き覚えのある低い女性の声が滑り込んで来た。するとナチが悲鳴を上げる。 今度はあの人かと振り向けば俺は眉をしかめた。その格好がこの場所と死ぬほど合わないせいだ。その人物は黒い鎧でガチガチに固め、珍しくフルフェイスの兜を被り、黒い黒曜石の刃で出来た十字槍を持ったシャーロットさんだ。


 「どこの戦争に行くんですか……?」


 と恐る恐る聞けばシャーロットさんのくぐもった声が聞こえてくる。


 「アモンに頼まれたんだよ、来てくれって」


 「それは朗読会に来いと言う事で、重装甲で守れという意味ではないのでは……?」


 「んだよ、わりいのかよ、この格好じゃ」


 「その格好で朗読会なんか出席したら子どもビビり散らしますよ、物語に集中できないんで辞めてください」


 「ちっ! たくうるせえなぁ! 大丈夫だよ! 物語にリアリティが増すだろ」


 「多分、アモンさんの話にリアリティ無いですよ! ファンタジーらしいんで!」


 「お前、アモンのやつ見たことあんのか?」


 「無いですけど……」


 「はっ、もったいねえな。MarchWarsで俺みたいな恰好をしたディラスとかいう騎士と王女から傭兵になったマーチが激闘の末、結婚すんだよ」


 「話が突飛すぎてわかんないです、つまり、そういう鎧の奴が出てくるから大丈夫だと?」


 「その通りだ」


 実写映画にその原作のコスプレで来るコスプレイヤーみたいな考えしてるなこの人。


 「でも今日の話、最後に王子様とマーチが握手して終わるって……」


 「ああ、ディラスはMarchQuestⅡで死んだからな」


 過去作で死んでんのかよ。死に別れを背負ったヒロインで最新作は過去話って。


 「あの、最新作の時系列ってどこなんですか?」


 「MarchFantasyに入る前の話だな。Marchでマーチがゲルゲンデ将軍と殴り合いの最中、足を滑らして崖から転落してからMarchFantasyで王都がドラゴンの群れに襲われるまでの空白の期間のストーリーだ」


 「なるほど!!」


 全然分からん。もはやマーチマーチ言いすぎて、ゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。

 大体、マーチの人生が壮大すぎるだろ。それにMarchからMarchFantasyって話繋がってないだろ、去年までの人の感覚では崖から転落したマーチが次回作で王女になってるのは衝撃すぎる。


 「まぁ、でもみんな話に集中したいと思うのでやっぱり軽装に着替えて来てください」


 「はぁ? しょうがねえやつだな、ったく、わーたよ」


 俺の説得に応じたシャーロットさんはすごすごとどこかに消えていった。これ以上、へんてこな格好にならない事だけを祈ろう。

 そうだ、長々と話していてナチを放置してしまっていた。拗ねてないと良いんだが。いや、アニスと違ってナチの拗ねはほぼ女児だ。なだめればすぐに機嫌を直す。俺はそう気楽に考え、振り向いた。


 「悪い、ナチ、今のは……ナチ?」


 「……」


 あ、ここにビビり散らかして気絶しているお子様が一名。ナチがこれなら子どもは漏らしちゃうだろ、良かった。注意しといて。さて、ナチは完全に白目を剥いてるし、しばらくは目覚めないだろう。仕方ない、朗読会までこのまま事務室に運んでおいてやるか。


 「軽い軽い」


 ナチ、めっちゃ軽い。ほぼ赤ちゃん並みだぞ。天使の羽は軽いっていうもんな。俺はそんな軽いナチを抱き上げ、事務室に運んだ。

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